表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/46

参拾壱 米軍組との盃④

──大東亜共栄会はさらに、今の大韓組と白頭(はくとう)組のシマのある、ユーラシア本州への玄関口、韓半島も自らのシマとしてシメていた。

そう、旭日組の前身である大東亜共栄会は、『ランドパワーの力を持つシーパワー』…覇権国家への転身に挑む、手の付けられない暴力団組織だったのだ。


亜米利加(あめりか)組とその兄弟は、『覇権国家』の誕生を危惧。旭日組のシノギを妨害し、潰しにかかった。

そして遂に、亜米利加組と大東亜共栄会は太平洋で激突。

太平洋は血の匂いの立ち込める、極道船や密輸船の墓場となった。

…これがのちの世の任侠史に刻まれる、『大東亜抗争』だ。


大東亜抗争の結果、大東亜共栄会は敗北。

亜米利加組は大東亜共栄会の幹部を監禁し、全員指を詰めさせるか、山に埋めた。

そして今後二度と覇権国家に爪を伸ばすことのないよう、太平洋の『蓋』を割り、千島と台湾を旭日組から切り離した。

さらに二度とランドパワーの力を得ることの無いよう、韓半島を切り離して、旭日組と異なる筋の組を立ち上げさせ、旭日組と対立させた。


実は旭日組、覇権を取りに行くには大変理想的なシマに組を構えている。

もしかつての大東亜共栄会のシマを集結させてしまうと…今度はそこが中共組を上回る『覇権国家』になりかねず、早晩亜米利加組の太平洋覇権を脅かすこととなる。


那統(なとう)会でもそうだが、亜米利加組の方針は『亜米利加組が加勢すれば潜在覇権国家を倒せるが兄弟組単独では倒せない状態をキープさせ、兄弟組が覇権国家とならないよう力を持たせすぎない』ことが基本だ。


……やっぱり今の体制の中で何とかするしかないのォ…。

思い悩む古都(こと)がタバコの火を消したところで、ガチャリと扉が開く。


「おう、やっとるのォ、おどれら。」

若頭の萬洲(ばんす)を引き連れ、鳴門(なると)組長が入ってくる。


「ご苦労様です、おやっさん。」

古都(こと)が椅子をはねのけて立ち上がり、最敬礼で迎える。


鳴門(なると)の、ちぃと顔出させてもろたでぇ。邪魔しとったらすまんのォ!」

「のう、鳴門(なると)ォ。兄弟筋がおるんじゃけぇ、茶ぐれぇ出さんかいのォ!」

鷹居たかい李田(ときた)が鷹揚に挨拶をする。


「…叔父貴ィ、火ぃどうぞ。」

古都(こと)はタバコを取り出した李田(ときた)に火をつけたライターを差し出す。

鷹居たかい李田(ときた)は、鳴門(なると)組長の五分の兄弟だ。

鳴門(なると)の前では古都(こと)と旭日組・大韓組の立場は逆転し、古都(こと)にとっては叔父貴筋ということになる。


……やりづれぇ。

古都(こと)は溜息を吐く。

古都(こと)率いる米軍組は、世界列島最強の武闘派ヤクザだ。

その意思決定は戦闘に最適化されており、いざ喧嘩の際は旭日組や大韓組を舎弟として動かし、一糸乱れぬ戦陣を組む必要があるが…舎弟ではなく叔父貴として出て来られると、米軍組の意向を通させることが出来ない。

…こんなことじゃのォ、喧嘩ん時にゃ動けんじゃねぇか!と心配になることも多い。


「なんやおどれら、血塗れじゃのォ!またどつき合いしとったんかい!おどれらホンマに仲ええのォ。」

鷹居たかい李田(ときた)、そして古都(こと)は互いに目をそむける。

「わしゃこれから丸安楽(まるあら)カントリーまでゴルフ行くけぇのォ。おどれらも一緒に打ちに行かんか?

……おう、そうじゃそうじゃ!その前におどれらに一つ言うことがあったんじゃわい!」

萬洲(ばんす)にゴルフクラブを取りに行かせた鳴門(なると)が思い出したように言う。


「おどれらァ、会費滞納しとるっちゅう話聞いとるでェ!

兄弟筋じゃ言うてもなァ、そりゃ筋が通らんじゃろがい。

ちゃんと義理とケジメは守らんかいのォ!」

鳴門(なると)は、『上納金を払え』と言い放った。


「まてや兄弟ィ。会費っちゅうんはのォ、子分が親分に納めるモンじゃろがい。

なんで五分の兄弟分のワシらが、そがぁなモン払わにゃならんのんじゃコラァ!

筋がちゃうじゃろうが、のォ?」

鷹居たかいが抗議する。


「あァ?おどれらァ、ワシの子分筋の米軍組の筋のモンでもあろうがい!

米軍組の代紋ぶら下げてシノギ張っとるんじゃったらのォ、会費払うんが筋っちゅうモンじゃろうがいコラァ!」

鳴門(なると)は一歩も譲らない。

…何じゃいその無理筋ァ!と怒鳴りつけようとした半秒先に鳴門(なると)が続ける。


「あんなァ、おどれらァ──ワシゃなァ、おどれらと米軍組の盃ぁ、水にしてまうことも出来るんじゃでェ。

おどれらのシマぁ守っちゃるために、ワシがどんだけゼニ突っ込んどる思とんじゃコラァ!

テメェのシマぁ、テメェで守るんが筋っちゅうモンじゃろうがい!

それが出来んけぇ、米軍組貸しとるんじゃろうが!……違うんかワレェ、あァ!?」


──すったもんだの後、結局旭日組と大韓組は亜米利加組への上納金を支払うこととなった。

旭日組も大韓組もいっぱしのヤクザだ。メンツは命より重い。

『五分の兄弟への上納金』という名目では流石に体裁が悪すぎ、亜米利加組への「心付け」等の名目で誤魔化すこととしたが……


鷹居たかいは、疑念を抱くようになった。

……兄弟。この海はな、『ワシら兄弟の海』なんじゃ。『ワシの海』じゃなぁ。『そんなぁの海』でもなぁ。

どっちかが欠けたら、どっちもアカンくなるんじゃ…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