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Long time no see  作者: azusa
第1章
5/21

1話‐異文化ファースト・コンタクト”裏”

今、僕は縛られた状態で10人の兵士に囲まれている。

中世ヨーロッパの兵士のように全身を鎧で固め、手には槍、腰には剣をさしたステレオタイプの兵士達。


僕が彼らを視認した時にはもう遅く、いつの間にか背後をとっていた別の兵士達に押し倒された。

完成したての弓をもぎ取られ、荒縄で縛りあげられる。


困惑する意識の中、思う。

彼等は本気だ。

これは、映画とかドラマとか、そんなちゃちなものではない。

僕の行動――――一挙手一投足で、首を取られる。



「Wait!Please Wait!!」



敵意の無いことを伝えようと、拙い英語で叫ぶ。

だが全く通じていない。

通じていながら聞いていないだけかもしれないが、少しくらい反応してくれてもいいものなのに。



「kousa47utg!」


「rstdbnkj.zwjuoujml」



全く聞き取れない言葉で、彼等は叫んでいた。


これは断言できる。英語じゃない。

フランス語でもドイツ語でもない。さすがにロシア語は知らないが、この顔立ちはどうみてもゲルマン系だと思うから、ロシア語ではないだろう。


僕は洋画好きであり、吹き替えを嫌って字幕でしか見たことがない。

なので英語ならば中学生レベルで会話できる。

フランス語は、リュック・ベッソンとジャン・レノ好きがこうじて聞き取りくらいは自信がある。

ドイツ語は単に、大学で講義を受けているから数単語知っているだけだが、ニュアンスや雰囲気くらい感じ取れる。

なのに、彼等の言葉は全くわからない。


なんというか、単純に早過ぎて聞き取れないのだ。

母音だとか子音だとか、そんなもの存在していないんじゃないかってくらいに早い。

北京語や広東語は、日常会話が喧嘩しているみたいに早口だと聞いたことがあるが、彼等のような感じかもしれない。


僕を縛った後、兵士の一人がもう一人に何事か言って離れていく。

隊長でも呼びに行ったのだろうか。

と、僕の横の長身の兵士が何か話しかけてくる。



「kayendy?」


「なんですか?」


「gwso,47fhr??」


「…さっぱりわかりません。」



長身の兵士は、それっきり何も言わなくなった。



あれよあれよという間に、僕は隊長とおぼしき人物の前に突き出された。

他の兵士より一回り大きな身体に、太い首。

そんな身体つきのくせに、顔はびっくりするほど男前だった。

ジェラルド・バトラーみたいな、男らしいイケメンだ。


横の長身の兵士が、隊長に一言。

多分「こちらへ」とかそんなだろう。

うなずくようにして、隊長はこっちへ向かってくる。


金髪のジェラルド・バトラーは、間近で見ればもっとイケメンだった。

別に僕はゲイではないが、日本のマスコミがイケメンともてはやす俳優、アイドルをイケメンと思ったことがない。

男らしさをなくした男など、中性的以外のなんだと言うのか。

だからこそ、外人のスターに魅力を感じてしまう。


身長が低く、筋肉の付き辛い自分をコンプレックスとする僕は、ゆえに、反対のこうした男性的な人に憧れを持つのかもしれない。

だからつい声を漏らしてしまった。



「どうしたら、そんな筋肉つくんですか…?」



やっぱり人種の差ですかね?

そんな不謹慎なことを考えていたからだろうか、長身な兵士が槍の柄で突いてきた。

地面とキスしそうになり、あわてて膝を付いてバランスを保つ。



「husthjk」



多分、勝手にしゃべるなと言われたのだろう。

もっともなので、口を閉じた。

生殺与奪。彼等はそれを握っている。

縛られたことすら、幸運でしかない。

もしかしたら、有無を言わさず僕は殺されていたかもしれないのだから。


と、隊長は僕を突いた長身の兵士に、叱るように何か話しかけている。

咎められたらしく、長身の兵士も黙った。


さて、どうやら今度は隊長との会話らしい。



「ksryf?」



やっぱり、さっぱりわからない。

多分何かを聞いているのだろうが、意図する所が不明だ。

名前か?

どこから来たのか、か?



