玖拾弍 阿弗利加地方の抗争④
「仏蘭組さんや。アンタ、正気かいなコラ!
なんぼなんでも、あんだけぎょうさん余所モンばっかウチのシマに入れくさって!
さっきウチのカカァ、道歩いとったらな、余所モンにカバンひったくられたっちゅうねん!
カバンぐらいやったらゼニ出したらまた買うたるわ!ほじゃけどな、もし怪我でもさせられとったら……!
アンタ、それ、どない落とし前つけてくれんねんコラァ!!」
仏蘭組二次団体、内務組事務所。角刈りのカタギの親父が応接で捲し立てている。
「いんや〜、ちぃと落ち着いて下さいや、呉井間の旦那ァ。
その件に関しちゃ、ウチの若い衆が今調べとりますさかいに……。」
応対している若衆は、その剣幕にタジタジだ。
「ほいでなぁ仏蘭組さん、まだ言わせてもらうで。アンタ、この前なんて言うとった?
『余所モン受け入れたらシノギも回って、ワシらの暮らしも良ぅなる』っちゅう話じゃったやろが!
……それが何やコラ!
あのボケ共、仕事もせんと一日中ゴロゴロしよってやな、そらアンタらが甘やかして小遣いやら何やらバラまきよるからじゃろがい!
ほいでその小遣いの出所がどこか言うたら……ワシらが毎月汗水垂らして払っとるミカジメじゃろうがいコラァ!!」
呉井間氏はこめかみに青筋を立てて尚も唾を飛ばしている。
騒ぎを聞きつけ、老蘭組長が応接に入ってくる。
「いやぁ、呉井間の旦那。
そないカッカせんでも、ワシにはよう聞こえとりますがな。
ほれ、まずは落ち着きなはれ。奥方さん、ケガはしてまへんのか?
それが一番大事やさかいな。」
老蘭は、ドカっとソファに腰を下ろすと、鷹揚に言う。
「なんやら向こう筋のチンピラが小突き回っとったらしいですがな。
まぁ旦那、安心してつかぁさい。ウチの筋でキッチリ、ケジメ取らせます。
……せやけどなァ。
まるで『ウチの若い衆がタタキに走った』みたいな物言い、そら聞き捨てならんでぇ、呉井間の旦那?」
老蘭の声のトーンが変わる。
呉井間氏は、本職極道相手に調子に乗りすぎたことを悟り、額に一筋の汗を流す。
「……『伴龍荘』の近所や言いよったな。
たしかにあれはウチが面倒みとる物件じゃ。
ほな、まずは一緒に見に行きましょか。モノを見りゃ、嘘かホンマか、一発で分かりますからのォ。
……ただしや。
もし『なんも無かった』んであれば、
その時は、旦那。アンタのほうがキッチリ落とし前つけてもらいまっせ。
ワシぁ筋の通らん話が何より嫌いなんでな。」
そして怒気を孕んだ声で威圧する。
老蘭組長は、青い顔をした呉井間氏を連れて、伴龍荘へと向かっていった。
*****
「この度はほんま、ウチの若い衆がとんだご無礼、まっこと申し訳ありまへんでした!
このアホンダラには、ワシの目の前でキッチリとケジメ取らせますさかい!」
──伴龍荘の一室。
老蘭組長は、怒り心頭の呉井間氏に頭を下げている。
足元には、組長怒りの鉄拳を喰らってのびている寄府と……鎌吉がぶっ倒れている。
「こらァ、このドアホ!ワシがこんだけ目ぇかけてやっとるっちゅうのに、こないな馬鹿な真似しくさりよって!
……オウ、エンコ詰めェ!
そんで、呉井間の旦那に、頭下げて詫び入れんかい!」
老蘭は革靴の先で寄府、続いて鎌吉の脇腹に蹴りを入れる。
ウーンとうめき声をあげ、二人は目を覚ます。
「あのォ、おやっさん!聞いてくださいや!この件、ワシ、ホンマ……。」
「アホンダラッ!ワレぇ、なんやブチブチ言い訳タレよんねん!まずはテメェのエンコからキッチリ詰めさらせやコラァ!あァ?
文句あんなら指落としてから言えや、ボケェ!」
老蘭の怒りは収まらない。呉井間氏を逆に強請ってやるはずが、こうしてメンツを思い切り潰された形となったのだ。
「あァ、道具がねえんかコラぁ。……ええで、貸してやるわい!これ使えやコラぁ!」
鎌吉の頭を蹴りつけた老蘭は、懐から匕首を取り出し、鞘を払って鎌吉の前の畳に突き立てる。
……なんでや……なんでワシが、こんな目に遭わなアカンねや……。
鎌吉は、震える手で匕首を手に取る。
*****
畳の上に、二カ所、血の跡がついている。
「旦那ァ、ホンマ、ウチのモンが迷惑かけてスンマセンのぉ。……これで、水に流してくれやせんか?」
クロコの財布から、無造作に札束を取り出し、青い顔でドン引きしている呉井間の親父に押し付ける。
ピーンと指を伸ばして開かれた状態でガクガク震えている呉井間氏の手には、先ほど老蘭組長から押し付けられた、血の滲む、折りたたまれた半紙が乗せられている。
ポケットに無理矢理札束を押し込まれた呉井間氏が部屋を後にすると、老蘭組長は鬼の形相で鎌吉達を振り返る。
「ワレェコラぁ!お前ら、ワシに大恥かかしてくれよったのォ!
今まで散々手ェかけて面倒見てやったんは誰や思うとんねん?
義理も返さねぇで面倒事ばかりこしらえよって、何さらしとんねんボケェ!
人手が足らんさかい、ちィとはシノギの足しになるかと思えばからっきしアカン!
食わしてやらにゃと小遣いを渡せば、今度はカタギに迷惑をかけて回る始末や!
……お前ら他所の筋から流れてきたモンをアテにしたワシがアホやったっちゅうこっちゃ!」
小指のあった部分をシャツの裾で押さえてボケっとしている寄府の隣に正座し、鎌吉は悔しさに歯を軋ませる。
この日以降、仏蘭組は他所の筋からの渡世人受入に対し、非常に厳しい目で接するようになった。
……そして鎌吉達は破門され、所払いの処分を下された。
故郷に帰される車の中で、鎌吉はむせび泣いた。




