クロ太、仲間に会う
ある日、姉ちゃんの友だちが来た。その友達は、もう一匹のオレを連れている。
『え、君、なに?』
いや、毛色はぜんぜん違うんだけどさ。
『あら、新しいお友達?あなた、他のウサギを見るの初めて?』
ウサギ・・・そういえば、昔いたとこで、ブチってやつと相部屋だったっけ。忘れてたよ。鼻を近づけて挨拶するんだっけ。なんか、ホワンと懐かしい匂いがする。
『君、だれ?』
『あたし、ユキっていうの。あなたは?』
『オレはクロ太だよ。』
『あなた一人?』
『そうだよ?なんで?』
『仲間がいなくてさみしくない?』
『え?別に。あかり姉ちゃんもママさんもパパさんもいるもん。君は?』
『うちは、仲間がたくさんいるの。今度遊びにいらっしゃい。』
『へえ、仲間か。』
興味あるような、あんまりないような。
とりあえず、ユキちゃんは、真っ白でほっそりしていて、ちゃんとエサもらっているのかなって感じだった。
オレのエサ、分けてあげたほうがいいかな・・・。
『あら、ありがとう。でも大丈夫。うちはみんな、こんな感じよ。あ、これはありがたくいただくわね。』
「ふふ、かわいい。一緒に食べてる。」
「もう仲良くなったのかな。」
「クロ太はいつも一人だから、お友達ができて良かったね。」
「今度うちにおいでよ。うち、ウサギ小屋があるんだよ。」
「え?ほんと?行く行く!クロ太、お友達がいっぱいだって。」
『うん?オレは別にいいんだけどな。』
『あら、いらっしゃいよ。こういうエサもあるけど、ニンジンとかキャベツも多いわよ。』
『そう?じゃ、行こうかな。』
それから何日かして、そんな会話をしたことも忘れた頃、姉ちゃんがオレを抱っこして外に出た。
うわあ・・・外だ・・・なんか気持ちいいな。風がふわ〜と通っていってさ。姉ちゃんと一緒だからべつに怖くないし。
着いたところには、うちの部屋より少し小さいくらいの小屋があった。中に入ってみると・・・おお、オレと同じようなのが何匹もいる。
『あら、あなた。』
『あ、君・・・ユキちゃんだよね。もちろん覚えてたよ、うん。』
『ええ、クロくんよね。もちろん覚えてたわよ。』
『・・・クロ太だよ。』
『ええ、分かってるわ。』
鼻を近づけて挨拶をしたら、他のも近づいてきた。
『なになに?新入り?』
『君だあれ?』
『ユキの知り合い?』
『うん、そう。新しいお友達のクロくんよ。』
『クロ太ね。』
『うん、そう。あ、でも家は別の所にあるのよね。ほら、あの女の子と住んでるの。』
『誰だろう?』
『誰だろうね?』
『うちのお姉ちゃんのお友達かな。』
『そっか、そうだね。』
『じゃあ、よろしく。』
『よろしく。』
挨拶したら、みんなほんわかしてて、なんかホッとする。姉ちゃんに抱っこしてもらってるのとはちょっと違う。
『遊ぼう。』
『遊ぼうよ。』
『穴掘りしよう。』
『あなほり?』
『ほら、こうやって・・・』
前脚で地面を強く掻くと、みるみる穴ができていく。
『ほら、君も。』
真似をしてみたら・・・
おお?何だこの感覚。オレん家の金網とか、ツルツルした床だと、こうはいかない。湿った土の感触が気持ちいい。足を動かすとしっかり土が押し出されて窪みができていく。
『クロくん、初めて?』
『みんな上手だなあ。いつもこれやってるの?』
『まあね。ちょっと暇だと掘りたくなるんだよね。』
見ると、あちこち穴だらけだ。
『時々、ご主人が崩しちゃうんだけどね。』
『次は押しくらマンジュウしようよ。』
『かたまれかたまれ。』
『ワッセ、ワッセ』
みんなで塊になって、キュウキュウと押し合う。
なんか楽しくなってきた。
『クロくん、強いなあ。』
だってみんな華奢なんだもん。
『あ、おやつが来たよ。』
『ニンジンだ、ニンジンだ。』
『キャベツもあるよ。』
『よし、早食い競争しよう。』
な、なんか分かんないけど、負けられないぞ!
いつものおやつタイムとは違って、緊張感があるけど、なんか楽しい。
『クロくん、やるなあ。』
うん、頑張ったよ。味わう余裕なかったけど。
『君たちもね。』
『えへへ。ボクたちいつも競争だからね。』
『ね~。』
『そっかあ。大変だなあ。』
『でも、楽しいよ。』
『ね~。』
『う~ん、まあ、たしかに。』
「クロ太、お友達がいっぱいできたみたいね。」
帰り道、姉ちゃんが抱っこしながらそう言っていた。程よく動いて食べて、姉ちゃんが歩くのに合わせて揺れるのが気持ちよくて、なんだか眠くなってきた。
楽しかったよ。面白かったよ。でもやっぱりここが落ち着くな。
ふわふわ揺れて、家についたときには、目がくっついてたよ。