クロ太、外を見る
この部屋には、窓っていうのがある。向こうが透けて見えるけど、硬い壁があって、向こうには行けないんだ。
オレん家からだと、あんまりよく見えないけれど、姉ちゃんが窓のところに連れて行ってくれたときは、色々見えて面白かったんだ。時々怖いのもいたけど、こっちに気づかなかったし、姉ちゃんがそばにいたから平気だ。あっちに行けないってことは、こっちにも来れないってことだもんね。
久しぶりに部屋の中に出してもらって、あちこち動き回ってたら、ちょっと高いところに上がれることが分かった。ソファっていうんだ。姉ちゃんたちがよくここに座ってる。その上で遊んでいたら、窓のそばまで行けることが分かったんだ。
周りは建物がずっと並んでる。外にいる人間は、しゃがんで何かやってたり、長い棒みたいので地面を引っかいてたり、前だけを見てせかせか歩いていくのや、ぼんやり気の抜けた顔で歩いているのがいて、面白い。時々危険なヤツを連れてるのがいたり、空を飛ぶ影があったりしてヒヤリとするけど。
あ、あれなんだろう?
細い塀の上を歩いて何かがこっちにやってくる。あんなとこ、よく歩けるな。俺なら落っこっちゃうよ。長い尻尾をゆらゆらさせながら、器用に足を運んでいる。
お、こっち気づいた。
ジーっと見てくるんだけど、その目つき、何かやだなあ。ぞわぞわするんだけど。
歩き方も変わったぞ。そろ~りそろ~りと目を光らせながら近づいてくんの、やめてくれないかなあ。落ち着かないよ。姉ちゃんも、ちょっと待っててって言ってどっか行っちゃったし。
かなり近づいてきたけど、そこからこっちへは来れないだろ?しっぽ揺らしながらため作ってるけどさ。
おっ!ジャン・・・プしたのに、滑って落ちてったぞ。何やってるんだろう。
ちょっとそわそわしながら見ていたら、何かが下からにゅっと出てきた。
なんだ?おお、前肢だ。
お、もう一本。
・・・うわあ、顔だ!なんだおまえ!
窓の向こうにさっきの光る眼のやつがいる!!
ぞわっとしておもわずソファから落っこちそうになった。
そ、そ、そこからこっちには、来れないんだからな!
・・・なんだろう、なんか苦しそうだな。
前肢で一生懸命向こう側の出っ張りを引っかいてるけど、体まで上がってこれないようだ。用心しつつ様子を見ていたら、ドアが開く音がした。
「クロ太。」
ねえちゃん!変なヤツがいる!ほらそこ!
「クロ太。おとなしくしてた?」
ねえちゃん!ほら!・・・あれ?消えてる。・・・また落ちたか?
姉ちゃんは俺のとこまで来て、外をじーっと見た。
今ね、今ね、変なヤツがいたんだよ。
「なんもいないね。」
いや、あの、でもね。
「クロ太。おやつ食べる?」
え・・・?おやつ・・・?
食べる!今日は何かなっ。ニンジンかな、キャベツかなっ。
え~と・・・あれ?なんだったんだっけ?