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もののふラプソディー ~刻のゆがみ~ エピソード1

眠る事のない東京…

24時間、365日、昼も夜もなく、一歩外に出れば誰かに会う。


働く人、遊んでいる人、笑う人も…泣いている人も…そんな何気無い日常に、影は忍び寄るのだ・・・


3日前、麻依のお婆ちゃんが天国へと旅立った。千堂麻依とは仕事で知り合い、もう5年目になる彼女だ。麻依は『お婆ちゃん子』と言う程ではないが、生前は仲が良かったらしい。聖也も一度だけ、そのお婆ちゃんに会った事がある。とても穏やかな方で、その時も麻依の先祖代々について、一つの物語のように興味深く語ってくれ、聖也はその物語の主人公にでもなったかのような不思議な感覚を今でも覚えていた。


【やっと出会えたようですね、お菊さん…】


聖也には、このお婆ちゃんの最後の一言の意味が分からなかった・・・



満員電車に揺られながらの通勤には慣れたというものの、やはりこの窮屈とした空間は好きになれない。人にはそれぞれの生活があり、その生活感が混ざり合った空間だ。その人の"人生臭"とも言えるかもしれない。決して香水や柔軟剤と言った香りではなく、後ろ姿から漂う哀愁や、疲れた目をした悲壮感であったり、希望に満ちた活発的なものも。漠然とた事かもしれないが、どうやら聖也の嗅覚は敏感にその人たちの生き様を嗅ぎ取るようだ。ちなみに今、聖也の前にいる中年の男性からは…これは単なる加齢臭のようだ。何にせよ、一刻も早くこの地獄のような世界から逃げ出したい。そして、ようやく目的の駅に降りた瞬間、聖也は心の底からホッとする。

会社に到着すると、まずは気分をリセットする為にエントランスに設置されているソファで寛ぐのが日課だ。深く腰掛けて天井を眺めるように目を瞑り気持ちをリラックスさせる。

今朝もいつものように目を閉じて座っていると、瞼越しの景色が夜にでもなったかのように暗く感じた。何事かと目を開けると、そこには聖也の顔を覗き込む麻依がいた。


麻依 「おはよう!聖也!夜更かしでもしたのかな~?」


聖也 「あっ!おはよう麻依!」


麻依 「こんな所でサボっていると、また課長に叱られるぞ!」


聖也 「大丈夫だよ。まだ出勤時間に余裕あるし。それに、少し休んでいかないと仕事に集中できないからさ。」


麻依は聖也を残し先にオフィスへと向かった。

ここでの休憩はタイムリミットが15分間。のんびりし過ぎると本当に遅刻となってしまうので、重い腰を上げて今日も仕事に取り掛かる。

午前中に書類作成を済ませ、午後は顧客先へと営業に出掛けた。数件の顧客回りを済ませ、残るは新規の客先へ挨拶に行く予定となっていた。聞き慣れない社名と住所が書かれたメモを手掛かりに繁華街から少し奥に入った雑居ビルの前へとたどり着いた。看板には確かにメモと同じ社名が掲げられている。どうやらここで間違いないようだ。オフィスのある7階のボタンを押し、エレベーターはゆっくりと動き出した。


ドアが開くと、目の前に目的のオフィスがあった。会社の割には何だか物静かというか、本当に会社として機能しているのか疑ってしまうくらいの雰囲気さえ感じた。深呼吸をしてからドアを開けると、事務員らしき女性と目が合った。


聖也 「お世話になっております。株式会社○○の桐生ですが、ご担当の瀬川様はいらっしゃいますでしょうか?」


事務員 「お世話になります。只今、瀬川は席を外しておりまして、上の階にあります倉庫へいっておりますのでお呼び致します。」


そう言うと、事務員は内線を掛け始めた。しかし、いくら鳴らしても応答がないらしく、事務員の顔からは困惑した様子が伺えた。


聖也 「もしご迷惑でなければ、私が直接、上の階に伺ってみます。」


そして、そのまま聖也は階段から1つ上の階にあるという倉庫に向かったのだった。

倉庫の入り口に立つと、中から物音が聞こえた。やはり作業か何かをしていて内線の着信音に気付かなかったのである。安心して聖也は倉庫のドアを開けた。


聖也 「失礼しまーす!・・・うあぁっ!」


ドアを開けた先には、黒い霧のような靄に包まれた落武者のような姿をした男が立っていたのだ。腰を抜かし倒れた聖也は逃げるように後退りをしたが、その落武者もゆっくりと聖也に近付いてくる。この世の者とは思えない恐ろしさに聖也は目を瞑ってしまった。と、次の瞬間、聖也は肩を叩かれ恐る恐る目を開けた。すると目の前にはスーツ姿の瀬川さんが驚いた様子で聖也を心配して見詰めていたのだ。


