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漆拾参 亜米利加組と胡塞組の抗争②

「ワレェ!根谷屋ねたにやァ!おどれ、ようもワシのツラぁ潰しよったのォ!しかも、一遍きりやのうて、こりゃぁ二回目じゃろうがい!

もう堪忍ならんわ!エンコ詰めてケジメ付けんかいボケぇ!

オウ、萬洲ばんす!道具持って来んかい!」

鳴門なると組長の割れ鐘のような怒号が響く。

先日の以色列いすらえる組の暗殺未遂劇。鳴門なると亜米利加あめりか組の事務所に根谷屋ねたにやを呼び出し、怒りをぶちまけている。


「兄ィや、ワシゃ一体何に対して指詰めりゃええんですかい?

ウチは巴勒斯坦ぱれすちな組と揉めとる最中だで、カチコミかけるんは当たり前の流れだがね。

向こうの筋にカチ込んだらワシがケジメ取らなあかん言うなら、兄ィの指、あと何本残りますかねェ?

……ああ、灰谷はいやの外道のタマぁ取り損ねた件ですかい。

そりゃワシもちぃと下手ぁ打ちましたわ。それで兄ィのツラ汚した言うなら、ワシも腹括らしてもらいますわ。」

そう言うと根谷屋ねたにやは、ヘラヘラしながら萬洲ばんすの持ってきたドスに手をかける。


「違うわバカタレがぁっ!おどれ、ここでもワシをナメ腐りよるんかコラァ!

ワシの送りよるチャカが無けりゃ、喧嘩の一つもできんクセしとってのォ、そのチャカでワシに恥かかせよるとは、どういう了見じゃいコラァ!チャカ送るん、止めたろかオラァァ!」

鳴門なるとは怒りを露わにして立ち上がる。


すると根谷屋ねたにやも静かに立ち上がると、鳴門なるとの肩に腕を回す。

「兄ィ、ワシゃ兄ィのチャカがなけりゃあ、ケンカもできゃせんがね。

兄ィが居らんようになったら、巴勒斯坦ぱれすちな組だけやあらへん。黎巴嫩ればのん組やら叙利亜しりあ組やら、伊蘭いらん組の息かかった連中がドヤドヤ押し寄せてきて、ウチは代紋降ろすことになりますわ。

せやけど兄ィ……ホンマにそれでええんですかい?」

そして鳴門なるとを挑発するように言う。

……それに鳴門なるとはグッと言葉を詰まらせる。


──以色列組と亜米利加組は相互依存の関係だ。

亜米利加組のチャカがないと以色列組は喧嘩ができないのと同時に、以色列組がいないと亜米利加組は中東地方の睨みを失う。

これはつまり、東地中海や紅海での海の覇権を失うことになり、中東地方の覇者が伊蘭組となり、ひいてはそのバックにいる露西亜ろしあ組や中共ちゅうきょう組が院政を敷くということだ。

中東地方はリムランドの要衝。これが露西亜組や中共組の手に墜ちるということは、ハートランドとリムランドが繋がり、『覇権国家』の誕生に繋がりかねない。


そして以色列組は亜米利加組の優秀な鉄砲玉だ。

中東地方での黒い仕事も、以色列組が汚れ役を買ってくれるので亜米利加組は手を汚さずに済む。

そして以色列組も、その黒い仕事の後で亜米利加組が徹底的に擁護し、揉み消してくれるので、手段を択ばない戦いができる。


この相互依存の関係があるからこそ、以色列組は周りを見れば敵ばかりの中東地方でしぶとく生き残り、亜米利加組は海の支配を維持できている。


「どや、兄ィ。まだ何か言いたいこと、あるんかいな?」

根谷屋ねたにやは挑発するように言う。

「グッ!……ええい、兎に角おどれは暫く頭冷やして大人しうせェ!これ以上揉め事起こすんじゃ無ァ!

おどれ、ワシが濃辺のうべ平和賞逃したらどう落とし前付けるんじゃいコラぁ!」

鳴門なるとは言葉に詰まりながらも、顔を真っ赤にして怒鳴る。

「兄ィ、濃辺のうべ平和賞はワシからも推薦しといたがね。心配しなさんな。

……ほんなら、謹慎もせなアカンし、ワシゃこれで失礼さしてもらいますわ。

兄ィ、ワシゃアンタに感謝しとるがね。これからも、末永く、よろしゅう頼んますわ。」

根谷屋ねたにや鳴門なるとの肩をポンポンと叩くと、組長室を出て行ってしまった。

あとに残された鳴門なるとは、苦虫を噛み潰したような顔で立ち尽くしている。


「あのォ、おやっさん。」

渋い顔をした萬洲ばんす若頭が入室してくる。

「何じゃいワレェ!あとにせェ!」

鳴門なるとは忌々しそうに返す。

「それが……ちぃとこれを。」


萬洲ばんすは、折りたたまれた上質な和紙を鳴門なるとに差し出す。

胡塞(ふーし)組の外道ども、こがぁ状を回しよったんじゃけェ……。」

胡塞組の代紋が捺されたそれは、世界列島の各組に出された義理回状だった。


『亜米利加組、以色列組

右の者共、任侠の道を踏み外し、己が欲に目を眩ませた上の、巴勒斯坦組に対する犬畜生にも劣る外道の振る舞い、断じて許し難く存じます。

かかる非道、我が一門として黙して見過ごす訳には参らず、つきましては、これより曼德まんでぶ海峡を通る亜米利加組・以色列組の筋の船舶に対し、我が一門、義の名の下に天誅を下す所存にございます。

御賢台様方におかれましては、右の旨、しかと胸に刻み置かれますよう、ここに本状を以て申し上げ候。』


──曼德海峡。ここもまた、暴対課にマークされる『チョークポイント』の一つであり、ここもまた世界列島の物流の命脈だ。

亜細亜地方と欧州地方は活発にブツが取引されているが、曼德海峡―紅海―蘇伊士すえず運河と通り、地中海に抜けるのが定番ルートだ。


それでいて、ここはやたらと幅が狭い。

曼德海峡は、東の中東地方、西の阿弗利加あふりか地方に挟まれた海、紅海の出口だ。

ただでさえ細長い紅海だが、出口である曼德海峡はさらにすぼまっている。

その幅は30㎞ほどしかない。

たったこれだけの幅の陸と陸の隙間を、世界列島を行き来する海上貨物の実に3割が通っていく。


ここにも、『チョークポイント』の摂理が働く。

『通る者』より、圧倒的にそこを『守る者』が有利なのだ。

本来そこを『守る者』は、亜米利加組の兄弟筋である也門いえめん組なのだが…。

也門組は、什葉しーあ会から盃を受ける、胡塞組との内部抗争の真っ只中だ。

胡塞組は同じく什葉会との盃を持つ伊蘭組からのチャカ供与を受け、曼德海峡に隣接するシマを奪取。

曼德海峡は今、胡塞組の支配下にある。


この回状の意味するところは、『什葉会の兄弟である巴勒斯坦組を攻撃する、亜米利加組や以色列組と関わりのある暴力団組織の船が曼德海峡を通過したら攻撃する』という、胡塞組からの警告状だ。


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