陸拾玖 亜米利加組と伊蘭組の抗争②
30年ほど前、誉井組長の跡目を継いだ嵌根組長は、アトミックチャカの開発を始めた。
襲名早々、嵌根組長はこう言った。
『アトミックチャカ? あんなモンは外道のオモチャやて。
回教一家の任侠の筋じゃ、あんなもんは認めとらんがね。ウチはそんなモン、持たん。
……せやけどな、作る技術そのもんは、別に一家の掟外れとるわけやない。技術持っとるだけなら、まぁ筋は通っとるやろ。』
アトミックチャカは持たないが、作る技術は開発する。
……それは『アトミックチャカ持ちます』と言っているのと何ら変わらない。
──亜米利加組が嵌根のアトミックチャカ開発に気づいたのは20年程前のことだ。
これに、亜米利加組は戦慄する。
「ワレェ!ええか、この世界列島にはのォ、3つほど、どうしようも無ァ外道がおるんじゃけェ!
それが伊蘭組、伊拉克組、白頭組の外道共じゃ!
こんボケ共はのォ、『外道の枢軸』じゃけェ!亜米利加組に盾突きよるなら、容赦せんぞコラぁ!」
当時の武主組長は激怒し、啖呵を切った。
伊蘭組にアトミックチャカを持たれると、亜米利加組の海の天下が終わりかねない。
第一に、以色列組の優位が揺らぐ。東地中海や紅海の亜米利加組優位は、武闘派ヤクザの以色列組が中東地方で優勢だから成立している。
伊蘭組のアトミックチャカは中東地方の勢力図を書き換えかねず、もし以色列組が伊蘭組の軍門に降ることがあれば、亜米利加組の東地中海・紅海覇権が終焉する。
第二に、中東地方における亜米利加組の貫目が守れなくなる。
今、中東地方は亜米利加組がアトミックチャカを突き付けて筋の違う組を黙らせることで、沙特組や土耳古組の兄弟筋を従えている。
しかし伊蘭組がアトミックチャカを持てば、これら亜米利加組の兄弟筋も同様に持ち始めることになる。
結果亜米利加組の『アトミックチャカの傘』の価値が下がり、亜米利加組の意向が通りづらくなる。
第三に、筋の違う伊蘭組にこんなものを持たれてしまっては、亜米利加組は見廻りにあたる若衆を増強しなければならなくなる。
そうするとインド太平洋等、他のシマの見廻りが薄くなり、結果中共組や露西亜組への抑え込みが甘くなる。
そして何より、伊蘭組は忽魯謨斯海峡を支配する。
武主組長の代でも已然亜米利加組の命脈である忽魯謨斯海峡。ここを押さえる伊蘭組は亜米利加組の生殺与奪を握っているとも言える。
そんな伊蘭組がアトミックチャカを手にすることなど、亜米利加組にとって悪夢以外の何物でもない。
武主組長以降も、先代の梅傳組長に至るまで、亜米利加組は緩急剛柔使い分けながらアトミックチャカ放棄を働き掛けてきたが、いっこうに効果がなかった。
そして現代に戻る。
ここは卡塔尔組のシマにある亜米利加組の組事務所。
黒塗りの高級車がエンジン音を轟かせながら発進を待っている。
組員達が慌ただしくトランクにチャカを積み込んでいる。
「辺久瀬ェ!おどりゃ、若い衆の支度はできとるんかいのォ?しくじるんじゃ無ァぞ!」
鳴門組長が出撃を控えた若衆に檄を飛ばしている辺久瀬代行に声をかける。
「嵌根の外道共が、アトミックチャカなんぞこさえよるけェのォ……
あがぁチンケな工場の小屋ァ、まとめて吹き飛ばしてやらんかい!」
──遂に、鳴門組長は、伊蘭組へのカチコミを決意した。
「任しといてつかぁさいや、おやっさん。
この『B-2』でドカンとカチ込んでやりますけぇ、あがぁ外道共の小屋なんぞ、灰にしてしまいますけぇのォ。
嵌根の外道らぁ、ションベン垂らして詫び入れてきますけぇ、大船に乗ったつもりでおってつかぁさいや!」
辺久瀬は高級車『B-2』を撫でながら胸を張って答える。
この『B-2』は、世界列島広しと言えど亜米利加組が数台持っている程度の超高級車だ。
威圧感も凄まじく、並のヤクザは『B-2』が近くにいるという噂を聞いただけで震え上る。
「叔父貴、準備はできとりますけぇ。これから行ってきますけぇの。
……もしもん時は、骨、拾うてつかぁさいや。」
米軍組の鉄砲玉が辺久瀬に挨拶に来る。
「オウ、おどれも男のツラになったのォ。気ぃ付けて行ってこいや。
……なァに、今回のヤマはたかだか『器物損壊』じゃけェのォ。
不起訴になるように手ェ回してやるけェ、思う存分暴れてこいや!」
辺久瀬は鉄砲玉の背中をバシンと叩いて激励する。
塀の鉄門扉が重たい音をたてて開く。
そこから、『バンカーバスター』というチャカを満載した高級車『B-2』が猛スピードで走り去っていった。




