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捌拾漆 一帯一路盃の闇⑤

「馬鹿野郎!テメェ、このケジメどう付けるんだコラぁ!」

近平ちかひら組長の雷鳴のような怒鳴り声が轟き渡る。

ガラス灰皿が振り下ろされ、金立かねたつの頭で砕け散る。

頭を押さえてうずくまる金立かねたつの指の隙間から、血が滴り落ちる。


「ゼニはどうしたんだよゼニは!あァ?何も持たねぇでノコノコ帰ってきやがって、テメェはガキの使いかコラぁ!」

「いやあのおやっさん、錫蘭せいろん組のボケ共からは港を……。」

「あァ?テメェ、親に向かって口答えしやがるのかコラぁ!

俺はなァ、ゼニの話をしてんだよ!錫蘭組は分かったがなァ、贊比亜ざんびあ組はどうした?羅斯らおす組は?安護羅あんごら組は?肯尼亜けにあ組のボケ共からはキリトれたのかよテメェ、誤魔化すんじゃねぇぞコラぁ!」


近平ちかひら組長は、危機感を抱いている。

闇金『一帯一路ファイナンス』の融資が焦げ付くケースが増えている。

錫蘭組はまだいい。貸したゼニはある意味、その後の港の工事を中共ちゅうきょう建設が受注することで、中共ちゅうきょう組に還流してきている。

しかもこれはあくまで工事代金の支払いであり、この先錫蘭組はずっと背負わされた借金を返し続けることになるので、二度美味しい。

オマケに港も手に入れた。……これはある意味、『一帯一路ファイナンス』の成功例だ。


問題は、ゼニを貸したはいいが特に中共組のフロント企業に還流されるわけでもなく、ただただ借金が焦げ付いてるだけの例だ。

例えば贊比亜ざんびあ組は道路やダムなどを作ったが、工事は自前の贊比亜建設でやってしまった。

金立かねたつも連日コワモテを送り込んでいるがのらりくらりかわされ、贊比亜組の懐事情的に払える目途もなく、『一帯一路ファイナンス』はただゼニを出して終わった形になりつつある。


……こんなことじゃ困るんだよ。俺っちが貸してるのは、ウチの筋の札、『ユアン』じゃねぇんだよ。

近平ちかひら組長は内心頭をかかえる。

そう、『一帯一路ファイナンス』が貸し付けているゼニは、中共組の代紋札、『チャイニーズユアン』ではない。

亜米利加あめりか組の代紋札、『ユーエスダラー』なのだ。

なので『一帯一路ファイナンス』建ての貸し付けは、中共組が手元に持っている『ユーエスダラー』の裏金、『外貨準備』から貸し出すことになるのだが……当然無尽蔵にある訳ではなく、貸し出せる金額には限度がある。

これが尽きた時は、中共組が他所の組への支払いができなくなり、この『一帯一路盃』だけではなく、中共組のシノギそのものの息の音が止まる。

貸し付けた『ユーエスダラー』が帰ってこないということは、中共組にとっては死活問題でもあるのだ。


「……おやっさん、面目ねぇっす。

貸したゼニは、絶ッ対キッチリ切り取ってきやすよ。

ヤキ入れてでも、あのクソどもから金目のモン、吐かせますわ。

……で、八一組の若い衆、ちょいと貸してもらえやすか?」

灰皿で叩き割られた頭から滲み出る血を拭きながら、金立かねたつは委縮しきった声で答える。

要は中共組の二次団体の武闘派ヤクザ、『八一組』の若い衆を連れてカチ込み、資産を差し押さえようというのだ。

近平ちかひら組長は血相を変えて、もう一度灰皿で金立かねたつの頭を殴りつける。

先ほどの傷口が開き、盛大に血を噴き出すと金立かねたつはその場にぶっ倒れる。

「馬鹿野郎テメェ!そんな真似してみやがれ!亜米利加組の外道共に睨まれて、『一帯一路盃』どころかウチの組もまとめて心中だぞボケぇ!」


──『一帯一路盃』は、ユーエスダラーで成り立っている。

亜米利加組に睨まれてユーエスダラーを凍結されれば、『一帯一路ファイナンス』はユーエスダラーの融資はできなくなるし、中共組も回収したユーエスダラーを次のシノギで使うことができなくなる。

これは、『一帯一路盃』どころか、中共組のシノギの根幹を大きく揺るがす。


……もっとも中共組は通常のシノギの面でも世界列島の経済に深く浸透している。

亜米利加組が『ユーエスダラー凍結』という、その伝家の宝刀を抜いた瞬間、世界列島は大混乱に陥り、その被害は亜米利加組自身にも致命傷となって降りかかる。

実際やられることはないだろうが、それをやる能力のある相手をはした金の為におちょくるほど、近平ちかひら組長は軽率ではない。


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