表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/100

漆拾玖 中共組と西蔵組の抗争③

「おやっさん、こら一大事っすばい!ちぃと洒落にならんごとなっとりますけん!」

西蔵ちべっと組の本家に帰って暫く経った烈成れつなり

若頭の土登とのぼりが息を切らせて組長室に飛び込んでくる。

「しぇからしかのォコラ!なんばしよっとかワレ!」

烈成れつなりは鬱陶しそうに湯呑を置く。


英吉利いぎりす組の外道どもがなァ……!道光どうこうの叔父貴んトコにカチ込んできやがったっちゃ!」

ああ、あのシャブ中共か。兄貴に盾突きよるとは、バカな事を……。

土登とのぼりの報告を聞いた烈成れつなりは、大清だいしん会の勝利を確信している。

200万の若衆。無尽蔵に思えるほどの丁数のチャカ。海を埋め尽くす極道船団。

これらが道光どうこう総裁の一声で一気に動く。

大昔に西藏組の親分と朝貢盃をかけて抗争になったことがあったが、その時西藏組はなすすべなく敗れ、盃を結んだと聞く。

その後は屈辱的ながら実利面では圧倒的に舎弟側にメリットのある朝貢盃でゼニの力も思い知らされた。

悔しいが貫目の全然違う、頼れる兄貴筋。それが大清会だ。


「あのシャブ屋も気の毒なこっちゃ。どりゃ、道光どうこうの兄貴に戦勝祝いの酒でも一献送りゃせんかい。」

烈成れつなりは当然のように言う。

「おやっさん……ち、違うとです!大清会は……道光どうこうの叔父貴は、負けよったとですばい!」


ほーん、負けよったか。

………………ほへ?

「何ば抜かしよっとか土登とのぼりィ!……そいで、兄貴は無事にしとるとや?」

「叔父貴は無事にしとりますたい……。

じゃけんど、手打ちでぎょうさんゼニ取られたとよ、それに香港島も取られよったとたい。」

なん……てぇ?

「そいだけじゃなかとばい!英吉利組が調子ぶっこいとるん見て、仏蘭ふらんす組やら露西亜ろしあ組やら、他所ん外道どもが次々カチ込んできよるとじゃ!もうシマが持たんばい!」


烈成れつなり組長の中にある、貫目の高い兄貴筋という大清会像がガラガラと音を立てて崩れていった。

「……何じゃい。ワシら、そげんカタギ崩れの雑魚ば相手に、今までヘコヘコ頭下げとったっちゅうとか。あほらし。

……もうよか。盃は水ばい。」

「え……あの、おやっさん……。ほんに、よかとですかい?叔父貴んとこに、助太刀行かんで……?」

土登とのぼりは怪訝そうに問う。

「あン?何ば抜かしよっとか。舎弟のために身張るんが、朝貢盃の兄貴の筋合いや。

なして舎弟が代わりに身体張らにゃいかんとや。

舎弟も守れん、シマも守れんよな兄貴なぞ、面目なかと。恥ずかしかてたまらんと思わんとやか?」

そう言われると、土登とのぼりには何も言えない。


──『朝貢盃』はあくまで兄弟の盃。兄貴分と弟分はあくまで別個の暴力団組織であり、弟分は兄貴分の代紋を借りてはいるが、その代紋に対する帰属意識のようなものは無い。

大清会と西藏組を結びつけていた物。それは兄貴筋の『貫目』だ。

しかし、英吉利組はじめ欧州地方の暴力団組織との抗争、敗北、そして屈辱的な手打ちの条件を呑まされたことから、大清会の『貫目』は地に落ちた。

もはや、大清会と西藏組を結びつけるものは存在しない。

西藏組は、大清会との盃を水にした。

そしてそれは西藏組だけではない。

新疆うぃぐる組、蒙古もんごる組、越南べとなむ組、高麗こうらい組等、満州組と朝貢盃を持つ暴力団組織が歯の抜けるように盃を水にしたり、向こうの筋の暴力団組織と裏盃を交わしていった。


その激動の時代の中、道光どうこう総裁から宣統せんとう総裁に代替わりしていたが、盃で成り立っていた巨大暴力団組織、大清会は空中分解。

宣統せんとう総裁は指を詰め、稼業を引退した。

そして各地には、一本独鈷の地方暴力団組織として再スタートを切った、かつての舎弟筋の組と、続々とカチ込んできて組事務所を建てて居座っている英吉利組など欧州地方の暴力団組織──列強筋が群雄割拠する時代が訪れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