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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

劇場型婚約破棄 [[座して死を待つとお思いか]]

作者: 辻 ミモザ


「シルビア・ダイムラー侯爵令嬢、俺はお前の様な腹黒い女とは結婚したくない、婚約は破棄する。王太子エンツォがそう宣言する」

王太子エンツォは顔を紅潮させ、自分の声に高揚しながら大広間にいる、貴族学院の卒業生、その親の多くの貴族達の前で言い放った。

金髪碧眼のいかにも王子らしい風貌なので芝居がかって見えてしまう、傍らには非常に愛らしいブロンドの髪に明るい青の瞳のファミリア・ラウム男爵令嬢が寄り添っている。

貴族学院の卒業パーティー、貴族はここを卒業すれば成人と考えられ、婚約者達は結婚に向けて準備に入る、だから婚約を破棄するならここが最後の機会になる、そして衆人環視の元で宣言すれば、修復は難しく既成事実となるしかない。かなり衝撃的な出来事だが、会場にはそれほど違和感はなかった。王太子エンツォが男爵令嬢ファミリアを溺愛し、7歳で婚約したシルビア・ダイムラー侯爵令嬢を蔑ろにしていたのは、学院の中でも、貴族社会でも有名になっていた、多くの会場の人々がやはりこうなるのか、この後どうするのかと興味を持って成り行きを楽しんでいる様だった。

会場には国王夫妻の姿もある、腰まで垂らした美しい黒髪と深い碧の目のシルビアはそちらを見やり国王が何か言おうとする前に

「婚約破棄了解いたしました、これから前王太子エンツォと私シルビア・ダイムラーは全く関わりはないと宣言いたします」

背筋を伸ばし顎を引き堂々とした言葉に場内はざわついた、エンツォは自分のシナリオと違うシルビア・ダイムラーの返答に驚いた。

嘆くか怒るか、婚約破棄を取り消せと迫る、そのタイミングで宰相マクラーレン伯か父王が執り成しの言葉を入れてこの場を収める、その後で両家で話し合い結婚の了承とその後のファミリア・ラウム男爵令嬢を側室と認める事、これがエンツォのシナリオだった。

最有力貴族のダイムラー侯爵の力はエンツォに必要だし、優秀なシルビアは王妃として必要だ、しかしこのままではダイムラー侯爵家に権力の比重が傾きすぎる、王家に力を持たせる、その為の婚約破棄騒動だ。

しかし、「前王太子」と言ったなその言葉が引っかかる。

「婚約破棄に動転したのか、シルビア、私は現王太子だぞ、君との婚約が無くなっても地位に変わりはない」

「言葉通りよ、エンツォ貴方はもう王太子ではないわ」

はっきりというシルビアの言葉に会場内はざわつく、そこで宰相のマクラーレン伯がシルビアを正した「ダイムラー侯爵令嬢、婚約破棄になってもエンツォ殿下の地位に変わりはございません、思い違いをなさっておられますか」

「全ては移ろうもの、婚約者への心が移ろう様に、国王への忠誠心、王妃への敬愛、移ろわないものなどありません」

「シルビアどうしたのだ、あの可愛い素直な私達の娘と思っていたシルビアが変わってしまったのか」

国王は思わず声をあげた、

「そうよシルビアやけになってはいけないわ、私達が婚約破棄なんてさせないわ、私に任せて」

王妃も優しく話しかけた

「その危機感のなさがこの事態を引き起こしたのですよ」シルビアは二人を睨むよう見た、不敬ともとられる態度だ

「婚約者がありながら衆人の前で身分の低い娘と親しく身を寄せ合う、王太子として不適格な行動、また婚約者であるダイムラー侯爵家に対しての侮辱。これを私は何度もお二人に話し、解決の為に動いて欲しいと願いました、父からも抗議させていただきました、その場ではわかったと言い大丈夫だと安心させ、でも何も解決しなかった。一年半の時間がありましたのに結果は婚約破棄の宣言でした。お二人は無能という事ですわ」

「言葉が過ぎるぞ、もう我慢ならぬ衛兵よ、その女を捕らえよ」

遂に国王は怒りをあらわにした。

しかし何も起きなかった。

国王を守る位置の近衛兵も会場に配置された衛兵も動かない、会場の貴族達がざわめくが、怪訝な表情の者と冷静に落ち着いている者が混在してるのに国王は気づいた

「ランド侯爵これはどういう事だ」

軍務大臣に尋ねるが、ランド侯爵は真っ青になって震えだし、

「お前が裏切ったのか」と近衛騎士団長のエスティマ子爵を見た、

近衛騎士団長は冷静な表情で冷たく返答した

「危機感のない無能に仕えるよりも、責任をもって国政に臨み、果断に行動できるルノー公にこの身を捧げるのが誠に国に仕える忠義であると考えました。」

「ルノーだと、あんな結婚もできず、芝居に現を抜かす愚物が王になるというのか、わかったぞ、ダイムラー侯爵、貴様が娘やルノーをたきつけて、こんな愚かなまねをしたんだな」

国王は今まで口を開かなかったダイムラー侯爵をにらみつけた

「私にこんな度胸はございません。たとえ、国がゆるゆると衰退していくと思っても、今更策を練り、同志を募り、事を成すなどの気概はございません。しかし、愛娘に国の危機と説かれ、未来の希望を残せと言われれば、老骨に鞭打っても動かぬわけにはまいりませんでした。このクーデターを企んだのは、我が娘シルビアにございます」

