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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第四話【11人いる?】

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その07 語学の授業

 お茶の時間のあとは言語学の勉強である。

 大陸の言葉は主に二種類。西部語と東方語に分けられる。


 さらに細かく分けると地域ごとになまりがある。

 南方シートランはなまりが強く、帝国や北方はなまりが強くないらしい。しかし北方では独特の呼び名や言い回しがあるそうで、つまり地域によって誤差や違いがあるみたい。


 大陸内で言語が分かれていることに不思議はあるだろう。

 しかし、六色の世界龍の一頭『記憶の大渦 メモルプリカ』が人類に言葉を授けてから千年以上、言葉は変化するし、新しい言葉や流行り言葉なども生まれる。


 東西の言語分裂は、何百年も前にあった東西戦争の影響が大きいらしい。

 敵国に情報を奪われないために暗号や変形言葉を利用していった結果、東西で一部の言葉が変化していったとか。ちょっと信じがたいけど。


 語学の授業ではそういう歴史的な話はあまり触れない。二十年前の戦争のせいで、古い本とかはあまり残っていないからだ。私たちは良くも悪くも今の言語にしか触れられないのだ。

 なので勉強するのは主に現代帝国語。文法とか、単語の綴りとか、公文書の読み方とか、慣用句である。


 考えれば考えるほど貴族であるロドゥバが圧倒的に有利なのではと疑いたくなるのだが、だからって負けるわけには行かない。

 私はあの高慢ちきな『貴族様』の鼻をへし折ってやりたいのだ。


 あー、いや?

 ちょっと違うかもだな。


 数学やお仕事関係で、ロドゥバの鼻はベキベキだ。とすると、私が求めているのは調子に乗らせたくないことだ。

 そして、私は結構負けん気が強い。勝負事には負けたくない。

 

 地理で負けたのが悔しい。

 びっくりするくらい悔しい。


 負けてたまるか。はちみつもあるしね!


「はーい、今日と明日は語学を勉強して、明後日にテストをしますよ〜。

 といっても、まずはロドゥバちゃん、ヘアルトちゃん、エーコちゃんのレベルを確認しなければなりません〜」


 講師はいつでも眠そうに目を細めたおばあちゃん先生である。言語学は司書先生も教鞭を振るう事がある。主に古文でだからほとんどないけど。

 ふと思ったのだが、もしかして私は運動系なら圧勝なのでは? 護身術の授業ではチオットやトチェドに負けたことがないし、ロドゥバとヘアルトも簡単に制圧できることは実証済みだ。


 …………でも、ニカお姉さまやボゥお姉さまには手も足も出ないんだけどね。

 それに現実逃避をしてはだめだ。今は語学、語学が大事だ。


「それではとりあえず、お手紙を書きましょうか〜。季節の挨拶、本文、締めの文章まで。

 分からない所があったらどんどん聞いて下さいね〜」


「すいません。私は読む方はできますが、書く方は、その……」

「大丈夫ですよ〜、エーコちゃんの語学力は把握していますから〜。

 書きたいことを言ってもらえれば綴りを教えますからね」


 私は少し悩んでから取り掛かった。

正直に言ってお手紙なんて書いたことがない。

もしも書いたとしても、読ませる相手がいないのが実情だ。


 スグ村に家族は居るが、ほとんどの文字は読めないし返事も書けない。

 『貴族様』に付いて貴族学校に行った子の中には仲良しも居たけれど、残念ながら連絡先もわからない。


 だから、誰にというものではなく、なんとなくで書くしか無い。


「オホホホホ! 手紙ならばわたくしの独壇場ですわね! 定型文も作法もご存知でない無知な平民の皆さんにわたくしが特別に、ト・ク・ベ・ツに教えて差し上げてもよろしくってよ!」

「ロドゥバうるさい」


 ロドゥバうるさい。おおっと、口に出ていた。


「お嬢様は口も頭も悪くて差別主義者ですが、貴族社交界の礼儀作法とエチケットは驚く程に仕上がっておりますので、手紙ならば、マナー講師として招かれてもおかしくないレベルで完璧です」

「ヘアルト、褒めるのも程々にしておかないと嫌味というものですわ。オホホ、オホホホホ!」


 うるさい上に都合の良い耳をお持ちのご様子で。枕詞の罵倒は聞き漏らしたのか無視したのか、それとも言われ過ぎて気にならなくなったのか。


「面の皮の厚さには自信がありますが、やはりどの科目でもまるでタメなのは抵抗がございます。お嬢様、手前にご教示頂けませんか?」

「よろしくてよ!」


 チオットとトチェドを見ると、目が合った。二人とも不安そうに私を見ている。

 え? もしかして私が暴れ出す心配とかしてる?


「三日後のテストでボロ負けしたら、頭を下げてお願いしてもいいけど、今はまずは自分の力でやりたいから静かにしてくれる? 正直うるさいんだけど」

「む」


「ボクも、まずはやってみます。チオットさんは」

「は、はい……わ、私も……分からなかったら、その……先生に……」


「まあまあ、お好きになさい。わたくしに勝つなど百万年早かったと、負けてから後悔しても遅くってよ!」


 …………。

 苛つく。しかし、気を取り直して手紙だ手紙。まずは季節の挨拶だっけ?


『こんにちわ。|アーティバルの月(12月)になりましたね。

 毎日寒くて水が冷たくて大変。


 私と聖パトリルクス修道院は新たに人も増え、衝突することもありますが皆元気です。』


 挨拶はこれで、次は本文。

 本文? 本文……?


 よく分からない。何を書けばいいんだ?

 うーん、とりあえず両親宛てということにして……そしたら伝えたいことも何となくあるから……。


『今年の作物の出来はどうですか。

 今度、貯めているお給金を仕送りで送ります。何かの足しにして欲しいです。


 来年も雪解けの頃には一度帰ると思います。

 あなた方の娘 イウノ』


 …………こんな感じか?

 うーん、文法も作法もよく分からない。


 とりあえず可能な限り口語にならないようにしたけど、上手くできたか不安しか無い。

 でも、ロドゥバには頼りたくない。


 こうなったら自由時間は手紙の書き方や作法について図書室で自習だな!


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