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捌拾弍 中共組と西蔵組の抗争⑥

そして現代に戻る。

「いいかテメェら、ありゃタバコに火ィつけようとした間抜けが間違って焼け死んだ事故だよなァ?

西蔵ちべっと組だの何だのほざいてたかもしれねぇが、ンな奴等は存在しねぇ。

……分かったら返事せェやコラぁ!」

ドスで頬をツンツン突かれながら中共ちゅうきょう組の組員に恫喝されるカタギ衆は、涙目でハイハイ言っている。

西蔵組の組員の焼身を目撃したカタギ衆は、中共組の組員に拉致され、組事務所の広間に集められている。


「何じゃいテメェ、余所者かい!

ウチのシマで出歯亀みてぇなマネしやがって、どういう了見だ馬鹿野郎テメェ!

……オイ、ポケットの中のカメラ出しやがれ。」

欧州地方からの旅行者も拘束されている。

震える手でカメラを差し出すと、中共組の組員はひったくるように受け取り、床に叩きつけて破壊する。

「……今日ンところは所払いで許してやらァ。とっとと荷物まとめて帰りな。

あんま舐めた真似しやがると、タコ部屋送りにしてやっから覚悟せえよコラぁ!」

組員に恫喝された旅行者は、ガタガタ震えながら、別な組員に連れられて出て行く。


あとに残ってガタガタ震えている西蔵町のカタギ衆を睨みつけながら、中共組の組員はタバコに火をつける。

「……ったく、あの余所者のボケ、外で言いふらしたら承知しねぇからな。

テメェらもあんま手間ぁかけさせるんじゃねぇぞ。」


──西蔵町は、先述のとおり中共組がカチコミによって西蔵組から奪い取ったシマだ。

よって中共組に対しては恨みこそあれ忠誠度は極めて低く、このように問題ばかり起こす。これに対処するために中共組が支払うコストも相当なものだ。ハッキリ言って、亜米利加あめりか組等、別筋からのカチコミに備えることよりもゼニがかかっている。


だからと言って、西蔵組にシマを返して、代わりに兄弟盃か何かを結んで間接的に支配するという選択肢はない。

西蔵組にシマを返すということ……それは、新疆うぃぐる組、蒙古もんごる組、満州まんしゅう組、雲南うんなん組、貴州きしゅう組……あらゆる組に元のシマを返さなければ筋が通らなくなるということだ。

そんなことをしては、中共組が瓦解してしまう。


そして舎弟盃が絶対ではないことは、大清だいしん会の朝貢盃の瓦解が既に示している。

同じ轍を踏むわけにはいかない。どんなに内部抗争を抑え込むコストがかかろうとも、そしてその手法がどんなに非道なものであっても、中共組の直接支配をやめるわけにはいかないのだ。


そしてただでさえ内部抗争の阻止で手いっぱいな中共組。

統治手法に対する他所の組からの口出しに対処している余裕はない。

余所者には内ゲバの現場は見せない。見た者には口止めをする。これに尽きる。


……侵食と膨張はランドパワー系暴力団の本能であり、これを止めることはできない。

しかし膨張して巨大化すればするほど、内包した瓦解の種が芽吹いてゆく。

これはランドパワー系暴力団の宿命であり、構造的な自己矛盾だ。


「おい、テメェら、どうせプータローだろ?いいシノギがあんだよ。

外にバスが停まってんだろ?そいつに乗れや。

立派な御殿に住ませて、三度の御馳走つけてやるって話だ。……なァに、『未経験歓迎の誰でもできる軽作業』よ。心配すんな、すぐ慣れるぜ。」

中共組の組員は、煙を吐き出すと口角を上げて黒い笑みを浮かべる。


──西蔵町の裏路地に停められたバスは、窓に鉄格子が嵌められ、外からは中の様子が見えない。

乗り込んだカタギ衆は、どこへ向かうのかも知らされず、ただ中共組の若衆に「黙っとれ」と言われるままに座っている。

バスは山道を登り、数時間後、霧に包まれた峡谷の奥地に到着する。


「降りやがれコラァ!ここが今日からテメェらのヤサだ!」

若衆の怒声に押されて降りた先には、鉄条網に囲まれたプレハブ小屋群。

その奥には、巨大なコンクリートの骨組みがそびえ立っている。

それが、中共組が西蔵町に引こうとしている、水力発電ダムの建設現場だった。


「おう、こっから先は『軽作業』だ。

まずは岩削り。次に型枠組み。最後にコンクリ流し込み。

……なァに、真面目に働けば、三度の飯は出る。……死ななきゃなァ。」

現場監督を名乗る中共組の若中が、ニヤニヤしながら説明する。


作業は朝5時から夜10時まで。休憩は30分。

防寒具も安全帯もない。

逃げようとした者は、『事故』として谷底に落ちたと処理される。

……紛うことなき、タコ部屋労働だ。


ある日、連れてこられた男の一人が、作業中に手を滑らせてコンクリートに埋まりかける。

「助けてくれェ!」と叫ぶが、周囲の者は目を逸らす。

中共組の監督は、タバコを吹かしながら言う。

「……あァ、やっちまったな、お前も。

けどよ、お前のその尊い犠牲で、西蔵町の連中に電気が通るんだとよ。

ありがてぇなァ、安心して往生しとけや。」


──これがまた、中共組が西蔵町を手放せないもう一つの理由だ。

ただし、電源というのは建前だ。

……この川は、印度いんど県を流れる川の上流に位置する。

もし中共組がこのダムの水門を閉めれば、印度組のシマは文字通り干上がる。

そしてその水門を一気に開けてやれば、人為的に起こされた鉄砲水で印度組のシマに壊滅的ダメージを与えてやることができる。


印度組は「何ちゅうモンこしらえよるんじゃいボケぇ!ワレ、ワシらに喧嘩売っとるんかい?あァ?」と抗議してきているが、こちらには『電源の確保』という建前がある。

「テメェ、アヤぁつけんのも大概にせえよコラぁ!ウチのシマの中で電気通すんじゃい。何が悪いんじゃボケぇ!」と一蹴するだけだ。


西蔵町。

ここは中共組にとって、ここ一か所を失うと組全体の存続が怪しくなるアーチの要石であり、敵対する印度組へ手痛い打撃を与える強力なチャカ。

印度組にとっては中共組によって喉元に突き付けられたチャカであると同時に、西蔵組に返してやることができれば印度組を守ることのできる盾。西蔵組そのものは本質的にはどうでもよく、西蔵組の再興や西蔵町の奪還などは中共組を強請るカードでしかない。

そして西蔵組にとっては失われた故郷、西蔵町の地元民として骨を埋める場所であり、敬愛する親分の帰る場所。


今日も三者の思惑は交錯する。落としどころは存在しない。


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