その05 11人
さて。せっかくなので聖パトリルクス修道院の十一人をおさらいしよう。
まずは院長先生。
背が高くて鷲鼻、魔女みたいな顔と笑い方、性格も魔女みたいなおばあちゃん。
お酒も好きだが甘いものも好き。でもはちみつを独り占めにするような性格ではない。
みんなのことを一番に考えてくれる性格だ。
次におばあちゃん先生。
背が低くてぽっちゃりぎみ、いつも眠そうでにこにこしてる、とっても優しい先生だ。
ちょっぴり足が悪いし、いつも動きがゆっくりで、厨房にいるのを見たことがない。
そして司書先生。
栗色の髪と瞳の本の虫、宵っびきだから夜中にウロウロしていることもある。というか、一人で夜間の見回りをしているらしい。
厨房に出入りしていてもおかしくはないけど、はちみつは手が汚れるし本も汚れるから嫌がりそうかな。
以上が先生、続いてお姉さま方。
青い目でいつも朗らか、お茶目なニカトールお姉さま。時々何考えているのかわからないけれど、まあ多分、考えがあってのことなのだろう。
最有力容疑者。
身体が大きくてベールで顔を隠したボゥお姉さま。
喋れないし自己主張も少ないけど、甘いものが好きなのは確実。だからって勝手にはちみつを持っていくとは思えない。
最後に見習い。
ちなみに先生とお姉さまと見習いは、教育関係の立場の違い。
ものを教える立場が先生で、教わる立場が見習い。
お姉さま方は基本的な学習は済んでいるので教わらない立場。
ボゥお姉さまは喋れないからどうしようもないけれど、ニカお姉さまは先生側に回ることも考えて勉強してるらしい。
では気を取り直して、見習い六人に戻ろう。
まずは私の、イウノ。
わざわざ説明する必要もあるまい。私だ。そばかす面に寸胴体型の地味な小娘である。はちみつは盗んでいない。
次にチオット。ピンクの髪に赤い瞳のとっても可愛い私の同僚。
本人の話によると『タピルス』という種族らしい。
本で調べたら、『獏』は六色の世界龍の一頭『記憶の大渦 メモルプリカ』の大天使『帳の乙女 リムエロ』の眷属で、夢とか夜に関係する種族が自分等を呼ぶ時の呼称だった。
その本には種族名は『夢歩き』とあった。人間には『夢魔』とか『淫魔』と呼ばれる事もあるらしい。そっちは『吸血鬼』みたいなもので、あまり友好的な呼び方じゃないので、少なくとも私は使わないことに決めた。
で、チオットがはちみつを隠すようなことだが……あり得る。
チオットはおやつを作ることが多い。早めに確保しておいただけかもしれない。
続くトチェド、『貴族様』だけど控えめで、偉ぶらない子。
彼女に関してもあり得ないだろう。何しろはちみつ自体、トチェドの家が寄付金と一緒に送ってきた嗜好品だ。欲しければそちらに頼むだろうし、そもそもトチェドが食べ物に執着しているのを見たことがない。
さて、残るはロドゥバとヘアルト。ダブル問題児である。しかし、あの二人に限ってはちみつ泥棒はないだろう。
今まで話題にするタイミングがなかったが、ロドゥバは食事にうるさい。
いつもうるさいけど食事時はことさらうるさい。
「こんな固いパンは食べたことがありませんわ。食感も香りもよくありませんけれど何を使ってますの? え? 大麦? 麦に種類がございましたの?」
「なんですのこのお肉、吐き気がするほど獣臭い上に噛み切れないような固さ、信じられませんわ」
「山羊の乳はどうしてこんなにも臭味が強いのですの? 人の食べるものとは思えませんわ」
毎食毎食飽きずにそんな調子なので閉口しているのだが、それでも他に食べるものがない以上、ロドゥバも文句タラタラで食べている。
そのロドゥバが盗み食いをするとは……待てよ。甘いお菓子には文句を言っているのを見たことがないな。
でもやっぱり、あのプライドが服を着ているようなロドゥバだ。ないない。
ヘアルト、ハシバミ色の髪と瞳の元メイド。ちょっと性格に難があって……いや、すごく難がある。
男の子が好きで仕方がないらしい。フケツ。
彼女の食べ物の趣味は正直分からない。ロドゥバの文句に嫌味を言うのが趣味みたいなものなので、好き嫌いを言い出すタイミングが無いだけかもしれない。
最後にエーコちゃん。銀色の髪に緑の瞳の大人びた少女。
彼女に関しては。未知数だ。聖パトリルクス修道院に至るまで、どんな苦難に合ってきたのか想像に難い。
私が金貨に誘惑されたように、彼女がはちみつという甘い誘惑に負けたとしても、誰が責められようか。
さて、そんなこんなで要約すると以下の三点になる。
一つ目。
やっぱり怪しいのはニカお姉さま。
二つ目。
チオットと院長先生に確認を取るべき。
三つ目。
エーコちゃんにそれとなく探りをいれる。
午前中に片が付けばいいんだけれど。




