表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/100

玖拾弍 阿弗利加地方の抗争④

仏蘭ふらんす組さんや。アンタ、正気かいなコラ!

なんぼなんでも、あんだけぎょうさん余所モンばっかウチのシマに入れくさって!

さっきウチのカカァ、道歩いとったらな、余所モンにカバンひったくられたっちゅうねん!

カバンぐらいやったらゼニ出したらまた買うたるわ!ほじゃけどな、もし怪我でもさせられとったら……!

アンタ、それ、どない落とし前つけてくれんねんコラァ!!」

仏蘭ふらんす組二次団体、内務ないむ組事務所。角刈りのカタギの親父が応接で捲し立てている。


「いんや〜、ちぃと落ち着いて下さいや、呉井間くれいまの旦那ァ。

その件に関しちゃ、ウチの若い衆が今調べとりますさかいに……。」

応対している若衆は、その剣幕にタジタジだ。


「ほいでなぁ仏蘭組さん、まだ言わせてもらうで。アンタ、この前なんて言うとった?

『余所モン受け入れたらシノギも回って、ワシらの暮らしも良ぅなる』っちゅう話じゃったやろが!

……それが何やコラ!

あのボケ共、仕事もせんと一日中ゴロゴロしよってやな、そらアンタらが甘やかして小遣いやら何やらバラまきよるからじゃろがい!

ほいでその小遣いの出所がどこか言うたら……ワシらが毎月汗水垂らして払っとるミカジメじゃろうがいコラァ!!」

呉井間くれいま氏はこめかみに青筋を立てて尚も唾を飛ばしている。

騒ぎを聞きつけ、老蘭ろうらん組長が応接に入ってくる。


「いやぁ、呉井間くれいまの旦那。

そないカッカせんでも、ワシにはよう聞こえとりますがな。

ほれ、まずは落ち着きなはれ。奥方さん、ケガはしてまへんのか?

それが一番大事やさかいな。」

老蘭ろうらんは、ドカっとソファに腰を下ろすと、鷹揚に言う。


「なんやら向こう筋のチンピラが小突き回っとったらしいですがな。

まぁ旦那、安心してつかぁさい。ウチの筋でキッチリ、ケジメ取らせます。

……せやけどなァ。

まるで『ウチの若い衆がタタキに走った』みたいな物言い、そら聞き捨てならんでぇ、呉井間くれいまの旦那?」

老蘭ろうらんの声のトーンが変わる。

呉井間くれいま氏は、本職極道相手に調子に乗りすぎたことを悟り、額に一筋の汗を流す。


「……『伴龍荘ばんりゅうそう』の近所や言いよったな。

たしかにあれはウチが面倒みとる物件じゃ。

ほな、まずは一緒に見に行きましょか。モノを見りゃ、嘘かホンマか、一発で分かりますからのォ。

……ただしや。

もし『なんも無かった』んであれば、

その時は、旦那。アンタのほうがキッチリ落とし前つけてもらいまっせ。

ワシぁ筋の通らん話が何より嫌いなんでな。」

そして怒気を孕んだ声で威圧する。

老蘭ろうらん組長は、青い顔をした呉井間くれいま氏を連れて、伴龍荘ばんりゅうそうへと向かっていった。


*****

「この度はほんま、ウチの若い衆がとんだご無礼、まっこと申し訳ありまへんでした!

このアホンダラには、ワシの目の前でキッチリとケジメ取らせますさかい!」


──伴龍荘ばんりゅうそうの一室。

老蘭ろうらん組長は、怒り心頭の呉井間くれいま氏に頭を下げている。

足元には、組長怒りの鉄拳を喰らってのびている寄府よせふと……鎌吉かまよしがぶっ倒れている。


「こらァ、このドアホ!ワシがこんだけ目ぇかけてやっとるっちゅうのに、こないな馬鹿な真似しくさりよって!

……オウ、エンコ詰めェ!

そんで、呉井間くれいまの旦那に、頭下げて詫び入れんかい!」

老蘭ろうらんは革靴の先で寄府よせふ、続いて鎌吉かまよしの脇腹に蹴りを入れる。

ウーンとうめき声をあげ、二人は目を覚ます。


「あのォ、おやっさん!聞いてくださいや!この件、ワシ、ホンマ……。」

「アホンダラッ!ワレぇ、なんやブチブチ言い訳タレよんねん!まずはテメェのエンコからキッチリ詰めさらせやコラァ!あァ?

文句あんなら指落としてから言えや、ボケェ!」

老蘭ろうらんの怒りは収まらない。呉井間くれいま氏を逆に強請ってやるはずが、こうしてメンツを思い切り潰された形となったのだ。


「あァ、道具がねえんかコラぁ。……ええで、貸してやるわい!これ使えやコラぁ!」

鎌吉かまよしの頭を蹴りつけた老蘭ろうらんは、懐から匕首を取り出し、鞘を払って鎌吉かまよしの前の畳に突き立てる。

……なんでや……なんでワシが、こんな目に遭わなアカンねや……。

鎌吉かまよしは、震える手で匕首を手に取る。


*****

畳の上に、二カ所、血の跡がついている。

「旦那ァ、ホンマ、ウチのモンが迷惑かけてスンマセンのぉ。……これで、水に流してくれやせんか?」

クロコの財布から、無造作に札束を取り出し、青い顔でドン引きしている呉井間くれいまの親父に押し付ける。

ピーンと指を伸ばして開かれた状態でガクガク震えている呉井間くれいま氏の手には、先ほど老蘭ろうらん組長から押し付けられた、血の滲む、折りたたまれた半紙が乗せられている。


ポケットに無理矢理札束を押し込まれた呉井間くれいま氏が部屋を後にすると、老蘭ろうらん組長は鬼の形相で鎌吉かまよし達を振り返る。


「ワレェコラぁ!お前ら、ワシに大恥かかしてくれよったのォ!

今まで散々手ェかけて面倒見てやったんは誰や思うとんねん?

義理も返さねぇで面倒事ばかりこしらえよって、何さらしとんねんボケェ!

人手が足らんさかい、ちィとはシノギの足しになるかと思えばからっきしアカン!

食わしてやらにゃと小遣いを渡せば、今度はカタギに迷惑をかけて回る始末や!

……お前ら他所の筋から流れてきたモンをアテにしたワシがアホやったっちゅうこっちゃ!」


小指のあった部分をシャツの裾で押さえてボケっとしている寄府よせふの隣に正座し、鎌吉かまよしは悔しさに歯を軋ませる。


この日以降、仏蘭組は他所の筋からの渡世人受入に対し、非常に厳しい目で接するようになった。

……そして鎌吉かまよし達は破門され、所払いの処分を下された。


故郷に帰される車の中で、鎌吉かまよしはむせび泣いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