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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第七話【スターレッド】

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その06 助言

 『国家間調停官』という話を覚えているだろうか。一ヶ月前、幼年学校で院長先生が言っていた話だ。

 

 国境沿いの小競り合いとかを仲裁したり、逆に諍いを起こしたりするのが仕事らしい。

 戦争が起きる理由はなんとなく分かった気がする。それは、相手が怖いからだ。


 国境沿い、隣の国の人たち。同じ人間なのだけれど、同じ人間のはずなのに、まるで遠い存在みたいに感じてしまうのだろう。

 それは私が『貴族様』に抱いていた偏見のように、『天冥戦乱』で『人間以外のヒト』たちが敵視されたように。


 『相手が攻撃してくるかもしれない』という恐れが、『攻撃される前に攻撃しよう』という感情になってしまう。


 では、それを防ぐ方法は?


 院長先生でも分からなかったことだ。だけど私たちには『天冥戦乱』の授業の終わりに見つけたものがある。


 許しと相互理解と話し合いだ。

 それが、戦争を起こさない方法の一つだと、私は信じる。



 ガッマさんの連れてきた『自警団』がアルフを引き取って、ニカお姉さまは残りの八人を案内して行った。


 門が閉まる。私は小さく息を吐いた。

 ニカお姉さまは無事に帰ってくれればそれでいい。


 問題はチオットとトチェドだ。


 あの二人の関係は多分とってもシンプルなんだけど、よく考えるとびっくりするくらいねじ曲がって複雑になっている。

 それは多分、というか絶対に、チオットの性格と口下手が原因である。


 必要なのは許しと相互理解と話し合い。

 でもチオットがトチェドに伝えなきゃいけないことがたくさんあって、そのチオットが喋るのが苦手というね。


 考えをまとめてみよう。


 まずトチェド。


 もしかしたら男の子なのかもしれない。

 性別はともかくチオットの夢を見る程度にはチオットを意識している。

 チオットが『タピルス』だって知らない。はず。

 自分の性別をチオットに知られていることも知らない。はず。



 次にチオット。

 トチェドの夢に呼ばれることを嫌がっていない。

 むしろベタベタ懐いているので、好意的。

 『タピルス』という種族で、人の夢に呼ばれて入れる。

 その関係でトチェドの秘密を知っている。



 チオットがトチェドとこの先も仲良くしたいなら、自分の秘密を打ち明ける必要があるだろう。

 でもそれは、トチェドの秘密を知っていたという罪の告白にもなり得るし、『人間以外のヒト』であるという宣言にもなる。


 よほどの勢いがないとチオットは言えないだろうな。


「難しい顔をしていますねイウノさん。手前がアドバイスをして差し上げましょうか?」

「え? やだ……」

「おおっと、傷付きましたよ。男女の関係百戦錬磨のこのヘアルトなら、有用な助言をできますのに!」


 ヘアルトめ、いつの間に忍び寄っていたのだろう。

 思わず出た本音に対する態度に、血の気が引く。男女の関係って言いました? 気付いている? 野生の勘? やだ怖い。


「男女関係ありませんよね?」

「手前は男女ならば百戦錬磨なので間違っておりません」


 的確なツッコミにより私の杞憂を解消してくれたのはエーコちゃんだ。珍しい組み合わせ。


「一応聞くけどどんな助言?」

「女子同士のグループというのは基本的に自分より格下を集めて人気者を装うリーダー格と、そのリーダーの威光でおこぼれを狙う雑魚のニ種類によって構成されます」

「エーコちゃん、明日の朝ご飯何がいい?」

「聞いておいてそれですか!?」


 だって前振りが長すぎて。


「短くまとめて」

「隔絶されていた修道院内部に突然現れた男の存在が、トチェドさんの女性を目覚めさせたのです。仲良し小好しではいけない。チオットさんというロリ巨乳を前に自分は霞んでしまう。そんな危機感がトチェドさんを凶行に走らせたのではないかと手前は思うのです」

「なるほどねー、参考にします」

「聞き流してません?」


 冗談はともかく、実にヘアルトらしいと言うべきか。前提はともかくとして、チオットを前にして自分の女性らしさにコンプレックスを抱く気持ちは分かる。


「私は誰にでもベタベタとくっつくような女は軽蔑しますが、チオットさんは違いますよね。

 イウノ先輩とトチェド先輩以外にはそういう態度を取られませんし」

「もしやエーコさん、何かありましたか?」

「私の幼なじみに対してはちみつよりもベタベタと触る女が居ましてね……」


 珍しく感情を、しかも苛立ちと嫌悪を露わにするエーコちゃん。その二人の安否は、ちょっと聞けないかな……。


「そのお二人はどうされているんです? ご健在で?」

「ヘアルトすごい。尊敬しちゃう」

「理由は分かりませんがもっと尊敬してくださっても構いませんよ?」


 空気が読めないのか、単に聞いていなかったのか、エーコちゃんの故郷は冬の魔王の侵攻で寒波に襲われ雪の下である。


「知りませんが仲良くやっているんではないてますか? ケッ……それより、チオットさんの話でしょう。

 トチェドさんにそのことを伝えてはいかがです? 親愛の証だと」


 今、ケッて言った?


「ですがまずは何故怒ったのかを確認するべきでしょうね。それが分からなければ改善の余地もない。同じ失敗を繰り返さない、あるいは失敗すらもチャンスに変えるのが良い狩人です」

「愛の狩人もそうであるべきだと手前は思いますね。より良いポイントを探し続けるのがコツです」

「ありがとうエーコちゃん」


 面白がっているヘアルトはともかく、エーコちゃんはツンと澄ました調子ながら、心配していてくれるのがよく分かる。

 私はエーコちゃんを抱きしめて、お礼を言った。


 まずはトチェドだ。取り付く島があるかはわからないけど。


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