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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第九話【アウェイ】

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その08 『災い魔』

 がっしりした体付きのその女の人は、他のお客さんを押し分けてすっ飛んできた。

 日焼けした肌に刈り込んだ金髪。顔が赤いのは飲んでいたからだろう。


「あ……」


 身を震わせるトチェド、これはダメだ。私はニカお姉さまから手を離して庇う位置に移動する。

 そんな私の前にエーコちゃんが位置取り。


「よもや拙者をお忘れでござるか? タハンにござる。タガサット家郎党の」

「し、知りません……」


 声の大きい女性客。郎党ということは、トチェドの家に仕えてる人なのだろう。

 私はガッマさんに背負われたヘアルトを一瞥した。


「どこの誰だか知らないけど、うちの可愛いトチェドを困らせるのはいただけないなァ〜」

「むむ……貴様、ニカトールか……? 『災い魔』ニカトール・デウランス!? なぜ貴様がここにおるのだッ!」

「ほえぇ……?」


 驚きとともに、強い警戒心が女性客に浮かぶ。『災い魔』? ちょっと穏やかではないあだ名だ。

 チラと振り返るってギョッとした。ニカお姉さまの目が座っている。


「トチェド様、危険ですからお離れ下さい! その女は貴族学校で十人以上を―――」

「おい、滅多な事ォ言ってンじゃァねェぞ?」

「むぎゅっ」


 何かを言おうとする前に、ガッマさんが女性客の襟首を掴んでいた。

 哀れなヘアルトが地面に放り出されて変な声を上げている。


「酔いが醒めちゃった……なんだっけトチェド、『それ』……バラしていいんだっけ?」

「おいガキ共、その女止めろ!」


 背後から放たれる冷え冷えとした声。ええと、どうしたら良いのだろうか。

 ロドゥバはヌーヨドを抱きしめて怯えた顔。チオットもオロオロして動けない。つまり私しかいないっぽい。


 私は振り返るとトチェドとニカお姉さまの手を握った。


「先に帰ってて!」


 女性客などお構いなしに、私は二人を連れてすたこら逃げた。




 門を抜けて街の中へ、ガッマさんが足止めしてくれているらしく、例の女性客は付いてこない。


「イウノ、逃げるならこっちだ!」

「あ、ベタさん」


 着いてきていたベタくんの先導で、貧民街の方へ入っていく。

 この寒いのに路上で寝てる人とか居るし、道端にゴミとか得体のしれないものが落ちている。私は内心冷や汗だ。これはこれで危険なのでは?


 しかしベタくんはズンズン進む。勝手知ったるという雰囲気。

 トチェドもニカお姉さまも迷わず追いかける。私も腹をくくった。なるようにしかなるまい!


「どこに行くの?」

「俺らのまとめ役、『自警団』の幹部に相談しよう」

「女でしょ? ガッマの女ね?」

「違えよ! 女だけどさ、まだ酔ってるでしょお姉さん!」


 ヨタヨタと千鳥足なのにしっかり付いてくるニカお姉さま。


「だいじょぶだいじょぶ! お姉さんはチオットじゃないからね、ガッマがどんな女と付き合っててもちゃんと可愛がってあげるから!」

「前から思ってるけどお姉さんとガッマさんてどういう関係なのさ?」

「それ聞いちゃう?」


 すごい、聞いちゃうんだ! 私は怖いもの知らずなベタくんに喝采をあげた。


「それよりもボクはチオットと彼の関係が知りたいんですけど!」


 ちょっと不機嫌そうにトチェド、なんだか和んで来ちゃったぞ?

 振り返ってもさっきの女の人はいない。


「よし、今日は多分帰れないから、人心地着いたら教えてもらおう! ベタくん、目的地はまだ遠い?」

「いや、そこが詰め所だ」


 指さしたのは周りと見分けのつかないあばら家。でも、もしかしたらわざと見分けを付かなくしてるのかも。


「アネゴはいやすか?」

「ベタか。今日は非番じゃなかったのか?」


 中に居たのは人相の悪い以外は普通のおじさんだ。いや、よく考えると『自警団』は衛兵みたいな武装組織ではない。


「アネゴは北東門の立ち飲み屋で暴れてる女がいるってんで」

「行き違ってる……もしかして彼女こっち来ちゃいます?」

「かもね〜。情報ありがと」


 ニカお姉さまがおじさんに投げキッス。すると、おじさんは真っ青になって直立不動の姿勢になった。


「し、失礼しましたニカトール隊長! おいでになっていたとは!」

「それ、もう終わったからいいのよ〜、でもちゃんとできててお姉さん嬉しい! ついでにカルミノさんの居場所知らない?」

「はい、いいえ隊長! 存じ上げません!」


 ニカお姉さま、この人に何をしたの?

 多分こないだの『ゴブリン』討伐関係なのだろうけど、怯え方が尋常ではない。


「ありがと〜。ベタくん、別の詰め所ある? 管轄違ってもいいから」

「あるぜ……でもお姉さん、何であんなに怯えてんだ?」

「んふふ、イイオンナには秘密が付き物なのよ〜」


 ひきつった顔のおじさんを置いて、私たちは次、の詰め所へ。

 そうか、ニカお姉さまとガッマさんはあの時十人以上の援軍を連れてきた。

 それって、『自警団』の結構な人数がニカお姉さまと顔見知りってことなんじゃあないかな?


「誰かいますか〜?」

「ゲェっ!? ニカトール隊長!!?」


 次の詰め所でカルミノさんとレイさんの宿を聞くことが出来て、私たちはそちらにお邪魔することにした 


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