瀬川 「どうかされましたか?」


聖也は夢か幻でも見ていたのか、先程まで見えていた落武者らしき姿はいなくなっていた。聖也は慌てふためきつつも、少しずつ我に返えり何もなかったかのように平然と対応するしかなかった。


聖也 「それでは、失礼します。」


ひとまず、営業としての挨拶は無事に済んだ。しかし、あの時の黒い霧はいったい何だったのか…頭の中で謎だけが残ってしまい、スッキリとしない気分のまま聖也は会社へと戻る事となった。

会社に着く頃にはすっかり定時を過ぎてしまい、オフィスは数名の社員しか残っていなかった。不思議な体験をした聖也は、自分のデスクにもたれ掛かり疲れきっていた。


麻依 「お疲れ様!」


そう、声を掛けてきたのは麻依だった。こんな時間まで聖也の帰りを待っていてくれたみたいだ。


麻依 「どうしたの?何か…あった?」


聖也 「いや…何でもないよ。バタバタと忙しくてちょっと疲れたみたいだ…」


聖也はそう答え、取引先で"落武者を見た"なんて言ったら間違いなく笑い者になると、口が裂けても言えるはずがなかった。

軽く書類を整理し帰り支度をすると、離れた場所から手を振っている麻依に気付いた。


麻依 「一緒に帰ろう!」


麻依は聖也には勿体ないくらいの彼女で、きっと、今日の聖也がいつもと違う事に気付いての優しさだったのだと思う。

上司の愚痴や女性社員の派閥問題、取引先の嫌いな奴の話しなど、たわいもない会話をしながら夜道を歩いた。途中のレストランで食事を済ませ駅へと歩き出した時、近くに公園があるからと言い出した麻依は、少し話しがしたいと切り出してきた。断る理由もなく、聖也は麻依に誘われるがまま、公園のベンチに腰を掛けた。


麻依 「もう私たち5年目になるね!」


聖也 「そうだね!」


麻依 「・・・」


聖也 「ん!?どうかした?」


麻依 「って、女の私から言わすきなの~!?ホント、聖也って鈍感にも程がある!」


少し怒った口調になった麻依は立ち上がり、一人駅へと歩き出してしまった。勿論、麻依が言いたい事は分かっている。年齢的にも"結婚"を考えていてくれてるのだろう。確かに聖也も二人の未来を全然考えていない訳ではない。ただ単に、タイミングを逃してしまったというか、今の関係に満足していたというか…、要するに、男として情けない事に、結婚の二文字を切り出す切っ掛けを完全に見失っていたのである。

聖也は立ち上がり、麻依を追い掛け始めた。しかし公園を出ようとした所で、聖也の前に立ちはだかる人物が現れた。それは少し前に会っていた"瀬川さん"であった。


聖也 「あっどうも。こんな所でお会いするなんて奇遇ですね!」


瀬川 「いえ、実はお聞きしたい事があって探していたのですよ!」


聖也 「えっ?」


瀬川 「あの…見られました?」


聖也 「何を…ですか?」


瀬川 「あの…私の…姿…」


聖也 「姿…ですか?」


瀬川 「拙者の姿を…見たのかと聞いておるのだっ!」


先ほどまでの温厚な瀬川さんは、まるで何かに取り憑かれたように別人になってしまったかと思うと、今度は聖也に向かって襲い掛かってきたのだ。凄い力で首を掴まれ、聖也は息が詰まり踠き苦しんでいた。このままでは殺されると思い、無我夢中で抵抗し瀬川さんを蹴り飛ばした。


聖也 「ゴホッゴホッ…」


間一髪の所で窮地を脱した聖也ではあったが、いったい何故自分がこんな目に合わなきゃならないのか意味が分からなかった。いくら『やめてくれ』と頼んでも、瀬川さんは本気で聖也を殺しに迫ってくる。抵抗しながら躱しつつも、とうとう壁際へと追い込まれてしまった。


