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Long time no see  作者: azusa
第1章
12/21

6話‐戦うべき時(後編)

ある読者様から、後学となる御意見をいただけました。

そのため、誠に勝手ながら各話を繋ぎ合わせたり、サブタイトルを挿入したりしました。いらぬ混乱を招くかとは思いますが、ご容赦下さい。


これからも、一人でも多くの読者様に楽しんでもらえる作品にしていきます。

生まれてこのかた、殴り合いなんてしたことがなければ、兄弟喧嘩もない。

精々、罵倒し合う口喧嘩くらいが関の山だ。


大体事勿れ主義者の僕にとって、拳と拳をぶつけ合う世界は漫画やゲーム、映画の中のお話であって、ともすれば一種の「異世界」のような認識だった。



なんの因果か――――

その、僕が今いる所が、本物の「異世界」なのだけれど。



だからだろうか。凄く熱い。

心が、身体が、熱い。

今まで生きてきた中で、本気の怒りを感じたことはなかった。怒髪天を衝くなんて故事が、自分に舞い降りる状況など予想だにしなかった。

でもここは、僕にとっての「異世界」だ。

かつての居場所では思いもよらないことが起こる場所。

かつての常識が通用しない場所。


だからだろうか。凄く熱い。

この熱さは、感情の昂りだ。

怒りが、憤怒が、僕の心を塗りつぶす。

恐怖を、震えを、瞬く間に浸食していく。



命の危機になると、覚醒する主人公。そんなありきたりで、王道なストーリーの冒険活劇。

皆がそんなお話を好む理由がわかる。

こんな時、圧倒的な力の相手を倒す、そんな力が欲しい。



神様…。いもしない神様。でも、もし本当はいるんだったら、お願いします。

虫のいいお願いは承知です。でも、もしそれでも聞き届けてもらえるなら、お願いします。



このクソッタレな女に、一矢報いる力を、下さい――――



ごぼり。

切った口内に溜まった血が、口から垂れ落ちる。


それがトリガーだったのか――――


脳裏に、さっきの虐殺風景が蘇る。

――――ああ、そう口ずさむだけでいいなら。

自重気味の頬笑みが漏れて、それを見た女が、少し表情を曇らす。



(バク)。」



そんな虫のいい話があるわけない。

だから、これは「異世界」が起こしてくれた奇跡だろう。


女の表情が驚愕に染まり、僕を急いで投げ飛ばした。

瞬間。

女の左手が、豪快な音を立てて爆ぜ飛んだ。


短い滞空時間の中、僕の口が動く。声は出ず、唇が動いただけだけで。

「ざまあみやがれ。」、と。







油断した、油断した、油断した!

こいつは『古代帝国言語』を知っている。いや、それが母国語の「異界人」だ!

でも、なんでいきなり魔力が発動した?!

あの男の話では、召還された異界人がいきなり魔力を発動させることは皆無。

未だかつてそんな前例などないと、断言していたではないか。


……いや、これは私のミス。

レグオンの『100人殺し』たる私が、初めて得た力――――絶大な力――――の為に、慢心した結果なだけ。

イレギュラーな事態を想定できなかったこちらの過失だ。

左手は……帰還後に魔法で蘇生させればいい。完全な蘇生に暗殺者稼業は2ヶ月程は休業か。

身体が爆散しなかっただけ儲けものだ。


古代語魔術は『(ヘキ)』と『(バク)』と『(ザン)』のみ。

ならば、魔術で眠らせるしかない。初めからこうして捕獲しておけばよかったと思うものの、それこそ詮無きことか…。

捕獲対象でなければ、私を傷つけた報いを与えられるというのに、歯痒い。







警戒しながら、女が近付いてくる。

殺されるのか、口を封じて連れ去られるのか。

どちらにせよ、僕の自由が奪われる。

奪われるのなら抗ってやる。


痛めつけられたのは顔だけだ。

腹は据わった。身体に力を入れて、一気に立ち上がる。


女が、僕に右手を向け何かまくしたて始めた。

何だ?!早口で、まるでこれは――――魔法?!


女の手から、何かが迸る。光の様な、もやのようなもの。

身体が動くとはいえ、反射神経は良い方じゃないし、突然のこと。

避けられない――――



(ヘキ)!!」



だから咄嗟に口から出た言葉だ。目の前の空気が、固形化した。


バシュッ!


蒸発したような音を立てて、光のもやがかき消える。

物理的なだけではない、魔法?みたいなものも防げるのかこれ!


脳裏に電流が走る。

歯車がかみ合う感じ。

なんだ?身体が熱い。熱が湧き出てくる。身体全体が、熱に包まれる。


バク、ザン、ヘキ――――僕の予想が正しいのなら、「爆」「斬」「壁」の音読みのはず。

なら、それ以外の漢字を音読みした時、頭の中でその漢字を想い浮かべて言えば、発動する…?

「文字通り」の結果が…?



ぞくり。と、身体が震える。



これは悪寒じゃない。快感だ。

女を、倒せる力が自分にあることがわかった。攻略の道筋が定まった閃きへの、確信からだ。

身体の熱さが尋常じゃなくなる。

ああ、もう限界だ。爆発したい。声を張り上げ、思いっきり叫ぶ。


――――吹き飛べ!!



爆破(バクハ)ァァァーーーッ!!!」



身体中の熱が、一気に大気中に放出される。

一瞬の静寂。そして――――


女の立っている地面が、下からせり上がる。

亀裂が走る。地響きが起こる。

光が、地の底から噴出した。


女が顔を青ざめて何事かを呟いている。遅いよ、馬鹿。

報いを受けろ。オルスの、ザルツ隊長の、皆の報いを!


爆音と共に、まるで間欠泉の如く女の立っていた周辺丸ごとが、一気に吹き飛んだ。







「…糞っ!」


ボロボロになりながら、私は異界人に近付く。

意識は――――ないみたいだな。当たり前だ、あんなに一気に魔力を放出すれば、初心者(ビギナー)が失神するのは当然だ。


――――危なかった。

残りの魔力をありったけ込めて、即座に最大防御魔法を自分の身体に「まとわりつかせ」なければ、塵芥になっていたよ、異界人。

本当に、なんて威力だ。戦術級魔術にも匹敵する。

それを、魔術の魔の字も知らない様など素人が、気合いで成功させるなんて末恐ろしい。

…なるほど。だからこその「召喚」。だからこその「異界人」。

そして、『古代帝国期の魔術――――古代帝国語――――』が秘匿される理由、か。骨身に染みた。



「…惜しかったよ、異界人。」



当初は彼の捕獲のみの仕事だったが、結果的に彼を知る者もまとめて抹殺できたし、よしとしようか。

私の身なりは散々なものだが。


意識のない異界人に、さらに声を封じさせる魔術を施し、担ぎあげる。

……相も変わらず、軽い。なのに、今の私の体調ではひどく重く感じる。

糞。早く帰還して治療を受けないとね。


私は脚に力を込め、残り僅かな魔力で空に飛んだ。

PV1万5千超、ユニーク1千超感激です。

ありがとうございます。


今回で第1章は終わりです。次回から第2章となります。

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