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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第五話【残酷な神が支配する】

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その10 甘い夢でもいいから

 考えるべきことは五つ。


 一つ目。

 『対ラッハ連合軍』に派兵するか否か。


 二つ目。

 皇帝からの『亜人放逐令』に従うか否か。


 三つ目。

 領内の噂や平民の態度への対応。


 四つ目。

 他領から流れてくる『人間以外のヒト』の難民をへの対応。


 五つ目。


「貴族たるもの、己の領民を守るのは義務ですわ! そして忠臣たるもの主君が道を誤った時には躊躇せず具申致しましてよ!


 平民には『亜人』の全てが反逆者ではない、これまで通り良き隣人であるべしと触れを出し、難民キャンプを公共事業で建築ギルドに依頼、仕事を与えます!


 しかして自領だけで賄えるとは思えませんし、周辺や付き合いのある貴族に連携可能かの根回しも致しましてよ!」


 レポートの授業開始からここまで一息。

 さすがのロドゥバの卓越した肺活量でも、少しばかり呼吸が荒い。


「ロドゥバったら何を言っていますのやら。これはレポート。個人競技ですよ。そんな話をして案を盗まれたら馬鹿もいいところですよ。イウノさんもそう思われますでしょう?」


 心底バカにした感じのヘアルトに尋ねられ、私は力強く頷いた。

 五つ目、考えるまでもなかったね。


「イウノ男爵としてはロドゥバ侯爵の提案に全面的に賛成の形を取ります。

 避難民の食糧問題に応えるために蔵に貯めてある備蓄を放出、大きな穀倉地帯を所有する貴族にお願いして食料の購入と輸送ルートを整備したいとおもいます」

「おほっ!」


 変な声を出したのは司書先生だ。ロドゥバとヘアルトは揃って間抜け面で私を凝視。

 こんなこと言い出すなんて思いもよらなかったのだろう。


「ええ……? 手前と一緒に長いものには巻かれませんか? 皇帝陛下に従って領土を守りましょうよ」

「ニカ子爵も一枚噛むわ。でもお姉さんはオマケだから献策はいたしませーん。色々思いつくけど、言えないのが残念ね」


「では代わりにトチェド伯爵から提案です。『人間以外のヒト』には様々な種族があります。難民キャンプにひとまとめにせずに種族ごとのコミュニティを作り、得意科目の仕事をして頂きましょう。


 『ドワーフ』ならば工業、『エルフ』ならば狩りと約束の採取など、彼らの魔法もあります。

 参加者の領内でどこにどの種族が適しているかを彼らの代表者や、街の代表者を交えて相談していきましょう」


 こういう時のトチェドは毅然としていて、すごく頼りになる。

 なるほど。仕事を与えてみんなの生活が良くなれば、『人間以外のヒト』への風当たりも良くなるかもだ。


 私なんてご飯の心配しかしてなかったなぁ。


「エーコ男爵も提案に乗ります。彼らの反乱の理由の一つは隷属階級と不遇だと思われます。

 彼らの社会的地位を向上すべく、彼らの有用性とそれにより人々の暮らしがどう良くなるかをアピールしてはどうでしょうか」


「ち、チオット……男爵? も、お願い、します…………人間の、側にも……不漫が、溜まると思います……何か、その……彼らを、喜ばせるような……」


 それぞれがそれぞれの提案。

 私はいたずらっぽく発案者を見た。あっちこっちから出てくる意見に驚き、硬直している。


「ヘアルト、私はある程度は自分で考えられるけど、自分より詳しい人が旗を振ってくれるなら張り合うよりも手伝う方が上手くいくと思うんだよね」

「し、しかし、これはおかしくはありませんか?」


 まあ、レポートを書けと言われているのにグループディスカッションを始めてしまったのだ。

 点はもらえないだろう。


「おかしいですけど、ボクはいいと思いますよ」

「お姉さんも思うよ、当時の貴族に出来なかったことだ」


「歴史は失敗を学び、より良い方法を探るために学ぶものさ。そういう意味ではカワイイロディの提案は最高だよね」

「そのバカにしたみたいな呼び方はやめてくださいまし」

「おっけーカワイイカワイイロディ」


 司書先生の言葉で、ようやくロドゥバは正気に戻った。

 顔を赤くして怒っている振りをしながら、ロドゥバは皆の話をまとめにかかる。唇が緩んでいるよね? 私も多分そうだけどさ。


「誰も彼も好き放題言って、そうそう上手くいくとは思えませんわ!

 食料輸入ルートの整備も公共事業にして、身体の大きな『亜人』や土木に詳しい『亜人』にも働いてもらいますわよ! 平民は一緒に働けば同僚として親しくなれると聞いておりますわ。


 建築や土木だけでなく、様々な職業ギルドに『亜人』を参加させて、親睦を深めながら作業性を向上してもらいますわよ。

 あとは。あとは……娯楽? 何か意見は御座いまして!?」


「整備した街道を使って、人間と『人間以外のヒト』の混合歌劇団を行き来させられたらどうかな」

「お姉さんはスポーツがいいと思うな! 彼らの運動能力とか知りたくない?」

「司書先生のような方に『カルマ・ノーディ』を読み歩いて貰いましょう」


 結局授業の終わりまで、私たちは夢みたいな話をわめき合った。本当に楽しい時間だった。

 途中からは司書先生もニカお姉さまもノリノリで提案し、気が付けばヘアルトもなんだかんだと参加していた。


 やっぱり、聖パトリルクス修道院は今日も平和で、テストはレポートを少しだけでも書いていたヘアルトが一番になった。

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