聖也 (…殺される…)


もうダメだと感じた時、聖也の前に立ちはだかってくれたのは麻依だった。聖也の異変に気付いたのか、いつの間にか戻ってきてくれたのだ。


聖也 「麻依っ!逃げろっ!」


しかし麻依は聖也の前から動こうとはしなかった。豹変した瀬川が少しずつ迫りくるなか、麻依は逃げるどころか何やら呪文のような言葉を呟き始め、そして人差し指と中指を立てて、まるで刀のように瀬川に向かって振り払ったのだった。


麻依 「斬っ!」


『スパーン!!』


目映い光と共に、麻依の指先から放たれた鋭く尖った輝きが瀬川を真っ二つに切り裂いた。苦しみ悶え、倒れ込む瀬川の背中からは黒い影が現れた。それはまさに聖也が倉庫で見た"落武者"であった。そして、瀬川の体から完全に剥がれた落武者に向かい、麻依はもう一度指先を翳し、祈りを込めて斬り付けたのだ。


麻依 「護守封印っ!」


瞬く間に落武者の影は切り裂かれ、夜空へと吸い込まれるように消えて無くなってしまった。突然の麻依の行動に聖也の思考能力は停止し、理解できない状態が続いていた。目の前で起きた事が現実なのかさえ分からずにいる聖也に、そっと麻依が振り返る。


麻依 「大丈夫?」


聖也 「あ…あぁ。ていうか…何が起きたの?」


麻依 「…少し前のせいきちなら、こんな奴、一発で仕留められたのにね。」


聖也 「せいきち?何を言ってるんだ?」


麻依 「ふっ…無理もないわね。たぶん父上が記憶を消してしまったのね。」


聖也 「記憶?父上?さっきから何を言ってるの?俺には分からないよ!」


麻依 「なら、私に着いてきて。そしたらきっと、全てを思い出すんじゃないかしら…」


聖也 「でも、瀬川さんは…」


麻依 「放っとけばそのうち起きるわよ。今は疲れて眠っているだけだから。」


聖也はどうしたら良いか分からぬまま、麻依の言う通りに着いて行くしかなかった。公園を出た聖也と麻依は駅前からタクシーに乗り込み、行き先を教えてもらえないまま東京を後にした。


しばらくし、窓越しの景色は町の明かりから薄暗い田舎町へと変わっていった。もうどれくらい走っただろうか。高速道路を乗り継ぎ、もうすぐ夜が明けてしまう。そして、ようやくたどり着いた場所は日光であった。何故、こんな場所まで連れてこられたのか検討もつかなかったが、東照宮の鳥居を見た瞬間、懐かしさというか、まるで故郷にでも帰ってきたような感情さえあった。麻依は鳥居越しの東照宮を黙って見つめている。こんな眼差しをした麻依を見るのは初めてであった。聖也は声も掛けられず、ただただ麻依から何か言ってくれるのを待っていた。


麻依 「さあ、行きましょう…」


やっと麻依が話し出すと、聖也は何も言わずに後を着いていった。しかし、麻依は東照宮へと向かうのではなく、足早に脇道へと逸れていく。やがて、その行き先は林道へと入り、街灯もない道を奥へと進んでいった。

木々の隙間から見える空の色が青くなり始め、時刻は朝を迎えようとしていた。辺りがぼんやりと見え始め、少しは歩きやすくなってきたが、それでも麻依は振り返る事はなかった。


麻依 「さぁ、着いたわよ!」


やがて目の前には、廃屋と化した建物が見えた。聖也にはその建物や周りの景色に見覚えがあるような不思議な感覚であったが、何故かそこが何だったのかが思い出せないでいた。麻依に訪ねてみるも、ジッと奥の林を見つめているだけで、何も話そうとはしなかった。

麻依はゆっくり足を進め、林の中へと入って行く。聖也も遅れを取らないように麻依の後へと続いた。林の中を少し進んだ所まで行くと、そこには小さな祠のような石碑が、静かに二人が来るのを待っていたかのように構えている。祠の前にしゃがみ、麻依は目を閉じ手を合わせた。聖也も訳も分からず麻依の横にしゃがみ一緒に手を合わせる事にした。すると次の瞬間、激しい頭痛と共に聖也は意識を失い倒れてしまったのだ。


