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捌拾 中共組と西蔵組の抗争④

時は流れ、西蔵ちべっと組は土登とのぼり組長に代替わりした。

しかし……。


「何じゃいコラ、この舐め腐った紙切れはァ!!

こげん状ば回しよるたぁ、あの外道共……どげんな了見さらしとるっちゅうんじゃァ!!」

大清だいしん会の瓦解から暫く経った。

土登とのぼり組長は、若頭の鱈井だらいに手渡された義理回状を握りつぶす。

……その状には、青地に輝く白日の代紋が捺されている。


「何が『西蔵町は大清会のシマだったから後継者の高砂たかさご組が引き継ぐ。代紋降ろして失せやがれ』じゃい!

『朝貢盃』交わせっちゅうならまだしも、代紋降ろせたぁ、なんば抜かしよっとか!

……そもそもどこの外道じゃい、その『高砂組』っちゅうバカタレ共は!

こげん、何処の馬の骨とも分からん連中の言いなりになってたまるかいッ!!」

「おやっさん、あれ大清会とはちゃうとです!

あの外道ら、近所のシマば地上げして回りよるっちゃ。

大清会みてぇに『朝貢盃』で義理結ばんで、いきなりカチ込んで回って潰しよるとですばい!」


──高砂組。これは大清会が瓦解して立ち上がった地方暴力団組織の一つだ。

青天白日旗の代紋を掲げる中山なかやま組長。

民族、民権、民生の三民の任侠道を象徴するような、三匹の龍が円を描いて蒼天に輝く白日を取り囲む彫り物を背負う、稀代の渡世人だ。

そして大清会の最後の総裁、ラストクミチョーである宣統せんとう総裁の指を詰めさせ、大清会の息の根を止めた張本人だ。

大清会を倒した後、自身の率いる高砂組こそが大清会の後継者であると啖呵を切って回ったのだが……中山なかやま組長には、宣統せんとう総裁のような『貫目』が足りなかった。

殆どの組は、「あァ?テメェ、どこの馬の骨じゃい!」と、取り合わなかった。


大清会を構成していた暴力団組織から総スカンを喰らった中山なかやま組長。

次に実行に移したことは、反目する周辺の組にカチ込んで代紋を降ろさせ、高砂組のシマに取り込んでいくというランドパワー的な解決策だった。

そもそも中山なかやま組長は、『朝貢盃』という大清会の秩序を引き継ぐつもりはなかった。

組織における鉄の掟と、代紋への誇りによって醸成される組織への帰属意識、自分のシマを自分ごととして守り抜く気概を以て一致団結している英吉利いぎりす組や仏蘭ふらんす組等の列強筋に立ち向かうには、親分の貫目と威光だけで緩く繋がり、何をするにも親分に養われるだけで代紋を支えるという自覚が育ちづらい『朝貢盃』の秩序は全く役に立たない。

中山なかやま組長は、この列強筋と同じ秩序でこの中国地方を作り替えるべく、次々と対立組織を抗争で降し、着実にシマを掌握していった。


……この流れに、西藏組だけでなく、新疆うぃぐる組、蒙古もんごる組など、かつて朝貢盃によって大清会に臣従していた暴力団組織は、『つぎはワシらかもしれん』と戦々恐々としていたところ、例の状が回ってきたのである。


土登とのぼり組長は、目を閉じて逡巡する。

……こら、予防線張っとくに越したことはなかばい。


「おい、鱈井だらいィ!ちぃと英吉利組とナシつけてこいや。

ついでに蒙古組との盃の段取りさせぇ!

……ウチの代紋はなァ、こんなことで簡単に降ろせるほど安いもんやないっちゅうとよ。」


──ランドパワー系暴力団とシーパワー系暴力団の抗争構造はこの時代から変わっていない。

この時代は、ランドパワー系の露西亜ろしあ組が大洋へのアクセスを求めてリムランドにカチ込んでいく一方、シーパワー系の雄の英吉利組がリムランド各地の舎弟盃で押さえ込み、各地で抗争の火の手が上がっていた。

英吉利組は世界列島各地に舎弟を持ち、そのネットワークで海洋覇権を手にしている、バリバリのシーパワー筋だ。

そして英吉利組は西藏町と隣接する土地にシマを構える、印度いんど組を舎弟に持つ。

印度組との舎弟盃こそが英吉利組の海洋覇権の原動力であり、英吉利組はここを絶対に手放せない。

対する露西亜組は、ハートランドの大半を押さえる生粋のランドパワーで、中国地方に居座っている列強筋の一つだ。

ランドパワーの性として、次の一手は膨張だ。

印度組のシマに手を伸ばすのは時間の問題だ。

その上で、西藏町は印度組のシマに蓋をする位置にある、防御に適した山がちな町。理想的な緩衝地帯だ。


……英吉利組の連中、間違いなく乗ってくるばい。

英吉利組との盃は、屈辱的な舎弟盃になるだろう。

しかし、高砂組に降るということは西藏組の代紋を降ろさせられ、組そのものがなくなるということだ。

それならばまだ、英吉利組の舎弟筋として代紋を守る方がいい。


そして蒙古組だ。ここも大清会との『朝貢盃』を結んでいた地方暴力団組織であり、立場は西藏組と同じだ。

ここと兄弟盃を結ぼうというのだが、正直弱小地方組織である蒙古組と結んだからと言って、高砂組を退けられる物ではない。

『舐めんじゃねぇ!ワシらもこうやって代紋掲げとる立派な一家持ちじゃい!」という当て擦り程度にしかならないが、同じ境遇の組同士で連携するというのは心強いものである。


この時代はこの西藏組の他にも、新疆うぃぐる組は英吉利組と露西亜組両方と盃を交わし、満州まんしゅう組は大東亜共栄だいとうあきょうえい会と盃を交わすなど、破竹の勢いで支配を固めていく高砂組に対抗し、列強筋の庇護を求める盃外交が活発に繰り広げられた。


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