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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第五話【残酷な神が支配する】

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その05 ラッハ

 授業のことばかり考えていても仕方がない。私たちはボゥお姉さまの作る夕飯を頂いた。

 ボゥお姉さまは自分の当番の前日に狩りをして、下処理を済ませておく。今日の夕飯は鳥のソテーだ。


「今日の鳥はいつもにもまして臭味が強いですわね」

「ロドゥバは文句を言う口と、鼻だけはご達者ですね」


 ロドゥバとヘアルトは無視できるが、鶏の味は無視できない。

 野生動物の肉は、家畜の肉よりも臭味やあくが多いらしい。それを食べやすくするために塩や香草、ワインに漬けるのが一般的だ。


 その下処理が、いつもに比べて明らかに甘い。こないだ私にやらせて貰った時より甘いのだ。

 これはニカお姉さまも言っていた通りかなりの重症と見てまず間違いあるまい。


 夕飯後、就寝前の自由時間に、私は木板に文字を書き付けた。

 昨日やろうと考えたお手紙である。少し考えて、私はボゥお姉さまにお手紙を書いた。



『親愛なるボゥお姉さま。


 昨日までお手紙の授業があったので、練習用にお手紙を書きました。

 勝手にやってるだけなのでお返事もいりませんよ!


 ボゥお姉さまがなにかに悩んでいるようなのは分かります。

 頼りにならない『見習い』の身ではありますけど、お姉さまには元気で居て欲しいです。

 出来ることがあったららなんでも言ってください。朝ご飯のリクエストを受け付けるくらいしかできませんけどね。


 あなたの妹分 イウノ』



 こんな感じだろうか。少し押し付けがましい気もするが、実際に心配なのだ。

 ボゥお姉さまは背が高くて力持ちで、いつも落ち着いている印象であった。しかし、実はあんなにも繊細な部分があったのだ。


 私に出来ることは何があるだろうか。

 分からないなりに、それでも力になりたい。


 私は少し考えて、ボゥお姉さまの部屋に向かった。ノックしても返事がない。なので手紙をドアの前に置いて、部屋に戻った。




「昨日ばっちゃに叱られたから言っとくね〜」 


 翌日の授業。あくびを噛み殺しながら司書先生、ちなみにばっちゃとはおばあちゃん先生のことである。


「授業で使ってる本の真偽は調査中だから、信じ切らないでね。でも、今まで教わったことの全てが真実だとも限らないのも忘れないで〜。

 歴史の研究には多角的な視野と客観視が必要なんだよ。まあ、そんな感じで今日も楽しくお勉強しようか」


 昨日の授業が刺激的過ぎたという件だろう。

 自分の家族が『人間以外のヒト』に何かしたのかもしれないとか、想像するだに憂鬱だ。


「それじゃあ始めるよ〜。今日の教科書はこちら! 『ラッハ血盟連合国史』!

 争乱絶えぬ荒野に花開いた偉大なる統一王朝の樹立と立ちはだかる無数の困難! 差別と偏見という不可視の怪物に立ち向かう彼らの行く末は、果てに見るのは破滅か死か!?」


 それってどっちもダメな二択に聞こえるんですけど!?

 …………いや、滅びた国の話っぽいから、辿り着く先は破滅で死だけなのね。


 『ラッハ血盟連合国』は、帝国東部辺境から、さらに東に入り込んだ大山脈の麓にある荒野に生まれたという。


 荒野は、複数の部族が僅かな水場を奪い合う不毛の土地で、人間だけではなく『エルフ』や『ドワーフ』、『蜥蜴人(スケイルワン)』『灰色巨人(ビッグフット)』『ゴブリン』『翼人(バードマン)』なんかも居たらしい。

 永らく争っていた各部族だが、一人の偉大なる男の登場で風向きが変わる。


 その男の名前がラッハ。山岳蛮族の戦士である。

 帝国において山岳蛮族は、辺境から攻めてくる騎馬民族であり、どこの国にも属さないまつろわぬ民であり、国境近くでは頭の痛い問題である。


 ラッハは各部族をまとめ上げ、その上帝国にちょっかいをかける他部族を討伐した。

 彼の希望は帝国と国交を結び、荒野の生活をよくすることだった。ラッハの首都である『血盟樹の森』から『ドワーフ』の坑道までに繋がる巨大な地下遺跡があり、珍しい魔法石や魔法機械が発掘された。


 ラッハに交渉を持ちかけられた東方辺境伯は喜んで彼らと国交を結んだ。蛮族との終わりの見えない戦いより、珍しい品物を安く買える方が嬉しいもんね。

 辺境伯は街道を整備し、村を作り、交易のために尽力した。でも、初代ラッハ王朝が不幸な事故死をしてから雲行きが怪しくなってくる。


 当時の帝国の四大公爵の一人が利権を求めて口出ししてくる、その上ラッハの民を口車に乗せて出稼ぎという名の奴隷にしちゃう。

 これに怒った二代目は、少数精鋭で公爵領に攻め込んだ。宣戦布告から一週間。途中の街々を素通りして、まさかの電撃作戦に成功。お城は落とされて、公爵は命からがら逃げ出して皇帝に嘆願。


 帝国軍は総力を上げてラッハを攻撃、激しい抵抗があったものの、二代目は戦死し、ラッハと友好的だった辺境伯は罷免、そしてラッハは植民地化させられて、遺跡潜りの流刑地化。


 ラッハを管理したのは例の公爵で、飛び地だからと親戚とかに任されていた。

 で、ラッハを任された次の次の代の三男坊が正義の人で、ラッハの惨状に腹を立てて独立を志した。


 彼は穏健派だった。ラッハでの労働環境や賃金を克明に記し、帝国上層部や『聖冠教会』に告発したのだ。

 告発を無視をされた彼は今度は同じ文章を国中にばら撒いた。彼がペンのみで戦うつもりだったのかは分からない。


 告発書は国外にまで波及し、帝国は火消しに躍起になった。ただちに編成された軍隊が三男坊を拘束するためにラッハに派遣され…………返り討ちあった。

 それが大陸を焼く戦乱の発端であり、公爵の三男坊が魔王天冥となる道の始まり。


 …………すでに頭がぱんぱんなんだけど、これテストで何やるの? 暗記? 無理では……?


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