目が覚めると、聖也は自分の部屋のベッドの上にいた。聖也は夢を見ていたようだ。


聖也 「あぁ、今日は日曜日かぁ。」


聖也はお湯を沸かし、コーヒーを注いだ。リアルな夢を見ていたせいか、まったく疲れが取れていないと同時に、昨夜の夢が気になって仕方がなかった。そしてぼんやり夢を思い返していると、部屋の隅に見覚えのない木箱が置いてある事に気付いた。


聖也 「ん?これは…なんだ?」


テーブルにコーヒーカップを置き、木箱に近付いてみる。ずいぶんと古びた木箱は、今にも崩れてしまいそうなほど朽ちていた。恐る恐る蓋を開けてみると、和紙のような古い紙には…


「神君家康公ここに眠る」


と、綴られていた。

いったい中身が何なのか、予想も出来ないまま中の布切れを一枚ずつ丁寧に広げていった。


聖也 「これはっ…日本刀!?」


何故、聖也の部屋に日本刀があるのか、そして、誰がこれを持ってきたのか、検討も付かず困惑していた。今の時代に本物の日本刀は取り扱いに許可が必要な事は知っている。聖也の部屋に本物の日本刀がある訳がないし、模造刀に違いないと鞘から刀を抜いてみる事にした。柄を持ち、ゆっくりと鞘から抜いてみると、美しく光輝く刀身は紛れもなく本物の日本刀であった。そしてその美しく光輝く刀に魅了された聖也は、柄を両手で持ち切先から放たれる眩い光が聖也の脳の中を駆け巡り始めた。記憶に存在しないはずの景色、人物、会話、行動などの一つ一つが、あっという間に壮大なストーリーとして繋がり甦っていく。


聖也 「うあぁぁ!」


聖也は脱力感に襲われ、立っていられなかった。そして、頭の中を駆け巡る記憶には、かつて仲間と共に武士(もののふ)として戦い、江戸の世の混乱を治めてきたという記憶であった。頭が割れそうなほどの痛みと混乱で、自分がいったい誰なのかも分からなくなっていた。


『ピンポーン』


チャイムの音に我に返り、聖也は頭を抑えながら玄関へと向かった。ドアの向こうにいたのは麻依であった。聖也は早くこの朦朧とし曖昧な記憶を払拭すべく、すぐに麻依を部屋に迎い入れた。

麻依は聖也の様子がおかしいと、急いでソファへ座らせた。そして、朝起きると何故か部屋に見覚えのない日本刀が置かれている事を伝え、その日本刀を持った瞬間、頭の中で記憶が書き換えられるような不思議な体験をした事を話した。麻依もその日本刀が気になったのか、木箱に近付きそっと箱に手を添えたのだった。すると、麻依の様子が変わり、何やら呟き始めた。


麻依(お菊) 「私の名はお菊…せいきちさん、私を思い出してくれましたか?」


聖也 「えっ!?お菊…せいきち…何を言っているんだ…お菊…お菊・・・菊姫っ!」


麻依(お菊) 「はい、菊姫でございます。」


聖也 「うあっ、頭が割れそうだ…。でも、思い出した…俺は…お菊殿と…菊姫様と…」


麻依(お菊)「やっとお会い出来ましたね、せいきちさん!」


聖也 「どうして!?どうしてお菊殿がここに?いや、姿は麻依なのに…どうなっているんだ?たしか俺は変な祠から江戸時代にタイムスリップして、そこでお菊殿と出会った。そして…」


麻依(お菊) 「そうです。そして私の命を狙う輩から私を守ってくれたのが、せいきちさんです。その後も、江戸の世を壊滅しようとする悪人と戦い、そして江戸を救ってくれた。ここにあるソハヤノツルギと共に!」


~1年前~

毎日、自宅と会社の往復に憤りを感じていた。ある日、仕事の途中にふらっと立ち寄ったラーメン屋の店主にまで見透かされ、旅行でも行って気分転換でもしたらと促された。そして、学生時代に剣道部だった聖也は、合宿で行った日光へと出掛けた。そこで偶然見付けた石碑に手を合わせると、聖也は意識を失い江戸時代にタイムスリップしたんだ。江戸の町ではすぐに怪しい者と疑われ捕らえられてしまった聖也を、一人の女性が助けてくれた。それがお菊だ。聖也は江戸ではそぐわない聖也という名前から「せいきち」と変え、そこからは、お菊の周りで起こる不穏な出来事に聖也は三田新之助と共に戦い挑んだ。幾度と重なる敵の襲来に、とうとう人質となってしまったお菊を救うべく新之助と一緒に旅へと出発した。途中、新たに仲間に加わった甚八も共に戦ってくれた。そして、とうとう黒幕であった大上歳善を打ち負かす事に成功し、お菊を救えたのだ…。



