陸拾弐 梨花富会の盃③
「……そういう訳じゃけェ、おどれら。今日からワシらは兄弟じゃ。」
潮騒の料亭、『志蓮苑』。
ここの奥座敷に、旭日組と、村加海峡の『海賊』に頭を悩ませている組の親分衆が集結する。
伯帯庇亜組や馬来亜組の他、東南亜細亜地方の暴力団組織を束ねる亜世安会に所属する組の大半の他、中共組や大韓組等、村加海峡を通じたシノギに大きく依存する暴力団組織の親分衆が顔を揃えている。
……この寄り合いを呼びかけた言い出しっぺの旭日組の他、シマにある大きな港での港湾業が大きなシノギとなっている星州組等はノリノリで出席している一方、亜世安会の面々は嫌々連れてこられたのが見え見えで、不承不承ここに座しているのが表情からも滲み出ている。
「ええか、おどれら。ワシはここに、梨花富会を旗揚げするけェ。
こりゃあのォ、おのおのの組が責任を持って村加海峡の見廻りを分担するための会や。
村加海峡から『海賊』の外道共を叩き出してやるんじゃけェ、おどりゃ、キッチリ筋通せや!」
そう言うと和泉は、床の間の三宝に手を伸ばす。
「待たんかコラァ、和泉ィ……!なんば勝手に話ば進めよっとかい!
なんでウチらが、そげな面倒ごとまで背負わにゃならんとばい!」
亜世安会の親分衆のあたりから、なぜウチが協力しなきゃならんのかと抗議の怒号が飛ぶ。
「あァ?おどれのシマにもでけェ港があろうがい。
村加海峡がワシらの代紋の筋の通った海になって、『海賊』の外道共を叩き出してやりゃぁ、おどれのシノギもよう回るようになるじゃろうがい。
見くびるなや?ワシがのォ、おどれらを鉄砲玉に仕立てて、ワシだけが甘い汁吸うて逃げるつもりじゃ思うとったら、ええ加減にせぇや!」
和泉は、これは別に旭日組だけの為のものではないと言い、取り合わずに一蹴する。
「コラぁ!話は終わっとらんばい!
いくらここで兄弟の盃ば交わすっち言うてもなァ、こげん組の若衆がチャカ持ってワシのシマの海ばウロウロしよるっちゅうこっちゃろが!
そげんこつされたら、ワシらは枕ば高うして寝られんとばい!」
また亜世安会の親分衆から、色々な組の船が海峡防衛を大義名分にシマをうろつかれては困ると怒号が飛ぶ。
「何じゃコラぁ!
なんでワシらが若い衆出して、おどれのシマぁ守ってやらにゃいけんのんじゃワレェ!
自分のシマは自分で守るんが筋じゃろうがいッ!
会員が『海賊』っちゅう外道見つけたら、通報はしてやるけェのォ、テメェが自分でタマ取りに行けやコラァ!」
和泉は自分のシマを守るのは自分だろ、何を当たり前のことを、と一喝する。
「なァにを綺麗ごとばっか抜かしよるんじゃ、和泉ィ!
ウチだけでものォ、万を超える島ば抱えとるんじゃい。
ただでさえのォ、ウチのシマば守るんで手ぇ一杯っちゅうとに、こげん広か村加の海峡ば、ワシらの手ぇでどう守れっちゅうんじゃ、あァ?」
伯帯庇亜組の湯豊野組長が、ただでさえ手が足りないのに無茶を言うなと怒声を張る。
「シマの見廻りもろくにできんでのォ、どのツラ下げて極道の渡世張るっちゅうんじゃ、コラァ!
ワシら旭日組がのォ、おどれらの若い衆の海の見廻りの所作、根こそぎ叩き直したるけぇのォ。」
和泉は、参加する組の若衆を鍛え直して海での戦い方を訓練することを約束し、黙らせる。
「待て待て、まだまだ言うことはあるばい!
だいたいよォ、そんゼニをどげんすっちゅう話じゃろがい!
誰が出すっちゅうんじゃい、ワシらがケツ持つんかい!」
馬来亜組の羽田上組長が金銭面の不満を述べる。
「極道がしみったれたことグチグチ抜かしよったら、終いじゃろうがい!
安心せぇや、羽田上の。
ゼニのことならワシと和泉の親分でケツ持っちゃるけぇ、文句は言わせんど。」
和泉に代わり、星州組の竜城組長が柔和な声で窘める。
そして懐から札束を取り出すと、畳の上に叩きつける。
隣に座る和泉も同様に、札束を畳の上に叩きつける。
『そいなら……まぁ、悪か話やなかばい……。』
親分衆は顔を見合わせて声を揃えて同意する。
……伯帯庇亜組の湯豊野組長と、馬来亜組の羽田上組長以外は。




