漆拾陸 亜米利加組と胡塞組の抗争⑤
「ワレェ!死にさらせこン腐れ外道がぁっ!オラァァっ!」
高級車に箱乗りになった亜米利加組の若衆が、ロケットランチャーを発射する。
数秒遅れて、胡塞組の事務所に真っ黒な黒煙が立ち上り、さらに数秒遅れて爆発の轟音が轟き渡る。
……そこは、胡塞組が曼德海峡への攻撃に使っていた出撃拠点だった。
「思い知ったかバカタレがぁっ!亜米利加組に盾突きよるとどうなるか、キッチリ教えちゃるけェ、覚悟せェ!」
そう言うと亜米利加組の若衆は、高級車を走らせて次の標的に向かってゆく。
「ほ~ぉ、なんやコラァ。こんなとこにチャカぎょうさん、ようけ隠しとったんかいワレェ!」
ボロボロにヤキを入れられ、虫の息の胡塞組若衆を前に、英吉利組の若衆が人気のない倉庫の扉を蹴破る。
「誰の許可得てこんな火薬庫こさえとんねん!どないな了見やコラァ!」
そして手榴弾のピンを抜き、倉庫に放り込む。
猛ダッシュで倉庫を離れる英吉利組の若衆の後ろで、大爆発が轟き渡る。
「おい、待たんかいオッサン。
ワレ、どこのモンや?テメェの名前言うてみィや!」
繁華街で、以色列組の組員がすれ違った男に声をかける。
男は無言で立ち止まると、振り向きざまにチャカを抜き放つ。
……だが、以色列組の若衆が発砲する方が早かった。
胸から血を噴き出させながらその場に崩れ落ちる男に、以色列組の組員は吐き捨てる。
「……まぁ、わざわざ名乗らんでも、ワシゃあおみゃあのことぐらい知っとるがや。
羅破植の親分さんやろ、アンタぁ。」
物言わぬ身体となった胡塞組の羅破植組長からは、当然返事は返ってこない。
以色列組の組員は電話を取り出し、根谷屋組長に電話をかける。
「おやっさん、片付きましたわ。……ええ、タマぁ、きっちり取ってきましたで。」
*****
亜米利加組、英吉利組、以色列組と胡塞組の抗争はまだ散発的に続いている。
重要な組事務所に被害を受け、チャカを壊され、親分のタマを取られた胡塞組はだいぶ弱体化し、曼德海峡にはひとときの平和が訪れたように見えた。
そして今、鳴門組長は紋付袴を身に付け、テレビの前に座っている。
今日は濃辺平和賞の発表だ。
隣では、シャンパンの瓶を手にした若頭の萬洲と、鳴門に呼び出された根谷屋が座っている。
……根谷屋は何とも言えない顔で帰りたそうにしている。
「のォ、根谷屋の。ワシゃこれまで、どうしようも無ァ馬鹿共のドンパチを一つずつ終わらしてきたけェのォ。
こン世界列島の平和っちゅうのは、ワシで持っとるようなモンじゃろうがい。」
鳴門は、上機嫌だ。
「おやっさん、そろそろでっせ。」
萬洲はシャンパンのミュズレの針金を解く。
鳴門と萬洲は期待のこもったまなざしで、根谷屋はこの世の終わりのような表情でテレビの画面に見入る。
しかし……
「……ハァ?誰じゃいこのバカタレは?」
……鳴門組長の名前が読み上げられることはなかった。
そして鳴門の表情が、落胆から怒りに変わってゆく。
「ワレェ!待たんかい根谷屋ァ!」
コソコソと部屋を抜け出そうとしていた根谷屋は動きを止める。
背中を冷や汗が伝う。
「おどれ、ワシが折角ナシ付けちゃった巴勒斯坦組との手打ち潰しよってからに!
ワシの濃辺平和賞を潰しよって!許さんぞワレェ!エンコ詰めてケジメ取らんかいコラぁ!」
……根谷屋は、猛ダッシュで部屋を飛び出して逃げていった。




