刺激的な侍女の噂話
前回の嫌われ女子作で、色んなパターンがあるよと教えていただいたので。再挑戦です。
「シャーリー、久しぶりね。なんだかすっかり働く女性だわ」
「お久しぶりです。ミュー様も……ミュー様は……あんまり変わってませんね……?」
「変わったわよ。人妻だっての」
口調は怒りつつも、朗らかにミュー様が笑う。
釣られて私も自然に微笑んだ。
私の名前はシャーロット・ターレス。
ターレス伯爵家の娘で、現在は王宮の侍女見習いをしている。
目の前で優雅にお茶を飲む女性はミュリエル・グリフィス様ーーではなく、ミュリエル・フォン・アイゼンバーグ様。
同じ学園の同窓生で、卒業してすぐ結婚されたのでご本人曰くの人妻だ。
五年間を同じ学園で過ごし、卒業と同時に道が分かたれた私達だけど、ようやくお互いの生活が落ち着いたのでこうしてお茶をご一緒することになった。
「侍女見習いはどう?シャーリー」
「どう、と言われますと……。そうですね、覚えることはいっぱいありますが、ひとつひとつ身に付いていることを実感できます」
「シャーリーは真面目で勤勉だもの。成果が分かりやすい作業は性に合ってるのね、きっと」
ミュリエル様、ミュー様は私と接する時に少しお姉さんぶる。
本人は気付いてないみたいだけど、根っからの妹気質の私としてはとても過ごしやすい。
「で?」
「え?」
「彼とはどう?」
「彼、だけじゃわかりませんー」
ニマニマと笑われ、プイと顔を背けた。
お互い分かってる、それも承知だ。
「名前を出しちゃっていいの?」
「……特に何もないですよ」
「本当にー?」
「本当です」
これは本当。ミュー様が期待するような進展は、ひとつもない。
そのことが伝わったらしく、ミュー様は呆れた顔をした。
「何やってるのよアサトってば。まだ進展なしとか信じらんない」
結局名前を出されてしまった。
アサト・ワルロー子爵令息は、私達の同窓生。
男子生徒とあまり関わりのない私が彼と『進展』を期待されるまで接近したのも、元はと言えばミュー様がきっかけだ。
ミュー様は、奔放な性格からはあまりイメージされないけど、学年首席の成績だった。
一位の下は大体似たような成績の人達が順位争いをしていたのだけど、三年生の終わりから二位が固定するようになった。それがワルロー子爵令息。
二人が同じクラスになり、成績や学習のことで話すようになると、ミュー様の友達とも自然と打ち解ける。
中でも私は四年生から王宮侍女の採用試験を目指し、同じく王宮の文官試験を受けるアサト様と一緒に勉強するようになった。
二人とも婚約者がおらず、家を継がない境遇も同じで、試験勉強以外のこともよく話した。
晴れて試験に受かり、二人一緒に王宮勤めを勝ち取ったのだが……。
「……私もアサト様も、見習い期間は忙し過ぎてほとんど会えなかったんです。この間研修カリキュラムが終わったので、ちょっとは余裕が出来ると思うんですけど……」
あまりに会えてなかったが、そのことにも気付かないくらい忙しかった。
文官職も同じようなものだと聞いたので、アサト様もそうだろう。
だから、今後に期待してください。
その意を込めて見詰めると、ミュー様は肩を竦めた。
「まぁ、シャーリーがそれでいいならいいわ。でもあんまりモダモダしてると、誰かに掻っ攫われるわよ?アサトは優秀だし、容姿も悪くないもの」
うぬ。
言葉が詰まってしまった。
学園時代からアサト様はモテてた。それだけの能力をお持ちだ。本人はあまりそれに関心がなかったようだけど。
「……頑張ります」
「頑張って。さぁ、久しぶりにこの店に来たんだから、食べたい物を食べましょう!」
ミュー様は嬉々としてメニューを開く。
学生の頃、最初にミュー様と来たこのカフェは、ケーキの種類が充実してる点で私達のお気に入りだった。
アサト様とも、勉強会の帰りに何回か寄った。
少しだけデート気分を味わってたのは、息抜きとして許してほしい。
「本当は今日、空いてるかって声を掛けられてたんです」
「えぇ?」
「でも、ミュー様に会える日は変えられないってお断りしました」
「ええぇ」
盛大に呆れられた。
そんな顔されても。
「私にとっては、ミュー様とお会い出来ることも大事なんです……!」
本当に会いたかったのだ。
卒業してからの出来事を、ミュー様に聞いてほしかった。
公爵家に嫁がれたミュー様とお会い出来る機会なんて、そうそうない。
これはどうしても外せなかった。
仕方ないなぁ、と言う顔で笑われる。
「アサトも連れてきたら良かったんじゃない?」
「ミュー様、人妻になられたんですよね?」
「そうでした」
泣かれるわ、とボソッと呟きが聞こえた。泣かれる?
「じゃあ、今度はシャーリーが誘いなさい。それでチャラじゃない?」
「うう、はい……」
そうこうしてる内に、ミュー様曰くの『悔いのない注文』を決め、ケーキが来る間色んな話をする。
ミュー様の新婚生活は……なんと言うか、刺激的だった……。
私はそこまで波瀾万丈な生活をしていない。
刺激的と言えば……。
「侍女仲間に、ちょっと不穏な子がいるんです」
「不穏?」
「今はまだ何も起きてないんですけど、その内騒ぎになりそうで怖いねって他の子と話してて」
ミュー様とは違う面で奔放な侍女仲間のことを思い出した。
「騒ぎになりそうって、王宮で?」
「そうです。地方出身の子で、男爵家なんですけど。まだ婚約者がいないのは良いとして、恋愛面で奔放でして……」
「風紀を乱す?」
「乱してると言えばそうなんですが、なんて言うか……」
表現をしばし考え、ふと思い付いた。
「狩場が狭いんです」
「言い方」
また呆れられてしまったが、言いたいことは伝わったらしい。
「つまり、恋のお相手が特定の場で次々と変わる?」
「そうです。あまり騎士とか逞しい方は好まないらしく、文官職とかと付き合うんですが、期間が短い上に前の恋人の親友だったりするんです」
「狭」
当然、お相手の友情は終わりだ。
「それだけじゃなく、正式に乗り換える前に相手に手を出すんですけど。大体恋人がいる相手で」
「うわぁ、略奪?」
凄腕ね、と感心したように言われた。
まぁ凄腕ではある。
「それは乱れるわね。刃傷沙汰にならなきゃいいけど」
「騒ぎになりそうでしょう?」
「てゆかなるわよ絶対」
「ですよね」
そこでケーキが登場。しばし甘味を堪能する。
ほぅ、と一息ついてから、ミュー様は話を促してきた。
「その凄腕侍女、どうやってそんなに狩りまくることが出来るの?」
「なんでも、悩み相談から入るらしいです。『私、女の子に嫌われてるから相談が出来なくて』って」
「私、女の子に嫌われてるから相談が出来なくて〜」
なぬ?




