伍拾捌 亜米利加組と委内瑞拉組の抗争③
「いんやー、眞土呂の親分。知っておられるけェ?『虚偽申告罪』ちゅうもんがあってのォ。
……アンタ、黙っといた方が身のためやで?」
ニタニタと笑いながら、亜米利加組の刑事は手錠をジャラジャラ言わせる。
「のォ、刑事さんや──あの映像、よう見たじゃろが。
あれがシャブ運びよる船じゃなかったら、ワシらの目ェ節穴っちゅうこっちゃ。
ワシらもなァ、ちゃんと調べて、筋通して確認しとるんじゃ。」
辺久瀬はわざとらしく隣に付き従えている亜米利加組の刑事に説明する。
「それとのォ、あの外道──チャカ持っとる気配があったけェのォ……ワシらもしゃあなしに、先に手ェ出させてもろたんよ。
……こっちかて好きで撃っとるんとちゃう。
こっちが黙っとったら、向こうが調子乗るけェ、先に動いたんじゃ。」
亜米利加組の刑事はうんうんとわざとらしく頷きながら辺久瀬の話を聞く。
「亜米利加組の代行さんもこう言うておられますけェのォ、眞土呂の親分。
こりゃ先制正当防衛の範疇じゃけぇ、事件性は認められんのォ。
ほれ、そこの若い衆、もうええけェ、帰してつかぁさいや。」
亜米利加組の刑事は窘めるように眞土呂に言う。
「ワレコラァ!おまん、黙っとったら調子こいてベラベラ抜かしよってからに、許せんばい!
シャブやらチャカやら、そげんブツ積んどったっちゅう話なら、証拠ば出してみいコラァ!」
顔を真っ赤にした眞土呂が、亜米利加組の刑事に噛みつく。
「じゃかぁしいんじゃボケぇ!亜米利加組が黒言うたらのォ、白いモンでも黒くなるんがこの国連警察じゃけェのォ!」
激昂した亜米利加組の刑事が眞土呂を怒鳴りつける。
……完全に自分が今は建前上でもその亜米利加組を取り締まる立場にいることを忘れている。
「そういうこっちゃけェ、眞土呂の。
おどれ、調子に乗って亜米利加組に盾突きよるんなら、シマぁカチ込んで更地にしたるけぇ、覚悟せェよ。
じゃけんど、ウチの親父は懐の深いお方じゃけェのォ。指の一本も詰めて詫びに来りゃあ、許してやらんことも無ァ。」
勝ち誇ったように辺久瀬は言う。
ここで詫びを入れさせ、亜米利加組に歯向かわないことを誓わせれば、辺久瀬の勝利だ。
「ハァ?なんば偉そうにほざきよるとやコラァ!
こげんこつでワシが指ィ詰めるっち思うとるなら、おまんは相当おめでたい頭しとるばい!
…のォ、兄貴ィ、アンタからもなんかこのアホんだらに一発かましちゃってつかぁさい。」
眞土呂は、辺久瀬を一喝すると中共組の刑事に向き直って言う。
「眞土呂の兄弟の言う通りじゃねえか、コラぁ!
辺久瀬、テメェのカチコミ、どんな道理があるんかキッチリ説明せェやボケぇ!
正当防衛だァ?チャカ一つ持ってねぇカタギの船に手ェ出して何を言いさらすんだテメェはよォ!
『公海における航行の自由』、こりゃ俺ら極道が長年守ってきている任侠の筋じゃねえか!」
中共組の刑事は眞土呂に同調し、辺久瀬を怒鳴りつける。
「兄弟ィ、お前もこんな外道に目ェつけられて、ツイてねぇなァ。
あんな物騒なこと言われりゃ、チャカもそうだし、何かと物入りだろ。ウチからもチャカ何丁か、回してやるよ。」
露西亜組の刑事も眞土呂に同調する。
……全員、建前とは言え刑事や撃沈事件の参考人であることを忘れている。
眞土呂は、「ほんに助かるばい、兄貴ィ!持つべきもんは、背中預けらるる兄弟っちゅうこつばい!」と、中共組と露西亜組の刑事と握手を交わしている。
なっ……
辺久瀬は衝撃を受ける。
……あん外道共、ここまでネンゴロになっとったんかい!
委内瑞拉組は最近まで亜米利加組の舎弟だった。
盃を水にされはしたが、それはあくまで最近のことであり、辺久瀬の読みでは少しドツいて脅しを入れてやれば、簡単に落ちるはずだった。
そのはずが、亜米利加組に降参するどころか、中共組や露西亜組との結びつきを余計に強めさせてしまった。
圧力を強めるほどに、この3者の結びつきは強くなる。……これは亜米利加組の致命傷になる。
辺久瀬は、頭を抱えた。
*****
亜米利加組の組長室の床で、辺久瀬は頭から血を流して床にうずくまっている。
血の滴る灰皿を手に持った鳴門組長が、仁王立ちで肩をいからせている。
「ワレェ!辺久瀬、おどりゃ詰めが甘いんじゃコラぁ!
カチ込むっちゅうんならのォ、あがぁ小舟沈めたくらいじゃ、ツラにションベン引っ掛けられたくらいにも堪えとらんけェのォ!」
国連警察から帰ってきた辺久瀬。
圧力をかけるだけでは委内瑞拉組と中共組、露西亜組の盃の結びつきが強まるだけであると進言したところ、鳴門組長は激昂した。
「ええか、よう聞け辺久瀬!
あん外道は、中途半端にどついても意味が無ァ!
梅傳のアホがイモぉ引きよったけェ、眞土呂の三下ァ、ワシらを舐め腐りよるんじゃけェ!
……あん外道んヤサぁ潰して、眞土呂のタマぁ取って来んかい!」
鳴門組長は、委内瑞拉組のシマにカチ込み、組事務所を潰して来いと言う。
辺久瀬は考える。
……こりゃ、アリかもしれん!
──中途半端に委内瑞拉組を攻撃するだけでは、かえって中共組や露西亜組との結びつきを強めてしまうだけだ。
しかし、鳴門組長の言うように、組を解体に追い込むほどに徹底的に痛めつけてやる場合、話は別だ。
中共組も露西亜組も、委内瑞拉組を守ってアウェーで亜米利加組と戦う度胸も能力もない。
精々、『オラァ!ウチの舎弟に何しやがる!』と啖呵を切ってくるのが精一杯だ。
亜米利加組に盾突く眞土呂がいなくなれば、南の脅威は消えてなくなる。
「辺久瀬ェ!ワレ、イモ引きよったんとちゃうんかコラァ!
法律がナンボのもんじゃい!
おやっさんの言うとる通りじゃけェのォ!極道が懲役怖がってどないすんのんじゃコラァ!」
萬洲若頭が鳴門組長に同調する。
辺久瀬は痛む頭をさすり、眞土呂への敵愾心を燃やしながら委内瑞拉組へのカチコミを決意した。




