5話‐恩義
更新が遅れてしまい、誠に申し訳ありません。
自分のPCが逝去しました……orz
今はネカフェから更新しております。
本当に、申し訳ないです……orz
自分は、極平凡な大学生だ。
性格は日本人のステレオタイプ。
日常といえば、朝目覚めて大学に通い、好きな歴史学を学び、本格的に迫る就活に戦々恐々とし、夕方帰宅してからすぐにバイトに行って生活費を稼いで、深夜に眠る。
夢を見ていた。
いつもの、当たり前の、ずっとは続かなくとも、しばらくは続くであろう大学生活の日々の夢。
そして田舎の夢。
実家に健在な、両親と祖父母。弟と妹。
帰る度に変わっていく故郷の風景と、変わらない家族の暖かさ。
どこで変わってしまったのだろう。
夢の中だというのに、意識があった。明晰夢というやつだろうか。
訳も分からずにこの世界に引っ張り込まれてからこれまで、薄情なことに。
郷愁とやらに苛まれた日は無かった。
漠然と「いつか帰れるだろう」という思いがあったからだ。
ああ、頭が痛い。
このまま、ずっと夢の中にいたい。
目覚めたら、僕は変わってしまう。
わかってしまう。
何かしらの力が自分にあると知った。
だから、我を通すために他人を傷付け、殺すことさえ躊躇わなくなる自分になるという確信。
それがわかった。わかっていた。
――――でも、変わらざるをえないんだろうな。
日本人のステレオタイプな僕には譲れないものがある。
「受けた恩は、必ず返す。」
それだけは守りたい。
それだけは貫きたい。
訳も分からずに引っ張り込まれた世界で、偶然にせよ、どんな意図があったにせよ、暖かく手を指し伸べてくれた人達がいた。
その人達を助けられなかった僕がいた。
今まで郷愁を抱かずに済んだ理由は、生き延びるのに必死だったことと、ザルツ隊長達が傍にいてくれたからだ。
忘れるな。
彼等の存在が、自分にとってどれだけ救いになったかを。
忘れるな。
皆のおかげで、僕はこうしてむざむざ森で死なずに済んだことを。
忘れるな。
見ず知らずの僕の為に、絶望的な状況でも立ち向かってくれた人の、貴さを。
目覚めろ。
自分への決着を付けに行く為に。
――――意識が、覚醒していく――――
光源の乏しい夜の執務室。
窓の外には、寝静まる都市と、天頂から傾き始めた月が見える。
揺らめく蝋燭の明かりを前に、椅子に腰掛けたバドルモアは思案に耽る。
"世界の意思"
昼間、アーニャに話した自身の考える仮想敵。
――――やってくれる。
それが、世界に害悪をもたらそうと画策する自分に、"今"という絶妙なタイミングで「予想通り」に「予想外」な情報をもたらしてくれた。
夜の帳が降りる頃に、各地に散らばっている部下の一人からギルドに届いた書簡。
彼の手に握られたそれには、晴哉の召喚に成功した魔術師・ロイハルトが、なんとバドルモアを裏切りエス・レス・カーンに亡命したと伝えているではないか。
……確かに、気まぐれで身勝手な男ではあった。
バドルモアの持ち掛けた計画に乗ってくれたのも、更なる古代帝国期の魔術の発展の為。
それ以外は知的好奇心。
異界、つまりはパラレルワールドから天文学的な確率で、古代帝国文字を習得した人間を無作為に召喚できるか否かを「確かめたかっただけ」。
結果として召喚には成功したが、その後のロイハルトにいかなる事情があったのか知る由もない。
唯一わかっている事実は、ロイハルトはバドルモア達暗殺者ギルドを裏切ってエス・レス・カーン側についたということ。
……自身の描く計画は、既に露呈してしまったか……。
――――今日という日を、バドルモアは忘れられそうにない。
かつての大戦時並に、密度の濃い一日だ。
「……久しぶりだよ、こんなに先が見えない状況は。」
思わず笑みを浮かべ、独り言を言ってしまうくらいに。
だが。
暗い室内に、僅かに一人分の質量が紛れ込んだ気配がした。
扉はもちろん開いていない。
バドルモアの笑みが深まる。
この予想だけは見通せていたからだ。
「斬!」
何もいない空間から発せられた声。
「壁!」
刹那、バドルモアが叫ぶ。
ギィン!!
机の前の空気が固体化し、不可視の刃を喰い止めた。
あと一秒の遅れが、バドルモアを肉片に変えていただろう。
椅子を蹴り上げるようにして、しかし無音のままに後ろに跳び下がる。
「《疾く姿を現せ》!」
バドルモアの双眸が文字通り光り、前方の空間に当たる。
バチッ!!
漏電した様な音を立て、何もなかった空間が陽炎の如く歪んだ。
透明な大気の中から、次第に色彩を帯びた影へ。
――――その影が、黒のスラックスと白のシャツを着た青年に変貌するのに、大した時間はかからなかった。
「……挨拶が過ぎるんじゃないか? 晴哉。」
笑みが止まらない。
吊り上がる口角を止められない。
久しぶりなのは、これもだった。
いつぶりだ?
自分が直に、戦うのは。
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嬉し過ぎて小説情報を二度見してしまいました。
ありがとうございます。そして、更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。