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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第七話【スターレッド】

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その07 詭弁

「トチェドさん、わたくし貴方の事を誤解していましたわ。貴族らしく平民と別の存在だと宣言できるとは思ってもありませんでした。

 オホホホホ、見ました? あの時のあの平民娘の惨めな顔。思い出すだけで笑えますわ。オホホ、オホホホホ!!」


 トチェドの部屋に話を聞きに行こうと足を向けた所、無駄によく通る声が聞こえてきた。

 私はその内容に酷く落胆した。


 なんというか、なんだろうか。

 私はロドゥバを前ほど嫌ってはいない。しかしボゥお姉さまが言うように好きかどうかは分からない。


 分からないが、私はロドゥバにがっかりする程度には期待をしていたのだろう。

 平民差別的な発言は普通にするけれど、

チオットを貶めるようなことを言うとは思っても……本当に?


 ロドゥバって、前から思っていたけれど本当に馬鹿なんじゃないかしら。


「これからも調子に乗った不敬な平民たちに思い知らせてやりましょう。

 あの身の程知らずな平民娘がまたこりずに話しかけてくるようならば、ひっぱたいてやればいいのです。きっと、いい声で……」


 言葉が途切れた。沈黙が下りる。私の存在に気付いたとか、そういうことではないだろう。

 固唾を呑んで耳を澄ます。何があった?


「不敬な輩には分からせるべきですわ。ほら」

「…………ボクを怒らせても、叩いたりなんてしませんよ」


 絞り出すように、悲しそうなトチェドの声。トチェドは聡い、私よりもずっと。

 だから、私が分かるような事は、きっとトチェドなら気付いて当然だ。そんなことも分からないなんて、ロドゥバったら本当に。


「わたくし、怒らせるつもりで無礼を働いたのですのよ。叩かれる事くらい覚悟の上ですわ」

「出ていってください」


 これ以上は危険だ。私は忍び足で部屋の前から距離を取った。

 聞いていたことを知られては、ロドゥバはきっと嫌がるだろう。


「友を侮辱されて、トチェドさんはお怒りになられましたわ」

「出ていって!」


 私が知りたい事は、ロドゥバが引き出してくれていた。ちょいとばかり癪に触る気もするが、私がロドゥバより上手くやれたかどうかは分からない。

 ならば私はチオットの方だ。ロドゥバに負けてたまるものですか。


 私は、静かに素早く動いた。前におばあちゃん先生に教えてもらった『お上品ではない歩き方』だ。

 重心を落とし、右手と右足を同時に出す。素早く静かに動けるが不格好なので人に見られたくはない。


 そのままチオットの部屋まで行くと、何気ない風を装ってドアを叩いた。


「チオットいる?」

「うう……ひっく……イウノちゃん……?」


 部屋で泣いていたのだろう。半泣きどころか八分泣きといった風情だ。


「入っていい?」

「ぐすっ……うん……くすん」


 部屋に入ると、チオットは涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

 きっとチオットは皆が思っているよりも遥かに幼い。私やトチェドへの甘え方はその現れなのではなかろうか。


 チオットに伝えるべきことは四つ。


 一つ目。

 秘密を打ち明けるべきだ。


 二つ目。

 トチェドへの気持ちをきちんと伝えろ。

 

 三つ目。

 失敗を繰り返すな、そしてピンチをチャンスに変えろ。


 四つ目。

 トチェドはチオットを嫌ってはいない。


 もちろん、これを理路整然と並べてもチオットは受け入れないだろう。ここはチオットの気持ちに寄り添い、チオットが可能な方法を模索するのだ。


「ねえチオットちゃん、トチェドが好き」

「え……? え、あ……ええっ!?」


 反応は過剰であった。茹でダコみたいに真っ赤になって、もじもじと身体をくねらせるり

 思うにトチェドはやっぱり男の子で、そしてチオットはトチェドを異性として好きなのではなかろうか?


 きっと私を好きかと聞いても、こんなに過敏な反応はするまい。


「チオットちゃんがどう思ってるか、トチェドには伝えた?」

「そ、それは……その……」


 口籠るチオット。まあ、そうだろう。それより泣き止んだぞ。意識をうまく逸らせた。


「トチェドに嫌われたくないよね。分かるよ。だから、仲直りの方法を一緒に考えよう」

「うぅ……うん…………」


 友達なら分かるけど、異性だと分からない。どんな気持ちなんだろうね?


「トチェドがなんで怒ったのかが分からないなら、まず謝って気持ちを伝えて、悪気がなかったことを伝えようよ」

「あ、あぅぅ……でも、でも……トチェド、怒ってた……よね」


「トチェドは賢くて争いを嫌うから、怒るのは見たことがないよね」

「ううう……」


 おっと、追い詰める気はないんだよ。


「でも、それはいつも我慢してるんじゃないかな?」

「がま……ん……?」

「そう。嫌なことがあっても飲み込んだりしてるんだと思うよ。

 きっとさ、今までもどこかでサインを出してたんだと思う。私たちが気付かなかっただけで」


 トチェドは嫌なことも悲しいことも、我慢してしまうと思う。それはチオットも同意してくれるだろう。


「わた……私が……がまんの、限界を……」

「トチェドはチオットちゃんには分かって欲しいんじゃないかな?」

「え……?」


 詭弁である。


「チオットちゃんが好きだから、嫌なことをして欲しくないし、強く拒絶しても大丈夫って甘えがあるのかも」

「と、トチェドが……こっちでも……甘え、て……?」


 思わず口元が緩むチオット、こっちで『も』? 夢の中では甘えているのかな??

 普段トチェドがどんな夢を見ているのか大変興味深かったが、聞くべきことではないのでがまんをする。


「だとしたら、トチェドはチオットちゃんのこと嫌ってないよね?」

「う、うん……」


 言ってて希望的観測だなとは思うけど、それでもチオットを動かすには必要な言葉だった。


「だから大丈夫。チオットちゃんはトチェドと仲直りができる」

「う、うん…………」


「それで謝って、好きだと伝えるついでにさ……チオットちゃんの秘密も教えてあげたら?」

「そ、それは……!」


 予想された拒絶反応。だが私はチオットの肩を掴んで逃さない構え。


「いずれ伝えなきゃいけないなら、タイミングを逃しちゃいけないと思う」

「う、うん……でも…………」


「トチェドなら大丈夫。そう思うでしょ?」

「う、うん……」


 さて、問題はここからだ。

 引っ込みじあんで口下手のチオットに、どうやって伝えさせるか。


 まあ、その準備はしてきたんだけどね?


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