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Long time no see  作者: azusa
第2章‐暗殺者ギルド
14/21

2話‐追悼

同じ建物の中に仇がいるって、想像してていいものじゃありませんでした。

「……すげぇ。」



およそ30畳の広さの部屋に、2つの大きな浴槽。

石造りの床以外が木造だからか、こんこんと湧き出るお湯の湯気で部屋全体がサウナの様に蒸し暑い。木が腐らないのか心配になる。

天井の通気口がなければ、久しぶりに「湯に浸かる」僕は、入る前からのぼせてしまっただろう。


西洋人に入浴の習慣はない。そんな認識が日本人にはある。

でも、それは入浴の頻度の問題だろう。大体にして、お湯を沸かし湯に浸る等、水源豊かな地域じゃないと無理な行為じゃなかろうか。

ここは異世界だし、最近は、あまり元の世界の認識を持ち出すのもどうかと思い始めたが。


手元の桶に湯を入れ、手を湯に着ける。湯加減は少し高めだった。

だけど、今まで肌寒い石の牢屋にいて下がった体温には心地良い。

桶で何度かかけ湯をして身体の垢を落とすと、少し信じたくないくらいの垢が出た。


――――地味にへこむ。これは、臭うだろうな…。


かけ湯の後に軽く頭から湯を浴びて、思い切り浴槽に浸かった。

久々のお湯の温かさに、強張ったままだった筋肉が弛緩する。やっぱり、冷たい川の水ではこうもいかなかった。あと、垢も落ちにくいし…。


何度か顔をお湯でぬぐい、広々と身体を伸ばす。

実家の田舎を離れ、ユニットバスの下宿先で一人暮らしを始めてからはあまりしなくなったが、僕は入浴しながら考え事をするタイプだ。



久しぶりの入浴。

そして久々に入浴中に考える事――――初めて、目の前で親しかった人達が、殺された事。



――――そして、直接的ではないにしろ、僕も人を殺したかもしれない。





……何故、自分は、こうも落ち着いている?





肩まで深く湯に浸かりながら目を閉じると、ザルツ隊長達との3日間が蘇る。


金髪のジェラルド・バトラーそのままの隊長が、謎の生物を槍で3匹一辺に貫いたこと。


湯で少し沁みる、乗馬している時にずれた内股を撫でると、オルスと漢字について話し合った情景が瞼の裏に浮かんだ。


馬鹿みたいに重い斧を担いで、鹿に似た生物を獲ってきたアックス。


本当に僅かな時間だけど、弓を引かせてくれたイリガン。


夜に焚火を囲んで、僕の知る歌を歌うと乗って踊ってくれた、兵士達。





血。




肉。




血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉

血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉血肉





「――――っ!!」



湯から飛び出る。

身体から髪から、ぽたぽたと滴り落ちる水滴。





赤い滴。




血の水源。




フラッシュバックする。


爆ぜた。目の前で、オルスが爆ぜた。

斬られた。目の前で、アックスの腹が、ザルツ隊長の両足が斬られた。


皆を殺した、銀髪の女。

その銀髪の女を、僕も殺した――――多分、殺した。



ガン!



拳で、自分の頬を殴る。


一瞬の衝撃とその後の痛み。

意識が少しだけ、クリーンになる。



何が「落ち着いている?」だ。

馬鹿馬鹿しい。格好つけるのもいい加減にしろ。

悲劇のヒロインでもあるまいし、嫌だね全く。モラトリアムめ。


ただ、認めたくなかっただけだろう。

皆が死んだこと、自分が何もできなかったこと。

泣いたらそれが、本当のことだってわかってしまうから。実感が、生まれるから。



再び浴槽に浸かる。

髪からは、まだ水滴が滴り落ちる。


それに交じって。



「……うぇぇ……。…ひっく…。」



涙が落ちて、嗚咽が漏れた。










「――――なるほど。」



パズから異界人への概要を聞き、私はベッドに寝転がった。


ギルド長・バドルモア様からの指令は、このまま本部の医療施設で完治するまでは待機。

あの異界人――――セーヤ?セヤ?には、エレス平原で私が死んだことにして絶対に顔を見せないこと。

と、いうか。

古代帝国期の魔術使いって言っても所詮は魔術初心者(ビギナー)

