表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第四話【11人いる?】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/117

その04 犯人捜し


「な、ない……はちみつが、ない!」


 翌朝、当番になった私は一通りのお勤めを済ませて、朝食の準備をするべく食料棚のある小部屋に入った。

 朝食は前日の残りと卵料理という構成が極めて多い。今日もその予定であり、昨晩のスープと乾パンの卵焼き予定だった。

 

 乾パンとは、まあ乾燥したパンだ。薄くてよく焼いた大麦のパンを、さらによく干した保存食である。

 湿気に弱いが長持ちするので、冬の蓄えとして重宝する。重宝するが、幼年学校で頂いたのは冬用のものだけではない。


 かなり古くて石みたいなパンも贈られたのだ。

 これらはそれぞれの村でもしもの蓄えとして用意されていた保存食で、早い話が一年もの。普通に食べようにも歯が立たない品物である。


 だが、普通には食べれなくても、加工すれば食べられる。


 まずは表面にカビが生えていないかを確認し、カビがあったらこそげ落とす。

 そして木槌で適切なサイズに砕き、いずれかの手段で食べれるように加工する。


 基本の加工手段は三つ。


 一つ目。

 スープで煮込む。


 二つ目。

 砕いておかゆにする。


 三つ目。

 ミルクと卵液に漬け込んで焼く。


 本日はその三番目を予定していた。昨晩のうちに乾パンは砕いてあった。

 そんな訳で私は家畜小屋から回収した卵を手早く割って山羊乳と混ぜ合わせ、砕いた乾パンを回収しに小部屋に入って愕然としたのだ。


 はちみつがなくなっている……!?


 昨日、最後にはちみつを確認したのはいつだ。エーコちゃんと野草を干した後、私はその場で乾パンを割った。

 その後にこの食料庫に入るのは、夕飯陶板のニカお姉さま。


 その後に厨房に入ったのは、湯浴みをした院長先生、おばあちゃん先生、ボゥお姉さま。

 夕飯後、お勉強のために図書室にいた。


 当然その時に食料棚の確認なんてしない。誰がはちみつを動かしたのかは分からない。


 …………だが。落ち着け私。


 はちみつが『なくなった』というのはただの勘違いかもしれない。

 たとえば、ニカお姉さまが移動したとかもあり得ることだ。


 まずはお姉さまに確認だ。事を荒げる必要はない。



「はちみつの壺? ああ、あったわよ。昨日の晩ごはん作る時にお姉さん確認したもの。

 それが、ない? ないの? へえ、ふーん……それは困るわね。どうしようかしらね……」


 朝ご飯のあとにこっそり説明すると、ニカお姉さまは思わせぶりな言い方で考え込んだ。

 あった。あったのか。私は困惑する。しかもニカお姉さまは移動していない様子だ。


「先生方に確認してみますか?」

「誰かが誰も見ていない隙をついてはちみつを隠したのかもしれないわよ?」


「ええ……?」

「犯人が誰なのかわからないわ。もしかしたら私かもしれない。修道院内の全員が容疑者になりうるわ」


 私は嘆息した。ニカお姉さまは時々こういった訳のわからないことを言い出す。


「つまり何人? エーコちゃんが入ったから十一人いる? そう、容疑者は十一人いるのよ」

「本気で言ってますか?」

「お姉さんはいつでも本気よ」


 ふーむ。私は考え込んだ。相談する相手を間違えた訳ではない。ニカお姉さまは極めて聡明な人だ。

 だからこれは無意味な冗談とは思えない。熟慮するべきことなのだろう。


「分かりました調べてみます。でもニカお姉さま。二つ気になることがあります」

「なにかしら?」

「一つ目、はちみつの事を誰が知っているのか」

「目の付け所がいいわね。お姉さん感心しちゃう」


 腕を組んで頷くニカお姉さま。

 私はその顔面にピシリと指を突きつけた。


「では現在最有力候補はニカお姉さまです! はちみつをどこにやったんですか!?」

「えー? 証拠は?」


「最後にはちみつを確認したのはニカお姉さまで、その後誰も見ていない。料理係だったお姉さまはいつでも隠せましたよね?

 そもそもはちみつのことは限られた人しか知らないかもしれない。なのにニカお姉さまは容疑者を全員だと断言し、私を煙に巻こうとしてます」


 消去法とか物的証拠とかはなくとも、ニカお姉さまはあからさまに怪しすぎる。

 現に私の突き付けた指と論理に、ニカお姉さまは全く動じることなく朗らかに笑っていた。


「面白い推理だねイウノ、お姉さん感心しちゃうなー。でも、その推理には一つだけ大きな穴があるよ」

「ニカお姉さまが本気ではちみつをひとり占めする気ならば、『壺の中身は空っぽだったから片付けた』とか『院長先生が持って行っちゃった』とか言いますよね?」


 私の指摘にニカお姉さまは目を丸くして、すぐに今まで以上の満面の笑みで頷いた。


「イウノが賢くてお姉さん嬉しいな」

「とりあえず、午前中のお仕事があるので今の所はここまでにしましょう。でも証拠は無理ですよニカお姉さま。あんな片手で持てる壺なんて、その気になればどこにでも隠せますし」

「そうね、ちょっといじわる過ぎたかしら?」


 テスト勉強もしなきゃいけないんだけれど、だからってニカお姉さまを無碍にもできない。

 なにより、お楽しみが多いほうが私のやる気も出るってものだ。はちみつはちみつ。


「何かしら考えてみます」

「ぇっへへ、あんまり真面目にやらなくていいからね」

「はーい」


 それじゃあ、どうしようかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