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その04 悪いのは誰か

 それから先はちょっと大変だった。


 私とニカお姉さまは半刻ほどかけて、修道院内を案内した。

 ちなみに一刻は一日を十二天使に分けたもの、半刻はその半分だ。


 時間は中庭の日時計で確認する。世の中には時間をする魔法や時計を作る魔法もあるらしいけれど、聖パトリルクス修道院には存在しない。

 さて、時間の話で逃避をしても現実は変わらない。


 よほど鬱憤が溜まっていたのか何なのか、ヘアルトさんはロドゥバにネチネチネチネチ嫌味を言い続け、ロドゥバは手紙のことがショックだったらしくそれまでのパワーを失っていた。

 しかし言われっぱなしも癪に障ったらしく、だからと言って理知的に返せるわけでもなし、そんな訳で癇癪を起こして叫んだり暴れたり物に当たり散らしたりだった。


 ヘアルトさんはロドゥバの癇癪に慣れた様子でせせら笑い、指摘し、火に油を注いで煽りに煽っていた。


「いやはや、お疲れ様イウノ」

「お疲れ様ですニカお姉さま」


 当番で行う仕事の説明にもう半刻。|龍の半刻(午後3時)になっている。その頃には私とニカお姉さまはぐったりと疲れ果てていた。

 ずっと嫌味な人と怒っている人が近くにいることが、こんなにもストレスになるとは思ってもみなかった。


 現在、二人で離れて台所。水出しの薬湯を飲んでる最中だ。


「ロドゥバはいいご主人じゃあなかったみたいですね」

「本当にそう思う?」

「え?」


 何気なく呟いた言葉に疑問を投げられ、私は答えに詰まった。

 あの高慢ちきで平民を見下した物言いのロドゥバ、学校を退学させられ勘当同然に修道院に放り込まれたロドゥバ。


 短い時間だがこれまで見てきたロドゥバと、ヘアルトさんが罵倒する人物像はそっくりそのままだ。


「お姉さんはね、ロドゥバさんが清廉潔白だとは思わないけれど、同様にヘアルトさんも何かしらの理由があったと考えるよ。

 家柄自慢のロドゥバさんだ。メイドは一人二人のはずがない。その中から選ばれる理由があったんだよ。ヘアルトさんはね」


 私は絶句した。普段と変わらぬ笑みを湛えて、しかしてニカお姉さまの物言いは痛烈だった。ひっぱたかれるよりも衝撃だった。

 ニカお姉さまが非難したのは、ヘアルトさん以上に私だった。私はロドゥバが強烈に嫌いだ。憎んでいると言ってもいい。だから、ロドゥバは悪役にしたくて、ヘアルトさんの物言いを好きなように解釈していた。


 なんて卑劣で矮小なのだ。自分が惨めで口惜しくてたまらない。


「…………念の為に言うけど、ロドゥバさんのあの言動は度を越してるし、たぶん退学させられても納得の悪さはしてるからね?」


 私の顔を見て慌てるニカお姉さま、申し訳なさすぎて穴に入りたい。変な気まで使わせてしまった。


「ま、それは置いといて。あの二人を組ませるとか、相部屋は良くないわよね。明日から朝のお仕事をどっちかとやってもらいたいんだけど、イウノはどっちがいい?」

「え?」


 つまり、ロドゥバかヘアルトさんかのどちらかの教育係にならなきゃならないって話だ。

 私はロドゥバが嫌いだ。『貴族樣』の相手なんて冗談じゃあない。だけれど、ヘアルトさんからロドゥバへの悪意には辟易だし、ニカお姉さまの言い方も少なからず怖い。


 ヘアルトさんは、何をしたのだろう。


「ろ、ロドゥバがいいです…」

「うん、お姉さんもそれがいいと思うよ。二人が何をしでかしたのか分からないけど、少なくともロドゥバさんは良くも悪くも裏表がなさそうだもの。

 ヘアルトさんの方はお姉さんが適度に目を光らせておくから安心して。大丈夫大丈夫、暴力沙汰か窃盗か虚言癖か。あ、不敬罪も有りかもね。とにかく注意してればどうってことないだろうし」


 ぼ、暴力? 窃盗……?

 何も大丈夫でないような気がするんですけど…………?


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