「名前ですか?」



まぁ、伝わらないだろうな…。

案の定、隊長は口をつむり、思案するように眉を曲げる。

そして、二度三度、今までの言葉とは微妙に違う発音で何かを聞いてくる。

余計にわからなくなった。

同じことを別の言語で言っているのか、それとも一緒の言語で次々別のことを聞いてきているのか。

頭が痛くなってきた。


相手も頭が痛いらしく、眉がどんどん曲がっていく。

非常に怖い。

視線で人を殺せるような、見方によっては殺人者のような顔つきに、肝が冷える。


すると、隊長は思いもよらない行動に出た。

自分の方を指さし、「ザゥルツ(ザルツ?)、ザゥルツ」と言い始めたのだ。


やっぱり名前か!


予想が当たり、僕も声を上げる。


「晴哉!晴哉!」


「セーヤ?」


どうやら伝わったようだが、やっぱり言語が違うためか言い方が違う。

でも、それでいい。

名前だけでも伝えられれば、相手も僕を人間らしく扱ってくれるだろう。





しばらくして、隊長が皆を集めて何かを命令している。

僕の身柄は長身の兵士に任せられたようだった。

長身の兵士は、無言で僕の横に立ったまま。



ここまでの状況を整理してみた。

恐らく、といっても確定だろうが、ここは日本ではない。

そして何より、地球ではない。

いや、地球という言い方は変だ。

かつての世界…前時代…現代…そう!現代だ!

現代ではない。


予想では過去。

中世ヨーロッパの何処か、だと思う。

兵士が様になり過ぎているし、何より現代文明の匂いを感じない。

自分は、多分タイムスリップしたのだ。

理由はわからないが、そうだとしか思えない。

これが実は映画の撮影でしたとかは到底思えない。

撮影陣も見当たらないし。


彼等の話す言語も、中世の古英語やその類だろう。

日本でさえ1000年の内にあれほど自国語が変化したのだ。


そう納得していた矢先、自分の予想を大きく揺るがすものに気がついた。

自分を見張る、長身の兵士。その、剣を納める鞘。

そこに、漢字の『強』一文字が彫り刻まれている。


……漢字だと?


馬鹿な!自分の予想では、ここは中世ヨーロッパ。

いくらシルクロードが存在しているとはいえ、騎士がお遊びで漢字を彫るか?

しかも、自分の鞘に。

だから、呟いてしまったのだ。



「キョウ…?」



瞬間、長身の兵士が、信じられないものでも見たかのように、こちらを向く。

冷静沈着そうな顔を崩し、限界まで見開かれた目は、僕を見て、次いで自信の鞘へ。



「キョウkjrts?!」



キョウと言った!

漢字の音読みが、通じる…?!



長身の兵士が、あたふたしながら自信を指さし、必死に「オルス!オルス!」と言っている。

オルス、と言う名前なのか…。



「オルス。」



そうだ、と言わんばかりにうなずき、懐から黄ばんだ紙――――羊皮紙か?を出してきた。

その羊皮紙には、鞘に彫られた『強』の一字のように、いくつもの漢字が縦に列挙して書かれている。

そして注釈のように、漢字の横には見慣れぬ文字群。


予想が崩れた。

アルファベットの筆記体ではない。

全く未知の言語だ。



ヨーロッパではない…?

衝撃もそのままに、異質な存在感を放つのは漢字だ。

なんでここに漢字が存在する?


オルスが、羊皮紙に書かれた漢字の一つ、『兵』を指さす。



「jidsesum?」



これは何だ?


そう、聞こえた。

だから……


「ヘイ」



そう答える。

オルスが、目に見えて狼狽する。

指を、下に動かす。

『戦』の文字。



「セン」



次々指を動かされた。

『剣』『鎧』『軍』『槍』『斧』といった武器防具の名詞。

『強』『弱』『泣』『痛』『倒』といった感情状態の文字。

『火』『水』『風』『土』『光』といった、古代ギリシャの四元素といった字。

その全てを音読みしたところ、ついにオルスが隊長の元に走り出した。



嫌な予感がする。

異質、その一言に尽きる。


自分にとって、未知なるこの世界。

そこに、漢字だけは既知のままに存在している事実。

久しぶりに目にした馴染みの文字に、これほどまで震えるのは何故だ?





そして、何故こんなに、嬉しいんだ?

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