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9話 大魔法使い(?)登場 1

シルフィと一緒に住んでから、おおよそ3ヵ月の月日が流れた。

光陰矢の如し。

まさしくあっという間である。すっかりこちらの世界に慣れ、楽しんでいるようだ。

そして季節は夏へと移り変わる。


「あっつー。ただいまー」

顎先から滴り落ちる汗をぬぐいながら、俺は玄関のドアを開けた。

ひんやりと冷房の効いた風が、猛暑で疲弊した体を優しくなでる。

「おはぁ…」

余りの心地よさに変な声が出てしまった。

シルフィに聞こえていないことに安堵すると同時に、いつものようにおかえりの声がないことに疑問を抱く。

玄関に鍵はかかってないし、冷房も効いてるから部屋にいるはずだけど…。

頭に疑問符を浮かべたまま、リビングに通じるドアを開けると、

「お、おかえり…ダーリン」

「ほお、そなたがお嬢の男とやらか。思ったより普通だのぉ」

そこには申し訳なさそうに長い耳をしょんぼり垂らしたシルフィと、もう一人、年寄言葉を話す少女がテーブルに座っていた。

「あ、どうもこんばんは…」

状況が呑み込めず、とりあえず差しさわりない挨拶を返す。

その少女は、シルフィと出会ったときに彼女が着ていたものに類似した文様の入った真っ白のローブを羽織り、そしてシルフィ同様の長い耳をぴょこぴょこ動かしながらお茶を啜って―。

…長い耳?

俺はこれでもかというほど綺麗な二度見をした。

それを見ていたシルフィがこれまた申し訳なさそうに口を開いた。

「あのね、ダーリン。この人は…」

「よい。自分のことは自分で言うからの」

シルフィの言葉を遮るように立ち上がり、その小さな身長で俺の前に立つ。

「わしの名はマリアベル・イェルニーナ。エルのお嬢と同じ村に居たエルフじゃ。皆はわしのことをマリーと呼んでおる。お主もそう呼ぶがよい」

「―は?」

知らないうちに、うちに二人目のエルフが来てました。


以下、シルフィの証言である。

本日13時頃。夕飯の買い出しに近くのスーパーへ向かっていると彼女は、いつもは見ない人だかりがあることに気付いた。

そして、この世界では感知することがないはずの魔力反応も。

こちらの世界の魔力濃度では考えられないほど強力な魔力反応である。おそらく、手練れの魔法使いだ。大気中に存在する魔力を使うのではなく、自身の体内で魔力を練るにはかなりの修業が必要なのである。

それを行いつつ、同時並行的にいくつかの術式を展開している気配。

危機感を感じたシルフィが、今の彼女に出来得る防御術式を展開しようとした、瞬間。

「お? この魔力はエルのとこのお嬢ではないか?」

人混みの中からふわりと、一人の少女が宙に浮いた。人だかりからはどよめきが上がる。

『すげぇ、宙に浮いてるよ…』

『どんな仕掛けなのかしら…。すごいマジックね…』

そんな声を一切意に介することなく、シルフィのもとへ向かってくる。

シルフィも女の子の魔力の気配に覚えがあった。

しかしシルフィが知っている気配の持ち主とは、なかなか似つかない容姿なのである。

訝しげに見つめるシルフィに、

「おお、そうか。お嬢はこっちの姿のわしを見たことがないのじゃったな」

というと少女は自身の胸に手を当てる。

彼女の魔力反応が一気に高まったのを感じた。すると、彼女を柔らかな光が包んだ。

光が消えると、少女の姿はなくなっていた。そこにいたのは、

「え!? マリーさん!?」

「久しいのぉ、シルフィ。100年ぶりくらいかの?」

祐介を超える長身―祐介が178㎝だから、180㎝は超えているだろう―に、ウェーブの利いた腰まで届く銀髪をなびかせる女性―エルフの村の大魔法使い、マリアベル・イェルニーナであった。

少女の大変身に、どよめきが一段と大きくなる。

―そっか。マリーさんはこっちの世界に魔法がないことを知らないんだ! こんな往来で魔法使い続けたらもっと騒ぎになっちゃう!

瞬時に状況を理解したシルフィは、

「マリーさんちょっとこっち来て!」

「ん? なんじゃそんなに急いて」

マリアベルを呼び寄せると、透明化の術式を展開した。

『消えた!?』

『さっきの子も演者だったのか!?』

更なるどよめきが起こる。

―ひとまずは、マリーさんを一目のつかない場所に…。

シルフィは透明化の術式を展開したまま、家に戻ったのだった。


そして、今に至る。

「…ってことは、マリーさんとシルフィは知り合いってコト?」

「そうじゃなぁ。言うならわしはお嬢の魔法の師匠みたいなもんじゃ」

むふー、と小さな胸を誇らしげに張るマリー。

しかし、ここで一つ疑問が発生する。

「で、マリーさんはなんでこっちの世界にいるんでしょうか…?」

シルフィ曰く、このマリーさんはエルフのなかでもかなり名の通った魔法使いらしい。そんな人がなぜこちらの世界にいるのだろうか。

「そうですよ! なんでマリーさんもこっちにいるんですか! 私みたいになにか問題を起こしたわけでも、ない…ですし…」

自分で言って恥ずかしくなったのだろう、尻すぼみになりながらシルフィも聞く。

すると、マリーさんも恥ずかしそうに頭を掻いた。

「それがのう、なんというか…」

もじもじと指先を弄りながら続ける。

「ほら、お嬢がこっちに転移されたときの術式…。あれ、確かエルリューク一族相伝の大規模術式じゃろ…?」

「そうですけど、なんでそれを知ってるんですか…? あのときは関係者以外立ち入り禁止だったはずですけど…」

「あ、いや…。ほら、その…。術式への好奇心が勝ったというかなんというか…」

なんか話が読めてきた気がするぞ…。

おそらく、俺と同じことをシルフィも予想したのだろう。顔を見合わせ、

―これって多分そういうことだよね。

―私の転送に巻き込まれちゃった、的な感じよね。

―俺もそうだと思う。

と目で会話し終えると、シルフィが口を開いた。

「なんであの場にいたのかは聞きませんが、転送術式に巻き込まれちゃったってことですk―」

するとシルフィの言葉を最後まで待たずに、バッとマリーさんが頭を下げた。

「すまん! 勝手に研究して再現しようとしたらなんか出来ちゃって、嬉しさで間違えて術式起動して、こっちの世界に飛んできてしもうた!」

「一族相伝の術式でなんてことしてくれちゃってるんですかぁ!!」


俺が、初めてシルフィの本気の怒声を聞いた瞬間である。



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