その10 テストの結果は
「は〜い。それでは昨日のお手紙のテストの結果発表ですよ〜。
皆さんの習熟段階には大きな違いがあるので、先生はものすごく悩みました〜」
全く悩みのなさそうなのんびりした口調でおばあちゃん先生。
本日は言語学のテストの翌日、火の曜日。昨日の座学では六人で再びお手紙を書いた。
内容はおばあちゃん先生の書いた『修道院支援者商会からのお手紙』に対する御礼状である。
「なので、今回のテストは三項目各10点の30点満点で採点しました〜」
「三項目? まあ、なんにせよわたくしの首位は不動ですわね!」
高笑いのために息を吸うロドゥバ、うるさいヤツだ。うるさいのだが、実際に彼女のお手紙はお手本みたいによくできている。
それに対して私はまだまだ足りない。お手紙って難しいのね!
「作法、読みやすさ、努力の三項目です。作法はロドゥバちゃんが群を抜いていますね〜。
作法はロドゥバちゃんが10点です」
「オホホホホホホ!!
…………『は』? 『作法は』ということは、わたくしは30点満点ではございませんの?」
高笑いを途中で切るロドゥバ、私も思った。作法以外は満点ではない? 希望が見えてきた?
「はい〜。ロドゥバちゃんのお手紙は貴族的な仰々しさで、読み手の知識と教養を必要とする難しさがありました〜。
なので読みやすさは7点。読みやすさの満点はトチェドちゃんになりますよ〜」
私はチオットと目配せし、二人で拍手をした。やったねトチェド。チオットも嬉しそう。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ!」
「最後に努力点は、この三日間での成長を考えました。名前しか書けなかったエーコちゃんが、一人でお手紙を書けるまでがんばった事に、満点を送りますね〜」
それまで興味なさそうだったエーコちゃん。突然名前を呼ばれてまたたきした。
「わ、私ですか?」
「はい〜」
驚きを隠せないエーコちゃんに、私は大喜びで拍手を送る。
すごい成長だ、本当にすごい!
「やったね! すごいよエーコちゃん!」
「がんばったね」「すごい、です……!」
「え、え」
トチェドに対しては敵愾心丸出しだったためロドゥバ。だがエーコちゃんに対しては静かに見つめた後に頭を振った。
「わたくし、努力を認める程度の度量はありましてよ」
「ちなみに、ロドゥバちゃんから前回教わったお手紙の内容をほとんどそのまま流用したヘアルトちゃんは、努力点はなしです」
「そ、そんな……!」
それは擁護できないし、その打ちのめされた表情はヘアルトのではなくロドゥバのが見たかった!
いや、見たいのか?
「ではそんなヘアルトちゃんが14点です〜。基本の文章作法は問題のないレベルにありますので〜、努力を怠らなければ高得点が目指せますよ」
「ううむ、肝に銘じます。手前に手紙を書く機会が来るとは思えませんが」
悪いことはできないということか。うつむいた頭を撫でられるヘアルト。
「次はエーコちゃんが20点です。エーコちゃんには伸び代しかありませんから〜、他の皆さんをグイグイ追い抜いて下さいね〜」
「手紙、授業以外でも教えてもらってもいいですか?」
「もちろんですよ〜」
嬉しそうに微笑むエーコちゃん。彼女には、手紙を出したい人がいるのか。
「次はチオットちゃんが21点でイウノちゃんが22点ですよ〜。
この1点差はイウノちゃんが挨拶や近況をきちんと書いていたからです〜。チオットちゃんはお話が苦手ですが、お手紙なら色々伝えられるかもしれないので、頑張ってみてください〜」
つまり私とチオットは似たりよったりだった訳か。
お手紙のお勉強は、相手に簡潔に伝えたいことを伝える技術な訳だから、自習を続けてみようかな。
問題は紙が高いことなので、木板でチオットと文通とかしようかしらん。
しかし、今はそれより得点一位だ。
私の仇を取ってくれ、トチェド!
「さて、それではロドゥバちゃん」
「…………はい」
がっくりと肩を落とすロドゥバ。下から順番に呼ばれているのだ。ここで呼ばれるのは二位だったということだ。
あれだけ自信満々で、実際にすごいのに、それでも一位を取れないのか。
トチェドを応援したい気持ちもあるが、ロドゥバの落胆振りにかわいそうだと思ってしまう。
「商会からお手紙という、ある意味意地悪な問題に対して〜、貴族的な定型文と装飾過多な文章だけではなく、事務的なやり取りに徹しようとした努力を認めますよ〜。
これでもう少し読みやすければ、完璧な一位でした~。同点一位25店です。おめでとう〜」
ロドゥバが顔を上げた。その目に光るものが見えた気がしたのは気のせいだろう。
ロドゥバはすぐにいつもの高慢さで高笑いした。
「オホ、オホホホホ! まあ一位は当然として、トチェドもなかなかやりますのね!」
「トチェドちゃんは、お手紙そのものに慣れればもっと良くなると思いますよ〜」
「はい、ありがとうございます!」
はにかんで同点一位を受け入れるトチェド、やったね!
「二人ともすごいね!」
「ありがとう」
「こ、これくらい出来て当然ですわ! わたくしは偉大なるヴェーシア侯爵家の娘。手紙は貴族の嗜みでしてよ!」
無駄に偉そうながらも、私にまで褒められたのが意外だったのか赤くなって挙動不審なロドゥバ。
それとも実は、褒められ慣れていないのか?
「お手紙についてはしっかり書けるようになりたいし、今度時間のある時に教えてくれると嬉しいな」
「…………わたくしに言っておりますの?」
トチェドと私を見比べて、不思議そうな顔でロドゥバが言った。私は笑いながら頷く。
「こないだ言ったでしょ? 平民でも約束は守ります。
ロドゥバ、教えてくださいお願いします」
「も、もも、もちろんよろしくってよ!」
私はロドゥバの事が嫌いだけれど、すごい所は素直にすごいと認めてやろう。
私だって、相手を正当に評価できる度量ってものを見せたいからね。
それが聖パトリルクス修道院の平和の秘訣だね!




