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評価表に、書けない項目
人事局の執務室は、夜になると静かだった。
灯りの下、リリアは評価表を前に指を止めている。
伊勢海人。
異世界出向者。
改善提案、複数件――成果、良好。
そこまでは、迷いなく書けた。
だが、その先。
(……判断力、だけではない)
討伐結果クラス分け術式。
査定士との調整。
冒険者との距離感。
すべて合理的で、冷静で、正しい。
それなのに。
ダンジョンで見た背中が、
どうしても脳裏に残っていた。
剣を握る手は震えていた。
それでも、前に出た。
勇敢、とは違う。
英雄でもない。
ただ――
現場から目を逸らさない人だった。
(人事評価に、これは含まれない)
分かっている。
分かっているからこそ、困る。
リリアは、評価表を閉じた。
代わりに、個人用のメモ帳を開く。
『伊勢海人:
判断は、数字よりも人に向く』
それを書いた瞬間、
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
(……危険ですね)
仕事としては。
けれど。
リリアは、その一文を消さなかった。