聖也 「そうだ!この背中の傷跡も、その時に斬られた時の傷だったんだ!しかし、なんで俺はこんな大事な事を忘れていたんだ?」


麻依(お菊) 「それはお父上の仕業かと…」


聖也 「お父上?…て事は、家康様!」


麻依(お菊) 「そうです。父上は私を慈愛するが故に、未来からせいきちさんを呼び出してしまった。しかしその行為は天界ではご法度とされています。この時代に生きるせいきちさんにとって、江戸での出来事は記憶に留めてはならないのです。せいきちさんの記憶に江戸の記憶が残ったままでは、(とき)に歪みが生じてしまう。この時代で言うなら時空が歪むとでも言うのでしょうか…。そこで父上はせいきちさんの記憶を消さざるを得なかったのです。」


聖也 「そうだったのか…。でも、逆に今度はお菊殿がこっちの時代に居るのも同じ事なんじゃないのか?」


麻依(お菊) 「そうなのです!せいきちさん、昨夜の事を覚えていますか?」


聖也 「昨夜?いや、実はあまりおぼえていないんだ。」


麻依(お菊) 「瀬川さんという方に襲われた事です。」


聖也 「えっ?あれは夢じゃなかったのか!?」


麻依(お菊) 「瀬川さんの体から現れた暗い影…あれは戦いに敗れ散っていった武士の魂…すなわち霊魂。すでに刻の歪みは起きていて、その隙間を掻い潜ってすでにこちらの時代に霊魂が流れてきているようです。何年もの月日が流れ、やっと成仏できた魂も、志し半ばで散っていった瞬間は、無念の思いから成仏出来ずに彷徨っていました。その時の浮遊霊が刻の歪みを越えこちらの時代へ流れ、波長の合う人間に取り憑いてしまうのです。父上がその歪みを元に戻すよう努めていますが、その間に少しずつ武士達の魂が流れてしまっているのです。その魂を鎮め、天界へと誘う事が出来なければ、この時代は無念に散っていった武士達の狂気に覆われてしまう事てましょう。」


聖也 「そうだったのか…。話しの内容は分かったけど気になる事が二つ…。まず一つは、その霊魂を天界へと返すにはどうしたらいいのか?」


麻依(お菊) 「瀬川さんに憑依した弱い魂なら、私の封印術で剥がし取る事は出来ます。しかし父上の話しによれば、すでに江戸の世で猛者と呼ばれた"もののふ"の魂が刻の歪みを抜けていったようなのです。そうなると、私の力では魂を鎮める事は難しいでしょう…。そこで、せいきちさんの力を借りたいのです。このソハヤノツルギの力を使って、憑依した肉体的から魂を斬ってほしいのです!」


聖也 「そんな事が出来るのか?それに、刀で人を斬ったら人間を斬ってしまう事になる。それと、この時代では刀を持ち歩く事は禁止されているから、容易には持ち歩けないよ。」


麻依(お菊) 「大丈夫です。鞘にこの護守札を貼っておけば、他の人からは見える事はないでしょう。そして、このソハヤノツルギには父上の切望の意と、封じの経を掛けてあります。人を傷付ける事なく霊魂だけを斬る事が出来ます。」


聖也 「では、もう一つの疑問なんだけど、お菊殿も危険な目に合うかもしれないのに、どうしてまたこの時代に…?」


麻依(お菊) 「それは・・・私はせいきちさんをずっと・・・いえ、それはいずれ分かる時が来ると思います。その時まで・・・今は・・・。

かつての無念を引きずった霊魂を鎮め、どうか共に刻の歪みを修復し守って頂きたいのです!」


お菊はそう言い残すと、麻依の顔はいつもの穏やかさを取り戻していった。どうやら麻依の体からお菊は消えていったようだ。麻依は今起きていた事をまったく覚えていない様子で、ポカーンとした表情を浮かべ聖也を見ている。

どうやら聖也は、またソハヤノツルギと共に武士(もののふ)として現代でも戦う事になりそうだ…。


エピソード1

おわり


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