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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第九話【アウェイ】

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その01 観劇

 今年ももう後は数えるほど。昼間でも肌寒いある日、私たちはティカイの街の郊外にある即席野外劇場を訪れていた。

 ガッマさんに招かれて舞台を見に来たのである。


「舞台なんて柄じゃないでしょ?」

「テメェを喜ばせるためじゃァねェンだよ」


 冬の魔王カーツ=マイレンが倒された事で、街は『来訪祭』の前からお祭り騒ぎ。

 早くも『新たな勇者の誕生』を題材にした舞台が用意され、即席野外劇場は連日満員御礼だ。


 ちなみに『勇者』とは『魔王を倒したもの』に与えられる称号で、魔王討伐の一行におけるリーダーか、あるいは将軍なんかに送られる名誉ある称号である。


 なお、『魔王』は『神聖ホリィクラウン法国』が『世界に仇なす者』に付けていた名称らしい。

 当然、その時点で異端指定され、大陸中に目の敵にされる。


 『神聖ホリィクラウン法国』崩壊後は大国が魔王と呼び始めたら魔王になっちゃうらしく、『魔王天冥』はオールガス帝国の呼び名だし、南の魔王はシートランの呼び方だ。


 冬の魔王カーツ=マイレンはその二つと少し毛色が違う。


「ガッマ、あの後も体洗ってるの? きれいで清潔。お姉さんは嬉しいね」

「うるせェ、こっちの方が評判が良かったンだ」

「女かな?」

「違ェ」

「女か〜」


 ガッマさんとニカお姉さまの関係はいまいちよく分からない。それ以上にチオットとの関係も分からない。

 ニカお姉さまはガッマさんと居るとガッマさんにばかり話しかけて、ちょっかいを掛ける。これはまだいい。


 でも、無言でガッマさんの隣りに行き、何をするでもなくニコニコしているチオットはどうしたのだろう。


「前の方の座敷席だ、俺は見ないがこいつをいいか?」

「ええ〜? 一緒に見ようよ。ねえチオット?」

「え、あ、できれば……」

「ガキじゃねェンだ。劇なンて見れっかよ」


 ガッマさんが連れてきたのは、こないだの荷物持ちの子供だ。

 でも、前と違ってちゃんと上着を着ていて、血色もいい。


「俺の相棒になったベタだ」

「よ、よろしく」


 こないだは暗い顔で一言も話さなかったけど、ちょっと固いが元気な声。アルフには酷い目に合わされていた様だけど、ガッマさんからはきちんとした扱いを受けているみたい。


 『見習い』組、つまりは私、チオット、トチェドにロドゥバとヘアルト、そしてエーコちゃんとヌーヨドの七人。

 それにニカお姉さまとベタくんの総計九人。


 三かける二メルト程度のスペースを、低い衝立でで区切っただけの座敷席。床は薄い敷物だ。


「クッションの一つも無いのですの? 貧相な席ですわ」

「ほとんどのお客さんが立ち見だからね。貴族用のものみたいに居心地重視じゃないんだ」


 トチェドの言葉に、ロドゥバが不承不承腰を下ろす。

 しかし、狭い。九人には狭すぎる。


「手前はさほど興味が無いので、外で時間を潰しておりましょうか?」

「なら、お姉さんも一緒に行くね」

「えぇ……」

「ヘアルト、そういう所かな」


 ニカお姉さまに首根っこを押さえられたヘアルトが、がっくりと肩を落とす。

 お姉さまは笑いながら帯から財布を取り出した。


「お姉さんとヘアルトはオトナのお楽しみを満喫してくるから、これでオヤツを買ってね。ベタくんにもあげるんだぞ」

「オトナのお楽しみ! まさかの逆転ですね、手前、地の果てまででもお供いたします!!」


 目の色を変えるヘアルトはともかく、ニカお姉さまはトチェドに銀貨を二枚渡した。

 近くの屋台では複数の品物が売られている。私とトチェドの頭の中では目まぐるしくそろばんが弾かれた。


「イウノ案、全員分の果汁水と揚げ餅大袋」

「トチェド案は串焼きと飴です」


 果汁水は高い。高いがめったに飲めるものではない。揚げ餅は比較的安く量が多いので、全員分の口に入る分量を確保できる。

 しかし、トチェドの串焼きも捨てがたい。焼き立ての串焼き肉にハフハフとかぶりついた後、飴の甘さを堪能しながら観劇するのだ。


「多数決の前にアピールタイム! 甘酸っぱい果汁水はお祭りでしか飲めないよ。新鮮な果物が必要だからね」

「串焼きは、普段食べれる鳥肉ではなく豚肉です。脂も乗り、岩塩と香草で味付けされています。しかも焼き立ての熱々でしょうね」


 トチェドのアピール美味しそう。負けた気がする。


「串焼きのお肉? お上品とは言い難いですわね!」

「上品下品はともかく、私も肉より果汁ですね」


 私に乗ってくれたのはロドゥバとエーコちゃん。


「肉ヨ! 肉!」

「あ、俺もできれば肉がいい」

「私も……トチェドの、お肉、かな?」


 多数決で敗北! まあ、実際美味しそうだしね。


「串焼きと果汁水は似たお値段でしょうから、そこは分担しましょう。ボクが串焼きを買ってきますので、イウノさんは果汁水をお願いします」

「オッケー。じゃあお釣りを持って再集合で」


 私たちは慣れたもので、目当ての屋台がどこにあるのかは、ここに来る途中で目星を付けていた。

 果汁水は簡素な木のカップに入れて売られている。飲み終わったら返すのが一応のマナーだ。


「三つお願いします」

「一杯銅貨二十五枚だよ」

「三つで七十枚にならない?」

「またまた〜」


 値切りはマナーみたいなものだ。

 銅貨は百枚で銀貨一枚。穴の空いた小さな貨幣で、多くは紐に通して十枚単位にして使う。


「シスターにオマケすると神のご加護があるかもしれませんよ〜?」

「仕方ないなあ」


 小銭を数えるより、十枚綴りの方がやり取りが楽だ。お互い手間が省けて良い買い物をした。

 だが、ちょいと確認すると、串焼きは一本銅貨で三十枚。銀貨一枚で足りなくない……?


「あ、イウノさん。お釣りあります? ボクの方はぴったりでした」

「しょ、商売上手……」


 屈託なく微笑むトチェドに、私は頼もしさを感じた。いやいや、一枚も二枚も上手だったね。


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