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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第四話【11人いる?】

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その06 事情聴取

「チオットちゃん、食料棚のはちみつ見た? あれでおやつ作るならやっぱり陰の曜日かな」


 今日の午前中は、動物たちの寝床代わりにする干し草作りだった。

 修道院の東、野原側は人家がなく好き放題に荒れている。そこからいい感じの草を刈りまくって、家畜小屋に積んで乾燥させるのだ。


 鎌で草を刈り、背負子に放り込みながら、チオットに話しかける。

 正直言って泥棒とかありえないと思っているので、遠回しに聞く必要もない。


「はちみつ、まだ残ってた? じゃあ……ええと、やっぱり週末かな……エーコちゃんは、その、何か食べたいお菓子とかある?」


 エーコちゃんの教育係を任されたチオットは、彼女なりにがんばってエーコちゃんに話しかけていた。

 馴れない草刈りに四苦八苦していたエーコちゃんは、一瞬悩んだあとおずおずと口を開いた。


「レンバ……いえ、私の故郷のお菓子が作れますか?」

「ハインラティアの? へえ、気になるね」


 雰囲気から言ってこの二人は関与していないな。私はそう判断した。だがそれはともかくエーコちゃんの故郷のお菓子は興味があった。


「甘い樹液でナッツ類を固めて作るのですが」

「ええと……はちみつで、上手くできるかわからないけど……試してみるね」


 蜜で固めたナッツ、大変おいしそうだ。

 最初に口にしかけたのはお菓子の名前かな? どこかで聞き覚えがあるようなないような……。


「うーん……はちみつを、ちょっと煮詰めて……飴状に」

「鍋に焦げ付いちゃいそうだね」

「故郷では、大きな葉に包んでいました」


 鍋底に葉を置いて、鍋に焦げ付かないように水分を飛ばして行けばあるいは……?

 そんな大きな葉っぱ、このあたりにあっただろうか? いや、ちょっと、考えて思い出す。


 沼の当たりにかなり大きな葉っぱがある。


「大きな葉っぱには心当たりがあるから、今度ボゥお姉さまと取りに行ってみるよ」

「お、お願い」


 チオットに笑いかけながら、私はエーコちゃんの顔が一瞬だけ翳ったことを見逃さなかった。

 ボゥお姉さまの名前を出した時だ。昨日は普通に接していたのに。何かあったのだろうか。


 …………だが、考えてどうにかなることとも思えない。

 

「ウフフのフー、ロドゥバは足腰が弱すぎではありません? まだ一籠もいっぱいになっておりませんのに音を上げるなんて根性なしにも程がございませんか?」

「ぐ、ぐぬぬ……わ、わたくしは高貴なる貴族……姿勢正しくあなた達平民に指示をするのが仕事であって、指示を受けて肉体労働に励むのは貴族のあり方ではございませんわ……!」


 少し離れた所に、中腰の作業に耐えられないロドゥバを煽るヘアルトがいた。

 私は小さく嘆息した。ロドゥバは時々はヘアルトに反論するようになっていた。二人の仲はいいのか悪いのかよく分からない。だが、まあ、最初よりはいいんじゃないかな?


 しかしそれでも、ヘアルトの嫌味は聞いていて楽しいものではない。

 二人は極力接触させないのがニカお姉さまと私の判断だったのだが。


「こらヘアルト!」

「あらあらあらロドゥバったら、手下のはずの元メイドにいじめられている所を平民に庇われてよろしゅうございましたね。どんな気分です? みじめですよね?」

「黙りなさい、わたくしは貴族なのですよ!」


 私が入ると余計こじれる。

 周囲にニカお姉さまの姿はない。普段はヘアルトが余計なことをしないように見張ってくれているというのに。


 今日に限って。

 …………何かあるのかな?



 干し草を片付けてお茶の時間、この所続いていた晴天だが、今日は空に雲が多い。

 雨が降ると湿気るから面倒だ。石造りの修道院は湿気が多い。洗濯物も干し草も薬湯用の野草も乾かない。

 まさにいいこと無しである。


「曇ってきましたね」

「幼年学校の間保ってくれただけでも御の字だろ」


 草刈りに思いの外時間がかかったので、今日の薬湯は院長先生が入れてくれていた。


「苦っ」「えぐっ」

「な、なんですの、これ……舌がピリピリきますわ!」

「キヒヒヒヒヒヒ!」


 院長先生は適当に目についた葉っぱを分量も出し方も気にせず煮出すのでしばしばこうなる。

 指差して魔女笑いの院長先生。絶対楽しんでる。


「あ、院長先生。残ってたはちみつ入れます?」

「いや、苦いのは苦いので目が覚めるってもンさね」


「せめて薄めましょう。これは苦すぎますよ」

「アタシゃこのままでいいぜ」


 院長先生も無関係だ。すると、やはりはちみつを隠したのはニカお姉さまということになるだろう。

 ではなぜ、何が目的だろうか。


 考えてみるが、答えは出ない。そもそも私は賢い人間ではない。所詮は農家の娘なのだ。

 

 ならば、もっとシンプルに考えるべきだろう。つまり、はちみつを隠すなんて、はちみつが食べたいから。

 いやー、ごめん無い無い。ニカお姉さまに限ってそんな卑しい理由で動くとは思えない。


 では、なぜ? そもそもはちみつを隠して誰が困る? この件で何が起きている?

 私意外誰も問題に気付いてすらいない。

 私だけが思い悩み、奔走している。


 つまり私以外にとっては事件の一つも起きていないも同然で……。


「そういうことか」


 ニカお姉さまの目論見を、私は理解した。


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