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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第七話【スターレッド】

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その08 謝罪

『親愛なるトチェドへ、チオットより。

 突然のお手紙をお許しください。


 本当は面と向かってお話をして、きちんと謝るのが礼儀だと思います。だけれど、私はおしゃべりが苦手なので、お手紙にしてはどうかとイウノちゃんが提案をしてくれました。』


 ここまで書いた所でチオットは私を見上げた。不安そうな目。

 私は力付けるように頷く。私がしたのは手紙で伝える提案と、羊皮紙を用意することだけ。書くのはチオットで、私は極力口を出さないつもりだ。


 というか、本当は私は内容を見るべきではないと思っていたのだけれど、チオットの捨てられた子犬のような目に耐えられなかった。


「つ、次はどうしよう……?」

「書きたいことは何だったっけ?」

「ごめんね、と……す、すす……と、私の、正体…………」

「よろしい」


 あとはそれをチオットの言葉で並べるだけだ。

 チオットは喋るのが苦手なだけで何も考えて居ないわけではない。


『まず、トチェドが嫌がっていることに気付かずにごめんなさい。本当にごめんなさい。

 私は自分のわがままを押し出して、甘えすぎていました。


 出来るものならばもう一度チャンスが欲しいです。良くない所を改めて、もう一度あなたと友達に』


 チオットの手が止まる。


「私……私はトチェドに……」


 その先は、私には口出しできない。

 チオットとトチェドの二人の間の事だからだ。


『友達になりたいです。』


 チオットは湿った吐息を吐き出した。憂鬱と期待の混じり合った、切ないため息。


『そのためには、私はあなたに秘密を打ち明け、許しを乞わねばなりません。

 軽蔑をされるかもしれません。嫌われたくなくて何も伝えずにいましたが、それはて正しくない態度だと思いました。


 私はトチェドが』


 再び止まる手。私は少し距離を置いた。

 書く姿すら恥ずかしいなら、見るべきではない。というか、居なくていいんじゃないかな? 駄目かな?


『好きなので、私のことを知ってほしいと思っています』


 よし、やったな。


『私は人間ではありません。ハインラティアから来た『亜人』です。

 『帳の乙女 リムエロ』の眷属『(タピルス)』です。一般的には『夢歩き(ナイトウォーカー)』あるいは『淫魔(サキュバス)』と呼ばれています。


 私たちは現実世界と同時に、夢の世界にも生きています。

 夜の夢においては強い力を持ち、悪夢を払い安らかな夢や良い夢を見せる力があります。


 私は力がとても弱く、私のことを強く想って寝た人の夢に現れ、夢の中でその願望を叶える程度のことしか出来ません。


 そうです。


 こんな事言われたくはないと思いますが、私はトチェドと夢を共有しています。』


 筆が乗って来た。チオットは熱くなりやすい。こうなったら任せておいても問題は無さそうだ。

 だが、一人にするなという圧も感じる。


『私はトチェドの夢の中で、トチェドの秘密や気持ちを知ってしまいました。

 その上で、私はトチェドに求められる事に喜びを感じ、愛おしいとすら思っています』


 これ、私見てていいのかな?

 いわゆるラブレターだけど。


『あさましい願いではありますが、騙していたことを許して欲しいです。

 そして繰り返しになりますが、関係をもう一度作り直して行きたいです。

 良くない所は直します。トチェドの側に居たいのです。


 長くなってしまいました。』


 再び、手が止まる。

 私はチオットの背中を撫でた。ちょっとでも、勇気が出せるように。


 良い返事がもらえたら嬉しいけれど、そうでない可能性も考えて。


『私と、私の秘密を受け入れられないのであれば、そう伝えてください。

 私は誓って、トチェドの秘密を守ります。


 そうなってしまったら悲しいけれど、受け入れる覚悟はできています。

 私に気を遣って、がまんをしたりしないでください。トチェドはトチェドの心のままに生きてほしいのです。


 どんな答えが返ってきても、トチェドの幸せを願っています。

 もしも私を受け入れてくれるのならば、また夢に呼んでください。


 愛しい人へ、チオットより』


 書き終えたチオットが甘く湿った吐息を漏らす。

 私は不意に、何故自分がこの場に必要とされていたのかを理解した。シンプルこの上ない理由。そして、なくてはならない存在。


「よし、早速トチェドの部屋のドアに挟みに行こう」

「あ、え、でも……やっばり……」


 あれだけノリノリで熱い言葉と感情を筆に乗せておきながら、いざとなったら尻込みするチオット。

 彼女らしいといえばらしいのだが、それではここまで書いた手紙と、私が出した羊皮紙代が無駄になる。


 私はチオットの襟首を掴み、無理やりトチェドの部屋まで引っ張って行った。


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