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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第十話【銀の三角】

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その03 女戦士

 胸壁の掃除を続けていると、ティカイの方から歩いてくる人影が見えた。陽の光を受けてピカピカと光っている。

 金属の、たぶん鎧か何かを着ているのだ。


「狙撃しますか?」

「やめたげてよ」

「冗談ですよ」


 エーコちゃんの冗談は剣呑だからなぁ。

 こうやって見ると聖パトリルクス修道院が砦跡だという話に納得ができる。見渡しがよく、デコボコの壁の間から矢を射掛けたら一方的に攻撃できそう。


 最初は判別付かなかった人影だが、段々と輪郭が見えてきた。光っているのは金属の胸当て、がっしりした体付きに短く刈った金髪。

 昨日の女の人だ。


「御免! 御免仕る!」

「女騎士ってやつだね、しゃべりかたもそれっぽいし」

「騎士ではないですね、長剣を下げていない」


 長剣は騎士階級の証明である。騎士になれるのは貴族の子息か、武勲を上げた兵士なのだが、彼女はそのどちらでもないということだ。

 それにしてはいい鎧を着ている。陽光を浴びてピカピカ光る板金の胸当て。


「拙者はタガサット家郎党、タハン。こちらにトチェド・タガサット様がおられると聞いて推参した次第にござる!」


 声が大きいな、私は胸壁の影から見下ろし耳をそばだてた。


「タガサット領は今、暴君の支配に喘いでござる!

 邪悪なる簒奪者により先代領主は暗殺され、民は困窮し、希望のない暗黒の日々を過ごしておるのです!」


 カルミノさんから話を聞いているため、それが嘘なのは知っている。でも、あそこまで自信満々に叫ばれると、嘘ではないのかもとか思っちゃう。


「迷惑なので大きい声はやめてください」

「トチェド様!」


 正門から出ていくトチェド。一人で大丈夫だろうか?

 でも、わざわざ下に行くのも野次馬みたいで嫌だな。


「イウノ先輩、向こうのニカお姉さまとヘアルトを連れてきてください。

 私ならば下の話が聞き取れます。『エルフ』は顔と性格だけでなく耳もよいのです」

「エーコちゃん、可愛くて優しいもんね」

「…………冗談を真に受けるのはやめてください」


 私は下の様子が気になっている二人を連れて、エーコちゃんの所まで戻る。


「手前はがさつな男はノーサンキューですね。武闘派の郎党なんて優雅さの欠片もない山賊みたいなものですから」

「山賊なんて、主人を失って帰れなくなった郎党がなるもんだしね」


「そもそもあの人女の人ですよ? ヘアルトは頭だけでなく目と耳も心配になりますね」

「エーコちゃんは顔も性格も目も耳もいいけど、時々口がね……」


 風が強くて下の音も聞こえないが、同様に下からも聞こえまい。

 私たちは好き勝手言いながら車座を組んだ。


「静かに……始まりましたよ」



「昨日は突然失礼仕り申した。トチェド様にございましては健康そうで何よりにござる」

「形式張った挨拶は不要です。謝罪も受け入れますが、もう一つ、必要な謝罪があるのではありませんか?」


 トチェド、やるなあ。私は感心した。当時寝ていたヘアルトは意味がわからない様子だが、エーコちゃんはニカお姉さまを見た。


「何の事でござるか?」

「しらばっくれるな無礼者め」

「拙者、酒は飲んでござったが、礼儀と礼節に欠けた行いは取っておらんでござる」


「ニカお姉さまではありませんが、あの女バラしていいですか?」

「エーコちゃん、口」

「そうよ、お姉さんそんな悪いこと言わないわよ?」

「言いました」「言ってました」


「ニカお姉さまを公衆の面前で罵倒し、良からぬ噂を吹聴したことを言っているのです」

「事実ではござらんか」


 タハン? タバン? なんて名前だったたか……話の通じない女だ。いや、本物のニカトールはそう言われても仕方のない女かもしれないけど。

 それでも、ニカお姉さまの名誉を傷付けられたのはとっても嫌だ。


「お姉さんは別に何を言われてもへっちゃら何だけど……ごめんウソ、やっぱりイラッとしちゃうな。それと、噂が広がるのはちょっとマズい。でもそれより、トチェドがああ言ってくれる方が嬉しいかも、後でキスしてあげようかしら」

「そういうのは酔ってる時だけにしてください」


「…………しかれども、トチェド様が仰るならば、従う他ござらんか。いかな悪人と言えども、衆人環視での面罵は礼を欠いてござった。以後気を付けるでござる」


 納得行かない。


「納得行かないですね」

「エーコ、あれは男女間の駆け引きと同じですよ? 譲歩して手綱を取られた方が下。謝ったら主導権を握られてしまうのです。時には逆転されるのも乙なものでございますが」

「ヘアルト、黙ってて」


「それで、何の用ですか? 昨日ボクはあなたから逃げました。意思は表明していると思いますが。それとも口で言わねば分からない無能ですか?」


 トチェド攻めるね。これはどう返しても自分は無能だと認めることになる。

 普段は控えめなのに、こんなにはっきりと言っていて、大人にも負けない。


「トチェドさん、毅然としていて格好いいですね……あれで男の子だったら手前は黙って座っていられないですね」

「黙って座ってて」


 へアルトと同じ意見なのは嬉しくないな……。


「トチェド様は、タガサット領内の酷さを何もご存知ござらん。詳細を知れば、必ずや我らと共に立ち上がって下さろう」

「その前に二つ」


 話を聞かなかったトチェドが悪いと言い張るタパン。


「まず、ボクは『話を聞きたくない』という意思表明をしていたのですが、完全に無視した物言いは、己の無能を棚上げしてはおりませんか?」

「む、それは……」

「言い訳無用!」


 ピシャリお言い放つトチェド、ターバンに二の句を継がせない。


「そもそも、本当にボクは先代領主の血を引いているのですか?」


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