漆拾 亜米利加組と伊蘭組の抗争③
「おいコラァ、ワレェ!ウチのシマにいきなりカチ込んでくるとは、どんな了見やて!」
伊蘭組の嵌根組長が顔を真っ赤にして怒声を張り上げる。
「おどれ、自分の胸に手ェ当ててよう考えてみぃや、このバカタレがぁっ!
ワレェ、コソコソとアトミックチャカこさえようとしとったんじゃろうがい!
そがぁモン突き付けられて、ワシが指咥えて突っ立っとると思うとったんかい!あァ?
こりゃあ、先に手ェ出しても『先制正当防衛』じゃろうがい、のォ、刑事さん方ぁ!」
亜米利加組の鳴門組長も負けじと嵌根を罵倒する。
──伊蘭組の『核施設』へのカチ込み抗争事件。
重要参考人として、鳴門組長と嵌根組長は警察署への出頭を要請され、喧々諤々の罵倒合戦を繰り広げている。
「あァ?おみゃあ、一体なんの根拠あってウチがアトミックチャカこさえとる言うとるんやて!
ワシゃなァ、ちゃんと回教一家の盃もろとる身やがね。
アトミックチャカは禁止──それが回教一家の掟やて、常識やろがい!
あれはなァ、カタギの暮らしをちぃとでも楽にするための民生用やて!
アヤぁつけるんも、ええ加減にしときゃあよ、コラァ!」
嵌根組長は真っ向反論する。
──嵌根は平和目的の民生用と詭弁を振るうが、そんなものは勿論大嘘である。
当然、アトミックチャカを作る気で研究を続けている。
嵌根は、アトミックチャカを持たずに亜米利加組に盾突く者の行く末を見てきている。
まずは隣町の伊拉克組。伊蘭組との抗争のあと暫くすると、蘇連組が崩壊した。
亜米利加組にとって伊拉克組は所詮、伊蘭組が蘇連組と接近するのを阻止するための駒だ。
用済みとなった伊拉克組は亜米利加組とその兄弟筋の組にカチ込まれ、袋叩きに遭い、組長の臥院はコンクリ詰めにされて沈められた。
そしてもう一つは伊蘭組の兄弟筋だった叙利亜組だ。
ここは亜米利加組の兄弟筋の以色列組の宿敵であり、露西亜組の兄弟筋だ。当然亜米利加組と敵対してきた。
叙利亜組は暫く内部抗争にあったが、亜米利加組は、麻渡組長に敵対する派閥を支援した他、混乱に乗じてシマにカチ込んだ。
麻渡組長の派閥は弱体化し、結局指を詰めさせられてシマから所払いさせられた。
……次はこの伊蘭組であり、嵌根の番だ。
嵌根は強い危機感を持っている。アトミックチャカさえあれば、亜米利加組の好きにさせず、組を守ることができる。
嵌根はチラリと刑事達に目をやる。
中共組と露西亜組の刑事達と目があう。
……この世界列島、警察はヤクザとズブズブなので、刑事も各組の組員がなり替わっているのだ。
ヤクザがヤクザを取り締まるという、こんな構造だから、この世界列島からヤクザ抗争がなくなることはないのだ。
……兄ィ……アンタら、さっきからなんで黙っとるんやて。ホンマ、頼りにならん兄弟やがね。
こないな時に口つぐんどって、誰がワシの背中守るんや。
……結局なァ、ワシゃ自分の身は自分で守らなアカンのやて!
嵌根は気合を入れ直す。
──亜米利加組があれだけ恐れていたことではあったが、結局伊蘭組は中共組、露西亜組と盃を結んだ。
……しかし、この兄弟がまるで役に立たない。
中共組にせよ露西亜組にせよ生粋のランドパワーであり、自分のシマの周りを緩衝地帯の傀儡暴力団で固めることには熱心だが、亜米利加組ほど戦略的にシーレーンを防衛するという意識は強くなく、シマから遠く離れた伊蘭組への支援は満足に届かない。これは以色列組を全力で支援して、どんな外道行為を働いても擁護する亜米利加組とは対照的だ。
結局、自分のシマは自分で守るしかない。
幸い、中共組も露西亜組も、伊蘭組のアトミックチャカ開発には何も言ってこないどころか、手間がかからなくなると歓迎している雰囲気もある。
文句を言ってくる亜米利加組の筋とは元々これ以上関係が悪化しようがないほど仲が悪いので、アトミックチャカ開発による義理付き合い上のデメリットは何もないのだ。
──そして、アトミックチャカは亜米利加組を強請るのに使える。
こちらが「しゃーないがね。そこまでアンタらが抜かすんなら、ちいと研究の手ぇ止めたるわい。」とでも言って、アトミックチャカ開発をフリだけでも止めてやれば、見返りに色々なものを引き出せた。
亜米利加組の先代、梅傳親分の代ではだいぶいい思いをさせてもらった。
「根拠じゃとォ?なに抜かしよんのんじゃコラァ、このクソボケがァッ!
ウチが出鱈目言うとるっちゅうんならのォ、ウチの若いモン、すぐにでも調べに行かしゃあけんのォ!
そしたらおどれが五体満足でおれる保証なんぞ、どこにも無ァがのォ!!」
鳴門組長は激昂し、怒声を振り撒いている。
……この男ぁ、どうも強請れそうにゃあな……。
嵌根は、対話路線を諦める。




