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弐拾 亜米利加組と露西亜組の麻雀対局②

丸古(まるこ)の代わりに井床(いとこ)を卓に着けての亜米利加(あめりか)組と露西亜(ろしあ)組との麻雀対局。

…終わってみれば、結局何も決まらず、グダグダな感じで終わった。


*****

相変わらず裏島(うらじま)組長は鳴門(なると)組長の目の前にニンジンをぶら下げ、懐柔を図ってくる。

宇呂富(うろどみ)のバカタレを説得してやるわい』という言葉を引き出せれば大勝利だが、そこまで行かなくともよい。

露西亜組寄りの発言を引き出し、那統(なとう)会との結束に楔を打ち込むことができれば御の字だ。


「なあ兄弟。お前がアイツとナシつけてくれたらよォ、濃辺(のうべ)平和賞は間違いねぇな。

…何ィ?濃辺寺の連中が渋ってるだとぉ?

聞き捨てなんねェなあ、兄弟。ウチからも一言言っといてやるよ。

そうだ!ウチの菩提寺の正教寺でも『キリル十字平和賞』って奴始めたんだ。

兄弟、お前を初代受賞者に推薦しといてやるよ。」


来たな…と井床(いとこ)は思う。

那統会はこの宇克羅(うくらいな)組と露西亜組の抗争が、構造に起因するもので、話し合いでどうにかなるものではないことを見抜いている。


那統会の基本スタンスは、話し合いではどうにもならない以上、宇克羅組と盃を結んで露西亜組との直接戦闘になることは避けつつ、宇克羅組が露西亜組に負けないようチャカを送って支援。

露西亜組が根負けして手打ちとなることを狙っている。

最悪、宇克羅組が負けても、その頃には露西亜組が消耗しきっているので、当面は那統会への脅威ではなくなる、という計算もある。


そもそも鳴門(なると)組長の独断で開帳された今回の麻雀対局。

那統会は頭を抱えていた。

鳴門(なると)組長はこの那統会の方針に無頓着だ。

今の段階での中途半端な手打ちは、露西亜組を利する。…つまりは、『覇権国家』の出現が一歩近づく。

したがって、今回の対局での那統会側の勝利条件は、『グダグダな感じで終わらせて何も決めさせないこと』だ。


──裏島(うらじま)組長のその言葉に鳴門(なると)組長が「ほうほう、ほいで、どがぁしたらええんじゃ」と食いついたところで、井床(いとこ)は部屋住みの頭をひっつかんで麻雀卓に叩きつける。

ガシャン!ジャラジャラ。

麻雀牌があたりに飛び散る。


「ワレェ!裏島(うらじま)の親分のグラスが空いとるじゃろうがッ!

もう一遍、所作ぁ叩き込んでやるけぇ、覚悟せぇやコラ、バカタレがッ!

……あぁ、えろうすんませんのぉ、親分。礼儀がなっちょらん若い衆でしてのぉ。

ちぃとヤキ入れてきますけぇ、しばしお待ちんさいや。」


すると井床(いとこ)裏島(うらじま)組長の目の前で部屋住みに殴る蹴るの暴行を加える。

ギャーッ、堪忍してつかぁさい兄貴!という部屋住みの絶叫が響く。

呆気に取られる鳴門(なると)組長と裏島(うらじま)組長。


「いやぁ、こりゃあ失礼したのぉ……。

ほぉれ、ささっ、仕切り直していこかいのぉ。」

手に付いた血を拭いながら、井床(いとこ)が席に戻る。

…こんな感じで、鳴門(なると)組長を懐柔しようとする裏島(うらじま)組長の発言を徹底的に潰していった。


*****

夜も明けて朝日が差すころ…。

ガチャリと、荒須賀(あらすか)事務所の麻雀ルームの扉が開く。

中から、浮かない顔をした鳴門(なると)組長と、露西亜組の一行。

そして晴れ晴れとした顔の丸古(まるこ)井床(いとこ)が出てきた。


「あっ、親分。ご苦労様です。

…今回の対局、いかがでしたか?」

パンチパーマにサングラスと、その辺の組員と見分けがつかない風貌の『実話任侠アメリカン』の記者が鳴門(なると)組長に近づいてくる。

…この連中は、いつでも組事務所に入り浸っている酔狂な連中だが、ヤクザは基本的に見栄っ張りだ。

この手の実話雑誌の記者が書く記事は、カタギ衆への絶好のアピールの媒体なので、各組は何か黒い仕事があるとき以外は、実話各紙の組事務所への立ち入りを歓迎している。


「じゃかぁしいわい!おどれら、男同士の勝負に首突っ込むような野暮ぁするんじゃなぁでッ!

こがぁな場ぁ、外野が口出す筋ぁ一つもありゃせんのじゃけぇ!」

鳴門(なると)組長は記者を一喝する。

…実話雑誌の記者はまた、命懸けだ。基本的にヤクザは気まぐれであり、腹の虫の居所が悪い時には思わぬ災難に遭うことがある。


しかし記者にも仕事がある。

鳴門(なると)組長の凄まじい剣幕に身も心も震え上がり、背中の毛穴という毛穴から汗を噴き出させながらも、果敢に次の問いを投げかける。

「これは失礼しました、親分!…ところで裏島(うらじま)の親分。遠路はるばるご苦労様です。

ところで…宇克羅組との抗争、鳴門(なると)の親分とは何か話されましたか?」


裏島(うらじま)組長は疲れを顔に出さないよう気持ちを切り替えると、力強く答えた。

「あァん?兄弟が『クビ突っ込むな』っつったのが聞こえねぇのか?

…まあいいや。

鳴門(なると)の兄弟とは、そこそこ突っ込んだ話をさせてもらったよ。

あのな、宇克羅組だって、昔は俺達の兄弟だったんだ。

俺っちだって、こんなマネはしたくねえし、手打ちにしてやってもいい。

…ただし、宇克羅組がキッチリとケジメつけた後だ。」


鳴門(なると)組長が続ける。

「まぁ、組ゴトじゃけぇ、あんまり細けぇ話はできんのじゃが…ブチ大事な話ぁ色々しとったんじゃ。

組と組の手打ちっちゅうもんは、そがぁに簡単に打てるもんじゃなぁけぇのぉ。

近々、宇呂富(うろどみ)の親父さんも交えて、これからゆっくり話ぁ進めていくけぇ、覚えときんさいや。」


こうして露西亜組との麻雀対局は、全てが有耶無耶のまま何も決まらずに終わった。

そして丸古(まるこ)井床(いとこ)、ひいてはここにはいない那統会の重鎮も、胸を撫で下ろした。

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