表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第十話【銀の三角】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/117

その01 帰路

 タガサット伯爵家はティカイ領から南東に位置する、街道沿いに歩いて四日程度の距離らしい。ずいぶん近いね。


 タガサット領北部は平原に面していて、自由民との交流があるそうだ。平原の自由民は『ファンガーロッツ』信仰の遊牧民で、『半人半馬(ケンタウロス)』も一緒だとか。

 伯爵家の多くは、国境沿いに存在する。隣国あるいは蛮族に対抗するために大きな領土を与えられているのだ。

 

 一般的な伯爵は、外敵に対処することが求められる。だから他の貴族よりも武闘派で、魔物討伐の最前線に立ってその存在感を示すくらい普通にあるらしい。


「タガサットの先代当主の政治的手腕は皆無、その上将兵としても並み程度でなぁ」


 宿の朝食は驚くほどに豪華でめまいがした。焼き立てのパンに炙った腸詰め、生野菜に果物、温めたミルクまで付いてきた。

 朝食前には帰るつもりだった私たちだったが、トチェドが朝食代を出すことでカルミナさんからタガサット領の現状を聞き出すことにしたのである。


「民からの不満とかは無かったんですか?」

「どっちかってぇと『天冥戦乱』以降は自由民との交易が出来んくなった方が痛手やね。不満はあったと思うで。

 せやから無能なりに粘り強く交渉して、お互い武装解除まではこぎ着けてん」


 大事なのはあの女の人の言っていた事が事実だったかどうかだ。

 つまり、本当に民が虐げられているのかどうか。


「現当主はどうなんですか?」

「中の下やね。でも、財政を圧迫してる原因を突き止めて対処する程度の能力はあるんよ」

「常備軍ですか?」

「冗談抜きで、今のトチェドが領主になったほうがまだええ」


 軍隊が金食い虫なのは知っている。冷静に考えなくても分かる。

 職業兵士が十人居たら、その十人分のお給料が毎日必要になる。装備台も必要で、馬なんか家より高いという。


 ほとんどの街では治安維持のための衛兵を兼ねる。普段は門番や巡回、喧嘩の仲裁や貴族の護衛をしている人たちが、必要に応じて前に出て戦うのだ。

 必要な仕事ではある。特に伯爵領は危険と隣り合わせなのだ。


「自由民と友好を結んだから、兵が余っていたんじゃあないんですか?」

「ニカ、こいつ可愛げないんやけど」

「優秀でしょ?」


 ニコニコと朗らかにニカお姉さま。


「ああ、部下と仕事を取られて、馴れない文官の真似事をさせられて……虐げくられてるのはあの女の人ってことか」

「ですね。自分の不満をさも領民全体のものであるかのように語っているだけで」


 これでとりあえず対処は決まった。

 カルミノさんは朝一番で早馬を頼み、タガサットへの報告書を送るそうだ。


 徒歩で四日の距離だけれども、早馬ならば半日だ。

 馬に『持久力』と『急ぎ旅』の魔法をかけることで疲れ知らずの駿馬を擬似的に作る。


「僕がはじめたんよ」

「本に書いてありましたよ『今でこそ一般的だが、この頃はカルマだけがこのような魔法の使い方をした』って」


 『持久力』は不寝番や長期の肉体労働のための魔法で、『急ぎ旅』は集団の徒歩速度を上げる魔法だ。

 カルマ……カルミノさんは商人だが、魔法学者という特殊な肩書も持っている。


 魔法を研究して、他の人が考えつかなかった使い方を研究するからだ。


「ではな弟子よ。明後日、『来訪祭』でまた会おう」

「はい、おやすみなさい」


 夜型のレイさんは朝ご飯を食べたら寝てしまう。

 ちなみにベタくんは昨日のうちに『自警団』のねぐらに帰っていた。


「例の女は喧嘩騒ぎで今日は留置所だよ。帰りは待ち伏せされないけど、この後そっち行くかもね」

「ガッマは? 仲良く留置所?」

「アネゴに注意は受けてたけど、別に」

「ふーん」


 見送りに来ない事に不満があるのだろう、唇を尖らせるニカお姉さま。可愛い。


「ガッマさんも板挟みで大変ですね」

「でもトチェド、私たちもお小言が待ってると思うよ?」

「…………確かに」


 緊急だったとは言え無断外泊だ。その上私は朝の当番もサボってしまった。ヘアルトがやるとは思えないから、ロドゥバにけちょんけちょんに言われそうだな。


 院長先生は笑って済ますが、おばあちゃん先生があれで結構ルールにはうるさい。

 危険なことや誰かに迷惑をかけることを許さないので、今回はメッてされるだろう。


 東門を出て我らが聖パトリルクス修道院へ。短い距離を談笑しながら歩く。

 いつも通り門は空いていて、ヘアルトとロドゥバが箒で掃除をしていた。


「あ! 戻りましたわね!」

「良かったですねロドゥバ、心配して夜中までウロウロしていたし朝も痛い痛い痛い!」


 箒の柄でスネを叩かれてうずくまるヘアルト、アレは痛い。ロドゥバは肩を怒らせてふんぞり返る。


「何か言う事はありませんの?」

「心配かけてごめんなさい」

「昨日は迷惑をおかけしました」

「ヘアルト放置してごめんね」


 ロドゥバは頭を下げる私たち三人をギロギロを睨んだ。

 いたずらを見咎められた小僧の気分だ。


「帰ったら最初に言う事は違うと思いますわよ?」


 私たちは顔を見合わせた。


「ただいま」


「おかえりなさいまし。朝食は残してありますわ。皆を呼んできますので、準備して待っていなさい。

 ヘアルト、何をサボっておりますの! 二階に走って先生方を呼んでいらっしゃい!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