ダイムラー侯爵は静かに言った

「こんな小娘の企みだと、そんなものに近衛騎士団長が乗ったのか、弟が乗ったのか愚かな」

シルビアは淡々と言葉を返す

「私は何年も王妃教育をやってきました、国とはどうあるべきか、王族の振る舞いはどうあるべきか、国民にどう接する、貴族にどう対する、国土を豊にするには、国民を富ませるには、他国との侮られぬ友好関係、学べば学ぶほど疑問が膨らみました。エンツォ殿下もこれを学んでいるはず、けれども、殿下は婚約者を蔑ろにし、身分の低い女と公然と親しみ、それを諫言できる側近もいない。私に王妃の心構えを説きながらで、取り巻き以外の貴族を冷遇する。氾濫しそうな河の堤防よりも自分の離宮の工事を急がせる国王。教育が進めば進むほど貴方方が王族としてふさわしくないと思えてくる」

この言葉に会場はざわめきだした、頷く姿もちらほらする

「ルノー公は違いました、結婚しなかったのは王族が増えて継承争いにならぬため、芝居にしか関心を持たないのは、政治に口出しして派閥争いに加わらぬ為、王族の中で最も国を憂いておられるのはルノー公でした、私の婚約に関する悩みも彼だけが真摯に聞いて下さいました」

「シルビアお前、ルノーに乗り換えたのか、あんな10歳も年上の男に」

エンツォ王子は憎々し気に言うと

「同い年とは思えない程幼稚な殿下を見限るのは当たり前でしょう。不甲斐ない自分を高めるよりも、自分よりも低いレベルの女に頼られる事で自尊心を満足させていた。とても国の頂点に立つ器ではない」

シルビアの冷たい返答に場は凍り付いていく。

その時花火がヒューンと上がった、立て続けに3度

「これで王城は占拠出来ました、玉璽も手にしたようです」

笑顔になり、声を張り上げたシルビアを見て、何人かの貴族が近寄り跪いた

「新国王ルノー陛下に忠誠を誓います」

それを見た他の貴族達もそれに倣いシルビアの元に集まってきた

「ルノーが兵を率いて王城に行ったのか」呻く前国王

「この舞台を考えられたのはルノー様です、この卒業パーティーには王族貴族が集まり、王城は手薄になる、婚約破棄のショーに紛れてクーデターを興す。演劇が大好きなルノー様が企画した見事な政変劇でございましょう。側室を認めさす程度の茶番劇とスケールが違いますのよ。」

「我らの計画を知っていたのか」

エンツォ王子が言うと

「安っぽい企みなど調べれば簡単に分かること、それにマクラーレン伯貴方の陳腐な企みも暴かれてしまいましたわよ」

急変した事態に立ち尽くしていた宰相マクラーレン伯に言葉をかけると彼は真っ青になった

「私くしが、我ダイムラー侯爵家が、座して死を待つとお思いか、」

シルビアは見えを切るように言い放ち、しばし沈黙しマクラーレン伯を見る。

周りの貴族も前国王夫妻もエンツォ王子も、怪訝な表情でマクラーレン伯を見る

「お前の筋書きはこうだった、婚約破棄の騒動で王家とダイムラー侯爵家には亀裂が入る、すぐに結婚させぬように時間を稼ぎ、お前の今12歳の娘の成長を待ち、婚約破棄を本当にさせて、後釜に娘を入れる。ついでにダイムラー侯爵家を追い落として自分が最大有力貴族になる。企画は壮大でしたが、演者は大根、演出も貧弱、こんな無能に宰相は務まりませんわよ。この王家の堕落の責任は全てマクラーレン伯のもの、一族全てでつぐないなさい」

近衛兵はその言葉に従い伯爵夫妻とエンツォの側近だった子息を捕縛していく。

クーデター計画に加担していた貴族はもちろん、この場で大勢に乗った貴族達が跪くのを見てシルビアは幕引きを宣言する

「エンツォ王子心配しなくても王族の命は保証するわ、これからカムリ塔で家族ですごしてもらいます、大丈夫、先客がいらっしゃるから、詳しい生活をきけるわ、何しろ50年もそこにお住まいだった方よ」「伯父上がまだ生きておられるのか」

前国王には自分が生まれる前の政変で敗れた伯父アルト王子だとわかった

「あの塔での生活は以外に快適なのね、同世代の王族がみな亡くなられているのにお元気なのよ、貴方も私達よりも長生きできるわよ」シルビアは少し遠い目になった

「何が長生きだ、塔に閉じ込められて何もできずに、ああ、全てお前のせいだ、お前が私を誘惑して、シルビアから引き離しさえしなければこんな事にならなかったのに」

エンツォは傍らにいたファミリア男爵令嬢を足蹴にして叫んだ。

会場の貴族達も元凶はこの女だと思い出した様に声を出す。ファミリアは事態が呑み込めず床に倒れこんでいる

「この女が王家を堕落させたんだ」

「国を乗っ取るつもりだったんだ」

「この女も極刑にしろ」

貴族達はシルビアに阿る為にもファミリアを責めだした

「売春宿で働かせろ」

「いや囚人の慰み者にすればいい」

残酷な刑罰を上げていく、ファミリアはガタガタと震えうずくまるしかできない、クーデターの生贄に選ばれてしまったのだ。

シルビアはファミリアが深く考えて王太子に近づいたのではなく、エンツォに気に入られて有頂天になり愛妾になろうとしただけなのを知っていた。

可愛らしいが愚かな女でしかないと知っていた。

けれどもこの事態になれば、彼女は惨たらしい刑を受けるしかない。みな残酷なショーを期待しているのだ。


シルビアは悪役令嬢でファミリアは悲劇のヒロインなのだから。


                                 終わり

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