かっこいいって?
「クロ太、おはよう。今日もかわいいなあ。」
パパさんがニンマリ笑って、大きな手で頭を撫でてくれる。
「クロ太、おまけよ。」
ママさんが、エサにニンジンをつけてくれた。
「クロ太、行ってくるね。」
姉ちゃんもパパさんもいなくなって、忙しそうにしていたママさんも、しばらくしたらいなくなった。家の中は静かで、毛づくろいをしたらやることもない。
寝よっかな。
ゴロゴロしてダレダレして、どのくらい経ったか分かんないけど、ようやく誰か帰ってきた。足音は幾つかあるけど、一つは姉ちゃんだ。
お帰り、姉ちゃん。おやつちょうだい。撫でてくれてもいいよ。
待っていたら、すぐに姉ちゃんとその他が入ってきた。
「クロ太、ただいま〜。」
「クロ太くん、こんにちわ!」
姉ちゃん以外は誰だか知らないけど、いらっしゃい。
まあ、おやつくらいはくれてもいいよ。
「モフモフ〜。」
うん、まあ、抱っこもいいけどさ。
「ふわふわ。気持ちいい。」
撫でるのもまあいいけどさ、姉ちゃんのほうがいいなあ。・・・気持ちはいいけどね。
「かわいいねえ。」
まあね。
「鼻がぴくぴくしてるとことか、たまんないよねえ。」
そうかな。
「もう、全部がかわいいよね。」
そうなんだよねえ。みんな必ず可愛いって言うから、てっきりそれが一番の褒め言葉だと思ってたんだよ。でもユキちゃんたちの反応は違ったんだよね。
何の話だったか忘れたけどさ、
『オレ、かわいいから。もちろん、君たちもね。』
って言ったら、ユキちゃんはキョトンとして、目をパチパチしたんだ。
うん、本当はしてないよ。そんな感じがしたってだけ。
『かわいいは、ないわねえ。』
『うん、おかしいよね。』
『うん、そうだね。』
『え・・・?なんで?姉ちゃんたちはよく言ってるよ?』
『それはね、人間が私達を見たら、かわいいって言うけど、ウサギ同士は違うのよ。』
『そうだなあ。ウサギ同士だとねえ。』
『ねえ。子どものうちはいいけどねえ。』
『ねえ。』
『じゃあ、何だといいの?』
『かっこいい、のほうがいいかな。』
『うん、そうだね。』
何それ。聞いたことないよ。
『かっこいいって、なに?』
『お、お前、さっきはいい食いっぷりだったな。』
声をかけてきたのは、少し年上のウサギだった。鼻先とお腹まわりが白くて、後は黒い。ユキちゃんたちより体格よくて、なんかどっしりして、ドキドキするなあ。
『ミタロウ兄さんだ。』
『兄さんだ。』
『お前、新入りなのか?』
『ミタロウ兄さん、クロくんは、お姉ちゃんのお友達のとこに住んでるのよ。』
『そうか、遊びに来たのか。』
『う、うん。』
『クロくんね、押しくらまんじゅう強かったよ。』
『そうか、今度オレともやろうな。』
そう言って、少し離れたところにいる、うす茶色のウサギのところに行った。鼻先を合わせて、それから体を舐めてあげてる。
『ミタロウ兄さんは、フミ姉さんと番なのよ。』
『ふ〜ん、・・・つがいって?』
『・・・つがいは、つがいねえ。』
『そうだねえ。』
『ねえ。』
『クロくんとこの、パパさんとママさんと同じよ。』
『ふ〜ん。』
なんか、他のウサギたちより仲良さそうだ。
『ミタロウ兄さんは、かっこいい、だね。』
『あ、そうそう、そうよね。』
『そうだ、そうだ。』
『え?そうなの?』
それからじーっとそのウサギを見ていたけれど、やっていることは他のウサギと変わらなくて、結局かっこいいが何なのか分からなかったんだ。
「あ!見てみて!リュウ君だ!」
「わあ!ほんとだ!かっこいい!」
姉ちゃんたちが何か見ながら嬉しそうに叫んでる。
どれどれ!かっこいいどれ!オレも見たい!
「お、この車、かっこいいな。」
え!どれどれ!オレにも見せて!
「どうだ、この革ジャン。かっこいいだろ。」
「う・・・ま、まあ、たまには目先変わっていいかもね。」
どれどれ!
「ええ?なんかダサい。」
「はうっ。」
「あかりっ。(思っても言わないの!パパが拗ねるでしょ!)」
「ええ〜、だってえ。」
え?違うの?
あれから姉ちゃんやパパさんたちがかっこいいの話をするのが耳につくんだけど、やっぱりよくわからないんだ。
かっこいいって、何?