正規の修行も訓練も受けていないど素人。

力ずくで言う事を聞かせればいいのに「放し飼いのほうが面白いじゃないですか。」って……。


つくづく思う。

あの人は、狂い過ぎて正気なだけだ。

ま、その後言われた「これからの計画」の方が数倍狂った内容だったけどね…。



「…よし、骨格は終わったぞ、ブランデ。」



パズに言われ、思考していた意識を左腕に向ける。


左腕にはパズの魔力で指向化された、白色光による骨が形作られている。

これが私自身の魔力と結びついて、本物に近い骨へと変態するのにおよそ27時間。

その間に、骨を覆う筋繊維・神経系・毛細血管に動静脈・真皮に表皮に皮下組織を、再び魔力で形成する作業と相成るわけだ。気が遠い。実際治療するパズは私以上だろう。


私の魔力が「元の左腕の全容」を「覚えている」から、ベースとなる魔力を他者から補填されると、能動的に欠損部を再生し始める。「魔法による治療」の大前提だ。

だからといって、欠損部の組成――――血管・筋繊維・骨格の位置・本数・流れ・組み合わせ――――がいい加減でお座成りだと、後遺症になる。

まぁ、見た目完治しているように見えても、それは魔力が「形作っているだけ」で、やはり1ヶ月2ヶ月安静させなければ完全ではないけど。



腕の立つ魔法師の条件とは、その頭脳に詰め込んだ正確無比な人体への理解。

人間の内外組織の膨大な知識。損傷の種類に合わせた臨機応変な治療アプローチとその道筋予測。

それらを極めた魔法師は、まさに現世に「神の身業」を体現せしめる「奇跡」の存在。

「奇跡級」という、「戦術級」と対を成す称号の理由。

しかし、その為に歩む道程の過酷さ故に、多くの魔力保有者が魔術師となる。

魔法を扱う者の代名詞・聖職者も、その多くは「比較的いい加減な目測で治癒可能」な「軽症」や、「魔力の過重補填」による「体内の免疫力強制強化」で治癒可能な「疫学」方面の魔法師だ。

彼の――――パズのように、人体形成のスペシャリスト(私が思う真の魔法師)は、本当に極僅か。

そして彼ほど人体理解の深い魔法師は、エス・レス・カーンのウルディアス枢機卿を除いて、西領には存在しないだろう。



「お前に、もう少し魔力が残ってたらなぁー。」



だるそうに首だけを回し、パズは溜め息をつく。



そう、今の私には、体内にほとんど魔力が残っていない。

エレス平原での戦闘で、ようやくコツをつかんだ古代帝国期の魔術を乱発し、異界人の放った戦術級を防ぐ為に最大防御魔法を使い、無声魔術で捕獲した後は左腕の失血と運搬になけなしの魔力を割いた。

その結果が、今。治療時間は嫌でも長くなる。

ざまあない。『100人殺し』も形無しだ。



しかし、何度も思う。

ギルド長も、セーヤに対してよくあそこまで残酷な事を考え付くな、と。

生粋のサドか。

狂者の果てか。

10年前の――――私に染み付いた幼少期のトラウマの大戦期、さんざっぱら殺しまくった頃のあの人に戻りつつあるのかも知れない。

いつものように柔和な笑み。優しい口調。だけど、その身体にまとった空気が狂ってた。

私が寝ている時、もしあの人に近付かれたら、問答無用で殺そうとするくらいに。



私が知らない、全世界が舞台の戦争。

あの人なら、絶対連れて行ってくれる。



その為なら、私はたくさん人を殺そう。



たくさんたくさん、たくさんたくさん。



「…おいおい、その顔は標的にだけ向けてくれよ? びびって手許狂うって。」


「…悪い。」



パズに言われ、表情を引き締めた。

昨日少し殺しすぎたかな…。


少し短いですが、8話終了です。

晴哉の心境を上手く書き表せたか心配ですが、今の自分の精一杯でした。


ザルツ隊長達とのお話に比べると、文章の書き方の毛並みが変わりましたがご容赦下さい。

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