クロ太、エサ箱に入る
「クロ太、ご飯だよ。」
そう言って、あかり姉ちゃんが部屋の窓を開けて、エサを入れてくれた。
やった!
「ちっちゃくてかわいいなあ。」
姉ちゃんの隣には、おっきな人がいる。最初に厳つい顔が覗き込んできたときはびっくりしたけど、ふやけそうな笑顔で撫でてくれた手は、ごつくてあったかかった。
「ちょっと、パパ。せめて着替えてきてよ。」
「うんうん。」
ママさんが何か言っているのに、にこにこしたまま頷いて動こうとしない。
ママさん、ちょっと怒ってるみたいだけど?
よいしょっとエサ箱に前肢をかけて伸び上がる。
なんかさ、エサまで遠いんだよね。箱の縁は高いしさ、エサはその中にあるんだもん。伸び上がって、そのあと頭を箱の中に突っ込んで。
なんか、食べにくいなあ。
「ほら、こっちもご飯だから。朱里、手伝って。パパ!早く手洗って着替えて!」
姉ちゃんたちもエサの時間みたいだ。
オレのエサと違うみたいなんだよね。嗅いだことのない匂いがするし、ポリポリ音がしないんだ。しかもさ、前にいたとこの動物たちは、エサを食べるときは静かになったもんだけど、姉ちゃんたちはむしろ賑やかになるんだ。なんでだろうな。
それにしても、食べにくいなあ。エサは食べたいけど、この体勢苦しいよ。
一生懸命頭を伸ばしていたら、後ろ肢が浮いてしまった。
うわわ。
じたばたしていたら、するんとエサ箱に入っちゃった。
お、ジャストサイズじゃん?
な~んだ、こうすれば楽に食べられるじゃん。エサがベッド替わりなんて、最高だ!
思う存分食べたら、ちょっと眠くなってきた。うとうとしていたら、あかり姉ちゃんの声がした。
「見て見て!クロ太ったら、エサ箱に入ってるよ。」
「お、ホントだ。」
「ピッタリね。まるで測って作ったみたい。」
いいでしょ。居心地いいよ、ここ。
「でも、そこは寝床じゃないからね。」
摘まみだされてしまった。
「あ、クロ太~。エサ箱の中に糞してる。」
うん?だって食べたら出たくなるじゃん?外に出るの面倒だったし。
あ、でもオレ綺麗好きだから。新しいのに取り換えてくれよな!
「何か別の入れ物にするか。」
「そうね。この子にはまだ大きかったわね。」
オレのエサベッドが戻ってこない。代わりに小さい丸い皿がやって来た。
え~、なにコレ。
夜になると、みんな他の部屋に行っちゃって、ポツンと静かになった。小さい皿は、今は空っぽだ。
確かに食べやすくはなったけどさ。ちょっと小さくない?
つついてみると軽い皿は簡単に動く。ガジ、と嚙みついてエイッと持ち上げてみる。
軽いな。
パッと離すと、カチャンと結構大きな音がした。
お、いい音かも。
ひと眠りするとおなかが減ってきた。そろそろ誰か起きてこないかな。他の部屋にいても、起きてきた音は分かる。オレ、耳いいからな。
ほら、足音が聞こえてきた。待ちきれなくてもぞもぞと伸び上がってみるけど、まっすぐここには来ない。駆け回ろうとしたけど、オレん家狭いからな。ガタガタと音はするんだけどさ。
う~ん、気づかないのかなあ。何かもっと・・・あ、いいのがあった。
小さいエサの皿を持ち上げて落とす。
カチャン。
もう一回。
カチャン。
「クロ太?何の音?」
何度目かでやっとママさんが来てくれた。
やった!ママさん!エサ!
「あら、これで音を立てたの?はいはい、お腹空いたのね。ちょっと待って。」
やった!いい方法見つけた!おっきなエサベッドも良かったけど、このちび皿も役に立つじゃん!
しばらくして、あかり姉ちゃんとパパさんが水を替えに来てくれた。
「クロ太、このお皿で音立てて、餌を催促したんだって。」
「へえ、考えたなあ。」
「クロ太、頭いいね~。」
「うん、さすがうちの子だ。」
なんか知らないけど、褒められた。えへへ。