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伍拾伍 沖縄島の火種⑥

旭日きょくじつ組二次団体・琉球りゅうきゅう組。

これは47ある旭日組の『広域地方公共団体』系の傘下組織の一つで、沖縄島の裏社会を仕切っている。

その本家事務所の門を、一台の黒塗りの高級車がくぐってゆく。


「親分、丁重なお出迎え、恐れ入ります。」

後部座席から下りてきたのは、紋付袴に身を包んだ中共ちゅうきょう組の若中、あずまだ。

「おォ、あずまの。遠路よう来たのォ!ゆっくり茶でも飲んでいかんかい。」

琉球組の組長、珠沖たまおきが玄関先で出迎える。


応接間に通されたあずまは、部屋住みからおしぼりを受け取りながら、世間話を始める。

「親分……あの亜米利加あめりかの連中の振る舞い、ようもまぁ、黙って見ておられますな。ワシらなら、とっくに堪忍袋の緒が切れとりますわ……。」


珠沖たまおきは湯呑を手に取り、忌々しそうに言う。

「そんなぁはワシが辛抱できとるように見えるんか?…あの外道、ワシのシマで勝手に暴れよってからに、もう堪忍ならん。できることなら明日にでも叩き出してやりたぁわい。」


湯呑に口を付けた珠沖たまおきは続ける。

「…本家のバカタレ共がのォ、『そがぁ真似しよったら、中共組への睨みはどうすんじゃい』とか抜かしよるがのォ。

なんぼのモンじゃい、あンボケ共が。中共組かてのォ、話の分かる人はちゃんとおるんじゃけェ。

貫目の通ったモンが、筋通してナシ付けりゃ、あの外道共の事務所なんぞ無うても、ドンパチにはならんのんじゃ。

ほいじゃけぇ、ワシはこうやって常日頃から中共組の偉いさん方と顔合わせて、いざという時にちゃんとナシが通るようにしとるんじゃけェ。」


──珠沖たまおき組長のこの方針は、『沖縄島に詰める亜米利加組と協力して中共組への睨みを利かせ、シマの安全を守る』という旭日組本家の方針と明確に異なるし、シマの守や別筋の組との付き合い方を決める権限は琉球組にはない。それを決めるのは本家だ。


「親分……お見それいたしました。任侠の筋をよう心得ておられる、貫目の通ったお方でございます。

チャカだのカマシだのと騒ぐのは、三下の浅ましい振る舞い。

筋の通った者なら、言葉一つで場を収めるもんでございます。このあずま、胸に沁みました……。」

あずまはニヤリと微笑む。そして続ける。


「オッ、そうだ!

…親分、そのお志、ここで埋もれさせるにはあまりにも惜しゅうございます。

もしよろしければ、サツの方へ密告チンコロを──亜米利加の連中が他所様のシマで筋の通らぬ振る舞いをしておる件、然るべき形で申し上げるべきかと存じます。

中共組も、陰ながら親分のお心意気に力添えできるかと……このあずま、微力ながらお供させていただきます。」


──極道達の間で『国連』の隠語で語られる世界列島警察。

ここの刑事達は極道達の息がかかっている…というよりは、組員達が刑事になり替わっている。

この場で、「亜米利加組が沖縄島にいることで市民生活が脅かされている」ということを告発しようというのだ。


「ほぉ……おもろいこと言いよるのォ。

ワシら極道がサツにチンコロなんぞしよったら、それこそ代紋に泥塗ることになるけェの……じゃが、あの亜米利加組の外道共にチクッと嫌がらせかますくらいなら、ナシ付けに行く値打ちはあるかもしれんのォ。

まぁ、ちぃと様子見て、やってみるかいの。」


かくして珠沖たまおき組長は、警察署に乗り込んでいった。

「のォ、刑事さん……ちぃと耳貸してつかぁさいや。

あの亜米利加の外道共がのォ、ワシらのシマにズカズカ事務所こさえよってからに、カタギの衆がえらい迷惑しとるんじゃ。

ワシらものォ、代紋背負う身として、カタギに迷惑かけるわけにはいかんけェ……ちぃと、そっちの方からも睨み入れてもらえんかのォ。」

刑事達は、突然の旭日組二次団体の組長の来訪に困惑する。


「あの外道共がのォ、まだ懲りもせんと海辺の集落まで地べた引っぺがして、また事務所こさえよるんじゃ。

カタギの衆が涙流しとるのに、何も感じとらんけェの。

のォワレ、こがぁな筋も通らん真似、代紋背負う極道のやることじゃなかろうが!」

亜米利加組の組員扮する刑事は、後ろの方で旭日組の組員扮する刑事にどういうことだと詰め寄っている。

旭日組の刑事はみるみる顔を赤くし、額に青筋が浮きあがってゆく。

その様子を、中共組の刑事はニヤニヤしながら見つめている。


「ええか、刑事さん……極道っちゅうもんはのォ、抗争と背中合わせで生きとるんじゃ。

出入りン時に真っ先にカチ込まれるんは、組の事務所じゃけェの。

ほいで巻き添え食うて涙流すんは、いつもカタギの衆なんじゃ。

……そがぁな事務所ばっかり建てられてみぃや、カタギの衆はどないして枕高うして寝れるっちゅうんじゃ?」


陳情を終えた珠沖たまおき組長に、ツカツカと憤怒の形相を浮かべた旭日組の刑事が大股で近づいてくる。

「ワレェ!おどりゃ中共組と裏で盃でも交わしとるんかコラァ!?

本家の代紋に楯突くっちゅうんは、命張る覚悟できとるっちゅうことじゃろがい!

ほんならはよ指詰めて、おやっさんの前で土下座して詫び入れてこいやボケェ!

筋も礼も踏み外しよってからに、どの面下げてこの場に立っとるんじゃワレェ!」


怒声を上げる旭日組の刑事を横目に、中共組の刑事はほくそ笑む。

……相手はあの亜米利加組だ。旭日組の二次団体が騒いだところで、あのシマから引き上げることはないだろう。

だが、旭日組の内紛と分断は、中共組に付け込む隙を与える。


…だけどな、今はウチがどうこう口を出すことはしねぇ。

中共組の刑事は口論を続ける珠沖たまおき組長と旭日組の刑事を横目に、沈黙を貫く。

──沖縄島の亜米利加組は厄介だ。

しかし、アレが無くなるのもそれはそれで中共組にとって望ましくない。

亜米利加組は、『抗争の際に亜米利加組本家から応援を呼べば中共組を圧倒できるが、普段は中共組よりちょっと弱い』位に若衆やチャカを調整している。

亜米利加組が沖縄島を去るということは、旭日組単体で中共組を圧倒できるだけの力を旭日組が付けなければならないということ、つまり、中共組を圧倒する暴力団組織と、平時から常に背中合わせになるリスクをはらむということ。

……亜米利加組事務所は、台湾島へのカチコミの時までは現状を維持し、その時に分断を煽って機能不全を起こしてくれればいい。今はまだその火種を仕込む時だ。


……頑張れよ、珠沖たまおきィ。時期が来たら使わせて貰うわ。

何なら、ウチの親父に盃でも貰いに来いよ。


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