クロ太、家族ができる
退屈だなあ。
相部屋のブチは眠そうに眼を閉じている。
早くエサの時間にならないかな。
部屋の外では、いろんな動物の鳴き声がしていて、同じエプロンの兄ちゃんや姉ちゃんが動き回っている。ときどき、初めて見る顔がニョッとオレの部屋を覗き込んでは何か言っている。
「ウサちゃ~ん!」
うさちゃ~ん、が何か分かんないけどさ。叩くなよ。びっくりするじゃんか。
部屋の奥で縮こまっている相棒のところにノソノソ移動して乗っかってみたけど、ブチはうとうとし続けている。
「こっち向いて~!」
やだよ。エサもくれないのに。
「あ、ゴメンね~。ウサギさん、びっくりしちゃうから、そこ叩かないでね~。」
そうそう、言ってやってよ、兄ちゃん。ところで、エサまだかな?
『おい!そこのニンゲン!ここはボクの縄張りだぞ!』
『ね~、エサまだあ?』
『遊んで!遊んで!遊んで!』
『ちょっと。そうじろじろ見ないでくださる?』
あ~、暇だなあ。
外ではいろんな動物の声がしているけれど、部屋の中には話し相手もいないし、やることもない。相部屋だったブチは、カゾクとかいうのが出来て、いなくなってしまった。外には相変わらず、エプロンの兄ちゃんと同じような生き物がうろうろしていて、時々覗き込んでくる。
暇だから顔でも洗お。
前脚をぺペッと振って、舐めてから念入りに何度も顔をこする。長い耳の後ろも忘れちゃいけない。
ついでに毛づくろいもするか。前肢にお腹に後ろ肢、と。背中もできる限り念入りに。こういう時、相棒がいると頭の届かないところもやってもらえるんだけど、いないものはしようがない。全身しっかり舐めてキレイにして。
・・・終わってしまった。あ~あ。
「ママ、見て。真っ黒な子がいる。」
「あら、珍しい。綺麗な毛並みね。」
うん?オレのこと?
「抱っこしてみる?」
「え?ほんと?!」
「いいんですか?」
「どうぞ。」
エプロンの兄ちゃんが入り口を開けたから、エサをくれるのかと思ったら、手を伸ばしてきてあっという間に首根っこをつかまれた。
うわお、外に出るの久しぶりだ。なんか落ちつかないなあ。
そうしているうちに、兄ちゃんより小さい腕に乗っけられた。その腕はあったかくて柔らかくて、お日様のようないい匂いがした。
ああ、これ、女のコだな。
「かわいい~。ふわふわ。あったか~い。」
そう言って、女の子はもう片方の手でそっと撫でてくる。
お?なんか気持ちいいぞ?特にそこ。耳の間とか頭んとこ。
「おとなしいね。」
う~ん、気持ちいい。とろける~。
「なんか、うっとりした顔してるわね。」
「ママ。この子飼いたい。」
「そうねえ。」
・・・あれ?終わった?もっと撫でてくれてもいんだけど。
なんかよく分からないうちに、新しい部屋に入れられて、足元が揺れる乗り物に乗せられた。
なんだこれ?時々揺れ方が変わるのが、変な感じだ。
ときどき、あの女の子の声が聞こえてくるけど、姿は見えない。
ようやく止まったと思ったら、知らないところに運び込まれた。
どこだここ?他の動物の声が聞こえなくて、すっごく静かだ。
「朱里。エサとお水、あげなさい。」
「はあい。」
あの女の子がエサをくれたけど、なんだか落ち着かなくてきょろきょろしてしまった。
ここ、どこだろう?
「名前は何にする?」
「う~ん。黒いから、クロ太!」
「・・・うん。まあ、いいんじゃない?」
「ク~ロ太。」
それ、オレのこと?オレを見ながら、すごくうれしそうに言っているけど。
「私は朱里だよ。クロ太は今日からうちの家族だよ。」
そう言って、女の子はあったかい手で背中を撫でてくれた。
カゾクって何だろ。ブチにできたっていうのと同じかな。よく分からないけど、なんか安心してきた。安心したら、おなかがすいてきたな。
エサ、食べよ。