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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第四話【11人いる?】

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30/117

その03 結果


 結果発表である。


 イウノ パス5

 チオット パス2

 トチェド パス7

 ロドゥバ パス3

 ヘアルト パス18


「ま、負けた……」

「なんて、なんという事ですの……わたくしが、地理問題で平民ごときに……」


 二人仲良く肩を落とす私とロドゥバ。仲良くはありません!

 チオットの勝因は、おばあちゃん先生や商人の噂話を覚えていたから。ひっこみじあんなのに、むしろだからこそ、人の話には敏感なのだ。


「やっぱりチオットさんもイウノさんもすごいですね」

「トチェドさんは、その……語学分野が、強いですから」


 トチェドに勝てたのは嬉しいし、チオットに敵わないのも分かっていたけども……ロドゥバに負けるとは。

 ぐぬぬぬぬ……数学では圧勝だったのだ。現在一勝一敗の形になる。


「は〜い。お疲れ様でした。チオットちゃんすごいわね〜。ロドゥバちゃんは惜しかったですね。

 問題をオールガス帝国内だけに絞っていたら、結果は違っていたかもしれませんね〜」


 そう、忸怩たるものがあれど認めなければならない。

 ロドゥバの成績優秀は吹かしではなかった。少なくとも帝国内の地理や、貴族家の分布には本当に詳しい。


「なかなか見応えのある勝負でしたねエーコさん」

「ヘアルトさんは観客みたいな言い方をされますね。この修道院の教育レベルの高さに驚かされました」


 完全に他人事というか、当事者気分が皆無のヘアルトと、冷静なエーコちゃん。


「先生、明日も問題をお願いしてもよろしいかしら?」

「ちょっと難しいですね〜。テストは週二回くらいにしましょう。次は林の曜日でいいかしら?」


 つまり、三日後だ。

 私は胸に重い敗北感を無理矢理に飲み込んだ。そして極力平静な声を出す。


「次は何のテストにします? 語学? 歴史?」

「では次は語学にしましょうね〜」


 私は見た。敗北に震えていたロドゥバの目がギラリと輝くその瞬間を。

 こ、コイツ……語学ならば自信ありとか思っているな……?


 負けてたまるか。私は強い敵愾心と共に勉強を誓った。




 誓った、誓ったが今日の午後の自由時間は、久しぶりに野草摘みに行く予定だった。

 幼年学校の間は行けなかったのだ。久しぶりのお楽しみである。


「エーコちゃん、今から森に野草を積みに行くけど、一緒に行く?」

「野草……ですか?」


「乾燥させたり煮たりして薬湯にしてるの、私の趣味で」

「…………ご一緒しても?」

「エーコちゃんが興味あるなら」


 野草摘みは、修道院の外に出るという意味で開放感のある趣味だ。

 私は籠を背負って、門の前にいたボゥお姉さまと合流する。


「…………ッ?」

「エーコちゃんも一緒に行こうと思います」

「…………」


 ボゥお姉さまは喋ることができないし、ベールで顔も隠しているため、一見すると意思疎通が難しく見える。

 しかし実際には意外とわかりやすい。感情が動きに出るのだ。


 そのボゥお姉さまが、エーコちゃんを見て困惑していた。普段は子供に大人気で、子供好きなボゥお姉さま。

 首を傾げる私に、ボゥお姉さまは頭を振る。


「歓迎されていませんか」

「そういう訳じゃないけど……今日は森まで行くのはやめておきますか?」


 森に行くにはもはや使われていない旧街道沿いに少し歩く。と言っても四半刻も歩かない。

 途中には荒野のススキ野原が広がっている。野草を摘むだけならそこいらでも十分だ。


 僅かに躊躇した後に、再び頭を振るボゥお姉さま。私とエーコちゃん、目を配る相手が増えて不安とかそういうわけでもなさそうだ。


「………………」

「足は短いですが、大人の速さに合わせるのは慣れています。行きましょう」


 そんなこんなで私達は森まで歩き、ボゥお姉さまがうさぎと中型の鳥を仕留めた。

 エーコちゃんは野草よりも狩りに興味があるようで、ボゥお姉さまを見ながら何度か腰のあたりの何かを探る動作をしていた。


「エーコちゃん、狩人の家の子だった?」

「…………なぜそう思いましたか?」

「なんとなく」


 エーコちゃんが腰を探るのは、森の中で鳥などを見ながらだった。私には矢を探っているように見えたのだ。

 だが、そんな風に習慣化するには、エーコちゃんは幼すぎる。弓を持たせるのは十歳でも幼かろう。


 私とエーコちゃんが雑談する間も、どことなく緊張したボゥお姉さま。

 今日の獲物は少し小さい。十一人分の夕飯にするにはちょっと足りない。


「子供たちも居なくなったし、また部屋に荷物を広げようかな!」


 厨房の脇の小部屋は半分が冬を越すための食料庫になる。私は残りのスペースに縄を張り、野草を干していく。こっちは私のお楽しみスペースだ。


「そうして乾燥したものが『薬湯』になるのですね」

「そうだよ、ものによっては炙ったりもするけどね」


 食料棚に野菜や塩漬け肉、乾パンを並べて、足元を整理。

 その中にあった壺を見て私は目を輝かせた。


「あ! はちみつ! 一壺余ってるじゃない。やったねエーコちゃん、どっかで甘いおやつが出るよ」


 砂糖は南方のシートランからの輸入品で高価だ。基本的に帝国内で甘味と言ったらはちみつになる。


「甘いものはいいですね、楽しみです」

「だよね〜」


 私は食料棚の目立つ所にはちみつの壺を置いた。

 恐らく甘いおやつが出てくるのは週末の休養日、陰の曜日だろう。


 一週間は光風林火山陰の六日間。週に二回のテスト。そして、テストはお茶の時間の後だ。

 つまり……次回の語学のテストで一番を取ると、はちみつのおやつで一番大きいのを選べるかもしれない。


 おやおや、これは!

 俄然やる気が出てきたかも。


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