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伍拾漆 亜米利加組と委内瑞拉組の抗争②

──委内瑞拉べねずえら組。これはその亜米利加あめりか組の海の天下を揺るがしかねない火種だ。

チャカも詰めている若衆も頼りなく、シノギも破綻しており、暴力団組織としては弱小組織なので、先の二つ目の条件の『貫目の高い強力な暴力団組織』には当てはまらない。

しかし、委内瑞拉組はどうしようもないくらい亜米利加組と敵対関係にある。


かつて委内瑞拉組は、亜米利加組と舎弟の盃を結ぶ兄弟筋の組織だった。

しかし先代の茶辺須ちゃべす組長の代で、その盃は水となった。

そしてあろうことか茶辺須ちゃべす組長は、露西亜ろしあ組や中共ちゅうきょう組と、裏で盃を交わすようになったのだ。


これをやられることはつまり、『亜米利加組のシマの南』で、『亜米利加組と敵対』する、盃によって露西亜組や中共組の『強大な力を使える』暴力団組織が出来上がることを意味する。


こんなものが出来上がってしまった日には、亜米利加組はシマの南からカチ込まれることを常に警戒せねばならなくなり、海の天下どころではなくなる。

そして逆に言えばこれは、露西亜組や中共組にとっては、亜米利加組の海の天下の息の根を止め、かわりに自分たちが自由で開かれた海を謳歌するための鍵ということになる。


「兄貴、これを見てつかぁさいや。」

『リーパー』を操作する若衆が、モニターを指さす。

そこには、赤外線ナイトビジョンの粗い画質で、小舟のようなものが映っている。


「なんじゃコラァ、えらいザラついた画やのォ。

こんなんじゃよう見えんわい……じゃが、まぁええわ。多分これで間違い無ァじゃろうがい。

一発、ドカンとブチかましたれやコラァ!」


若衆がトリガーを引く。

次の瞬間、画面には爆炎を上げて沈んでいく小舟の姿が映し出されていた。


無音の画面越しに、炎と黒煙に包まれて沈んでゆく小舟の映像を見ながら、亜米利加組の組員達は喝采を上げる。

……まァ、シャブっちゅうのは建前じゃけぇのォ。

あン外道共はのォ……仮にシャブ持っとらんでも、叩き潰さないかんのよ。

辺久瀬へぐせはニヤリと笑みを浮かべると、タバコを取り出す。


──これが実際にシャブの密輸船であっても、そして仮に誤射だったとしても、辺久瀬へぐせにとってはどうでもいい。

暴対課の取り調べを強弁と脅しで乗り切れるだけの証拠は既に用意してある。

そもそも刑事は亜米利加組の若中なので、有罪になる訳がない。

……この攻撃は、亜米利加組に盾突くとどうなるかを委内瑞拉組に見せつける、脅迫の一手なのだ。


*****

ガチャリ。

操縦役の若衆の手に、手錠がかけられる。

極道達から『国連』の隠語で呼ばれる警察署に自首した若衆の顔には、一点の動揺も焦りも後悔もない。


昨晩の委内瑞拉組の密輸船への攻撃。

これは、いわば誰のシマでもない天下の公海で、攻撃を受けたわけでもない、何もしていない相手めがけて、出会い頭にいきなりチャカを弾くような行為だ。

この手の黒い仕事の後は、関係者全員が逮捕されるのを防ぐため、若衆一人が自切ジギリをかけて自首し、そのあとは完全黙秘カンモクを貫く。


ダン!

中共組出身の刑事が取り調べ机を大きく叩く。

この警察はヤクザとズブズブであり、刑事達もヤクザがなり替わっている。

署長はお飾りであり、実権は亜米利加組、中共組、露西亜組等の有力暴力団組織が握っている。


「コラぁ!テメェ、いつまでシラぁ切るつもりだ!?

こっちはなァ、テメェの上の筋の者が動いたって線で、もう固めてんだよ!」

怒声を上げて恫喝する中共組の刑事。

しかし、パイプ椅子にふてぶてしい程だらしなく座っている亜米利加組の若衆は、何も答えずに、挑発するような笑みを浮かべながら刑事を睨みつけている。


「……お前にも、お袋がいるんだろう。

いい加減、口割ったほうが身のためだぞ?

まぁ、腹が減ってちゃ何も喋る気にはなれんだろう。これでも食え。」

カツ丼を勧めながら、露西亜組の刑事が自白を促す。

亜米利加組の若衆は、カツ丼を平らげると、「もっとええ茶を出さんかい!」と怒鳴り声を上げ、再び口をつぐむ。


中共組と露西亜組の刑事達の後ろで、参考人として出頭した委内瑞拉組の眞土呂まどろ組長が、不機嫌そうに腕を組んでいる。

「刑事さんよ、こげん外道はさっさと起訴して、ムショに送っちゃってくれんね。

あれは何の罪もなかカタギの漁師ばい。

あそこは天下の公海たい。こんアホんたれ共のシマじゃなかとよ!」


そしてふてぶてしい態度で椅子にふんぞり返っている亜米利加組の若衆に向き直ると、一喝する。

「きさんも代紋背負うもんやったら、喧嘩の流儀っちゅうもんがあるやろがい!

ウチの組に筋も通さんで、寝首掻くごたる真似ばしやがってからに……

極道として、恥ずかしかなかとや!」


そのとき、ガラガラ、バァン!と凄まじい勢いで取調室の引き戸が開く。

「待たんかいワレェ!あれのどこがカタギの漁師じゃ!おどりゃシャブ打って頭おかしなっとるんかい、こんシャブ中がぁっ!」

その向こうには、こめかみに青筋を立てて鬼の形相を浮かべる亜米利加組の辺久瀬へぐせ代行が、亜米利加組の刑事を伴って仁王立ちしている。


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