納得が、金になるまで
ギルドに戻った伊勢は、再び冒険者に声をかけた。
今度は、反応が違った。
「……クエスト、行ったんだってな」
「登竜門のアレ、だろ?死にかけたって聞いたぞ」
視線に、拒絶はない。
同じ場所を見た人間として、見られている。
◆
「正直に言う」
仮説を伝えた直後、ある冒険者が口を開いた。
「俺たちは、命を張ってる。その結果を、“術式で一瞬”って言われると……信じきれねぇ」
別の冒険者が続ける。
「鑑定士に金を払うのはな、 “ちゃんと見てもらった”って証なんだ」
「手数料は、安心料だ」
伊勢は、黙って聞いた。
仮説は、完全に実証された。
◆
「……善意が、ズレてたな」
執務室で、シャウプは深く息を吐いた。
「はい」
伊勢は、はっきり答えた。
「冒険者が求めていたのは、公平そのものじゃありません」
「納得できる公平さです」
リリアが静かに補足する。
「術式は、“説明を省きすぎていました”」
リリアは、伊勢を見るときだけ、
書類から視線を上げるようになっていた。
◆
伊勢は、視点を変えた。
術式のターゲットは、冒険者ではなく――査定士。
「この術式、補助として使いませんか。もちろん使用料はいただきますが。」
最初、査定士たちは警戒した。
だが、使った瞬間、空気が変わる。
「……下処理が終わってる」
「判断が楽だ」
術式は、結論を奪わない。結論を支える。
◆
やがて、査定士たちから声が上がった。
「使用料を払ってもいい」
「この価値はある」
ギルドは、ようやく気づく。
――改善は、
“誰の不安を減らすか”を間違えると失敗する。
◆
夕暮れのギルド。
伊勢は、静かに息を吐いた。
シャウプが、伊勢の肩を叩く。
「お前は、本当に裏方向きだな」
「……伊勢様は、
正しい判断をされる方だと思います」
不意に、リリアがそう言った。
事務的な声ではなかった。
「ただ――それが、いつも一番“楽な判断”とは限りませんね」
伊勢は、小さく笑った。
公平とは、速さではない。数字でもない。
命を懸けた人間が、納得できるかどうかだ。
もし、それを忘れた改善なら――
それは、本当に正しいのだろうか。




