2話‐『古代帝国』
書き方が1人称だったり3人称だったりですみません。
読み辛いかと思いますが、御容赦のほどお願いいたします。
初日にして、お気に入りが3件ありました。
ありがとうございます。
とても嬉しく、気が引き締まります。
必ず、この作品を完結させます。
ザルツは驚きを隠せないまま、オルスの報告を聞いた。
古代帝国期――――古代帝国だと?!
「馬鹿なっ…。」
「事実です、隊長。」
反論を拒むように、オルスがザルツの言を封じる。
セラルート家…いかに武人とはいえ、さすがに彼の家の出自の者よ。
オルスの眼には、否定を拒絶する光が灯っている。
『古代帝国』
滅んでから5000年とも6000年とも言われる、かつての人類の栄華の象徴。
眉唾物とさえ思いたくなる、その文明・発展の凄まじさ。
歴史書と、吟遊詩人の詩。
各地に存在する異様な遺跡。
そして失われたと言われるかつての大魔術を魔術書に残す。
現世の人間に夢を与え続ける存在であり、秘匿される存在。
鉄以上の硬さを誇る剣。
音の速度で走る槍。
斧にもメイスにもなる、羽毛の軽さの二重武器。
鉛玉を噴射する、火の筒。
全ての魔術を相殺する盾。
竜にも勝る全身鎧。
神に匹敵する魔法。
悪魔王を屈服させる魔術。
だが滅んだ。
栄華を極めながら、それでも滅んだ。
驕る文明の末路を、今生きる我々に教え諭すようにして。
ただ、尚も残され、今も扱われし遺物が存在する。
一つは『遺産』。
古代帝国期に作られた物達。
古代帝国の栄華を偲ばせる、高い文明水準が生み出した秘宝達。
そしてもう一つは『古代帝国言語』。
文字でありながら文字にあらず。
人の生み出せし魔法魔術の最高峰。
古代帝国が栄えた真の理由にして、現在秘匿される最大の理由である。
彼の予想は、おそらく正しいだろう。
形骸化した他国の『古代言語研究機関』と違い、エス・レス・カーンの名門貴族・セラルート家は、現在世界で最も古代言語を理解する学者の家だ。
その理由として、初代当主であり古代帝国研究家のオリオンから脈々と連なる歴代当主の研究成果、「古代言語の為なら竜の巣にも潜る」と揶揄されるほど古代言語にのめり込む前頭首・オレウス侯が挙げられる。
オルスは、祖父のオレウスに懐き、幼少時から古代言語――――秘匿されし文字群――――に触れてきた。
我々が知りもせず理解もできぬ古代の英知に、この部隊…いや、エス・レス・カーン国内で人一倍触れてきた男が、目の前のオルスだ。
彼が言うなら、間違いなかろう。
「…これは、面倒なことが増えたな、オルス。」
神妙に、オルスはうなずく。
本国への報告内容に困らなくなったが、これは国家レベルの措置を取らざるをえない状態だ。
今、現在現時刻を持って、この部隊は「召喚魔術使用の有無及び使われたと予想される地域の調査」から、「古代帝国言語習得者の隠匿護送及び他国への秘匿作業」へと命令が移されたに等しい。
戦場経験が国内随一のザルツは知っている。
骨の髄まで、知っている。
魔術――――人を、対象者・対象物を、傷つけ破壊する魔法――――は、戦場でまさしく暴威を振るう。
一振りの剣も、一本の槍もいらぬ。
極論すれば、身を守る盾も鎧も、相手に接近する必要もない。
ただ、他人より精密に魔力を操れればいい。
ただ、他人より多くのスペルを暗唱できればいい。
魔力を研鑽し自己を研鑽すれば、一瞬で百も千もの命を屠ることができる。
故に、魔術。
人の理を超越せしもの。
当代の魔術の極みが『その程度』なのだ。
鑑みるにすぐ理解できるはず。
今より5000年とも6000年とも言われる昔に存在した、人類の栄華の極致。
『古代帝国期の魔術』。
そんなもの、この大陸全てを滅ぼせて『しかるべき威力』のはず。
未だその時代の魔術の全貌は明らかになっていないが、確実に判明していることがある。
『古代帝国期の魔術』を使用するには、『古代帝国語――――つまり古代帝国言語――――』を理解していなければならない。
当然だ。
魔術は呪文詠唱行為で顕現する、超常現象である。
言語を知らぬものが、同じ魔術を行使できる道理はない。
古代帝国の魔術とは、古代帝国時代の人間が行っていた魔術。そのスペルは古代言語。
つまりそういうことだ。
(この男…セーヤの存在、他国へ漏れれば、10年前の大戦以上の世界大戦が勃発するな…。)
ザルツの眉が歪む。
血と、肉と、骨と、狂気。
その地獄を開く鍵が、今ここにいる。
この世界を知らぬセーヤが、己の知識の重要性を知る由もない。
この世界において、古代言語がただひたすらに一般庶民に秘匿される理由を。
古代言語は、いうなれば魔術世界の核兵器であるのだから。
この世界では、
・白魔術、聖霊魔術…『魔法』
・黒魔術、精霊魔術…『魔術』
とさせていただきます。