陸拾壱 梨花富会の盃②
「コラァ!おんどれ、テメェのシマもまともに締めれんのかいのォ!
ウチの若いモンが一人、白い着物着とるんじゃ……そのケジメ、どう付けるつもりなんじゃコラァ!」
旭日組の和泉組長は激昂し、怒声を張り上げる。
先日の『海賊』の襲撃による若衆の殉職。
和泉組長は激怒し、伯帯庇亜組の日本島事務所にカチ込んで来たのだ。
怒りに任せて和泉が振り下ろした木刀に、玄関先の壺が粉々に砕かれている。
「お…親分さん……こいは、なんちゅうたらよかとですか……
このたびは、ほんに……ご愁傷様でごわす……。」
何とも言えない引きつった表情を浮かべた、伯帯庇亜組の若中が和泉を出迎える。
「なにをノウノウと他人事みたいにぬかしとるんじゃコラァ、このバカタレが……!
村加海峡はおんどれのシマじゃろうが!
自分のシマで『海賊』が好き勝手しとるんを、なんで放っとるんじゃ……!
ケツ持つんが筋じゃろうが、キッチリ落とし前つけんかいコラァ!」
和泉は尚も凄まじい剣幕で伯帯庇亜組を非難する。
「親分……お気持ちはよう分かっちょります。
じゃっどん、あの『海賊』の外道どもが、ほんにウチの組の者っち言いきれるとですか?
証拠もなかまんま、アヤぁつけられたら──こっちも黙っちゃおれんとですばい。」
「ワシぁのォ、誰がやったかなんて話は一言も言うとらんのんじゃ!
じゃけェの、ワレのシマで起きたことなら──ワレがケジメ取るんが筋っちゅうモンじゃろうがい、コラァ!」
「それなら、なおさらですばい、親分さん。
地図ば見てみてくだされ。たしかにウチのシマと重なるとこもありますばってん──
あすこは星州組や馬来亜組も、しっかりシノギ張っとる場所じゃなかですか。
それを頭ごなしにウチば責めるような言い方は、ちいと筋が通らんとですばい。
それにこれ──場所的に見ても、星州の領分じゃなかですかね?」
ここまで言われると、和泉も返す言葉がない。
「ワレェ……ちぃとそこで待っとれやコラァ!
……これから星州と馬来亜の筋にナシつけに行ってくるけェの。
じゃがのォ──もしホンマにお前らの仕業じゃったら……ワシが黙っとる思うなよコラァ、覚悟しとけや!」
踵を返した和泉は、星州組と馬来亜組の事務所に木刀を持ってカチ込んでいく。
初手でそれぞれの組の玄関先の壺を叩き割り、事情聴取に臨んだが…結果は同じだった。
星州組は馬来亜組が怪しいという。
馬来亜組は伯帯庇亜とナシを付けろと言う。
……各組が責任をなすりつけ合い、堂々巡りだ。
しかし、課題も見えてきた。
伯帯庇亜組は万を超える島を持つ。一つ一つの島に伯帯庇亜組単独で睨みを利かせる力はない。
馬来亜組は子分筋の二次団体の仲が悪い。協調して沿岸に睨みを利かせることができない。
星州組は自分のシマの港の見廻りで手いっぱいだ。村加海峡全体に睨みを利かせる力はない。
……要は、どの組も海峡の危機を自分事と捉えて協調して『海賊』対策に当たろうという意識がない。
そしてそもそも広い村加海峡を防衛する力が足りない。




