漆拾捌 中共組と西蔵組の抗争②
時代は100年以上前に遡る。
当時の中国地方は、大清会という巨大暴力団組織が牛耳っていた。
これは中核組織の満州組の親分が本家の大親分として、西蔵組や新疆組、蒙古組等の親分衆に『朝貢盃』という、九分一分の兄弟盃のようなものを結ばせて臣従を誓わせていた、半独立暴力団組織の連合体だった。
ここは大清会本部の畳張りの奥座敷。
金と朱の入り混じる装飾に飾り立てられ、入る者を圧倒する空間が広がる。
畳の上に、紋付袴に身を包んだ渡世人が頭を畳に着けている。
屈辱的な姿勢を取って尚、後光が差すような神々しいオーラを放っているその男は、十三代目 西蔵組・烈成組長だ。
「ツラぁ上げな、烈成。」
金銀宝石の装飾が施され、龍の彫金が輝く立派な座椅子に座る男は、静かに声を発する。
雪のように白い裃を纏い、氷の如く冷たい表情を放つこの男こそ、八代目 大清会・道光総裁だ。
「兄貴ィ、この度もお目通り願えて、ほんに恐れ入っとります。まっこと、身に余る光栄でございますばい。」
烈成組長は、三度畳に頭を打ち付け、それをさらに三度繰り返すと顔を上げる。
「おう、遠いところよぉ来やがったな。達者そうで何よりだ。最近のシノギの具合はどうだ?」
道光総裁は鷹揚に烈成の長旅を労う。
「ワシも大清会の代紋を預からせてもろうとりますけん、シノギもよう回っとりますばい。
……おーい、ブツ持ってこいや! 早よ出さんかい。
兄貴、今年のアガリですけん。受け取ってつかぁさいや。」
西蔵組の若衆が大きなジュラルミンケースを次々と持ち込む。
金剛砂、麝香、瑠璃、経巻……山のごとき宝物が道光総裁の前に並べられる。
──『朝貢盃』の舎弟筋は、このように定期的に上納金を納める義務を負う。
その代わりに兄貴筋から『その町をシメる正当な暴力団組織の組長』のお墨付きを貰い、代紋を借り、向こうの筋とのドンパチの際には若い衆を借りることができる。
そしてそれだけではなく、さらに……
「オウ、だいぶ調子よくシノギも回ってるみてぇだな。
お前みたいなやり手の兄弟がいると、俺も鼻が高ぇよ。
……オイ、ちィと小遣い渡してやれ!
兄弟、今夜はこれで一杯やって、明日からまたガツンとブチかましてこい。」
道光総裁の声で、広間の襖が開かれ、大清会の若衆が先ほど烈成組長の持ち込んだ上納金の数倍の数のジュラルミンケースを運び入れる。
広間の上手で金属音が響く。
ジュラルミンケースが開かれ、香ばしい茶の匂いが漂い、銀塊が煌めき、絹の反物が艶やかに雪洞の灯りを映し出す。
──そう、『朝貢盃』では舎弟筋は確かに上納金を納めるが、兄貴筋はその数倍の規模の『小遣い』を渡すのだ。
だから、舎弟筋は、事実上、上納金の負担はない。それどころか、有り余るほどの利益が出る。
「……兄貴、まっことありがたかことです。兄貴の貫目に縋らせてもろうて、あの西蔵町も、何とか荒事なく治めさせていただいとりますばい。」
烈成組長は頭を垂れたまま、低く言う。
道光総裁は座椅子の上で、満足げに烈成組長に視線を落とす。
──『朝貢盃』の兄貴筋は、上納金以上の小遣いを渡し、弟分のシマの守りを固め、負担ばかりに見えるが、得るものもちゃんとある。
兄貴筋が得るもの。それは一義的には『大親分としての貫目』、本質的には『シマの安定』だ。
上納金の数倍の小遣いを渡すことで、『超太っ腹でかっこいい兄貴』と舎弟筋は思い知る。
そうして舎弟筋に貫目を見せつけることで『この兄貴についていこう』と忠誠心を高めることで、ひいては大清会のシマの安定を得ているのだ。
そしてこの『兄貴の貫目』というものは、当たり前だが『弟分』がいないと成立しない。
西蔵組は盃を受けて大清会の代紋を使ってはいるが、あくまで『大清会の中核の満州組とは別の暴力団組織』という立ち位置で、大清会と西蔵組を結び付けているのは『大親分の貫目』だ。
「ところで烈成ィ、最近ウチのシマでシャブが出ている。英吉利組が裏で手ェ回してるらしい。
……売人は片付ける。コンクリ詰めにして沈めてやらァ。
お前は用心して、シマの見廻りをしっかりやれ。」
道光総裁は少し険しい表情で忠告する。
「肝に銘じとりますばい。兄貴、頼みますけん、あげん外道はきっちり叩き出してくんなっせ。お願いします。」
英吉利組がナンボのモンじゃい。ウチの兄貴とは貫目が違うんじゃ。
烈成は兄貴分の勝利を信じて疑わなかった。
しかし……




