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聖パトリルクス修道院は今日も平和!  作者: 運果 尽ク乃
第三話【マージナル】

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23/117

その05 類似

 幼年学校も五日目。今日と明日でおしまいである。



「昨日は珍しかったね」

「え?」

「ほら、湯浴みの時間に鉢合わせすることってあまりないから」


 朝食の後、私は何気なさを装ってトチェドに話しかけた。

 朝食の時から様子を見ていたが、トチェドは明らかに挙動不審だった。目の下に隈を作って、なんだか赤い顔でチラチラとチオットを伺っていた。


 私は幼少組にお勉強を教える関係で、当たり前のように話しかけられる。昨日の事も雑談の流れで言えるってもんだ。


「き、昨日は……運動会がありましたから……身体を清めたくて」

「なんだ、言ってくれればよかったのに」


 トチェドは多額の寄付金を出している関係で、自室での湯浴みを許されている。

 お湯は担当の誰かが彼女の部屋に運ぶのだ。主に力持ちのボゥお姉さまになるけれど。


「皆さん疲れてますでしょうし」

「だったら一緒すればよかったね」

「!!!?」


 真っ赤になって口元を覆うトチェド、過剰な反応。


「チオットがさ」

「は、はい」


 さらに赤くなるトチェド。リンゴみたいになってしまった。目が泳ぎ、トイレを我慢してるかのように落ち着きがない。


「大きな声出しちゃったことを気にしてたよ」

「あ……」


 私の知ってるトチェドは、とても素直で誠実な人間だ。

 現に今も血の気が引き、困ったように目を伏せている。感情が顔に出ている。


 トチェド自身も謝りたいのだろう。後ろめたいのだろう。


「気にしてないなら、後で話しかけたげてよ」

「…………はい」


 またも真っ赤になってもじもじするトチェド。二人は大丈夫そうだ。私は安堵した。

 恐らくトチェドも、なにか人には言えない秘密がある。そしてきっと、チオットに見られたと思い込んでの反応だったのだろう。


 私はそれを追求する気はまったくない。チオットからは何もなかったし、トチェドの反応からもなさそうだ。

 お互い何も見ていないならそれでいいではないか。


 男の子がどうとかいうヘアルトの言うことになど、耳を貸す必要はない。

 チオットは今は朝食の片付けに忙しそうだし、午後にでも伝えれば不安を解消できるだろう。


 私は勝手に納得した。それがチオットをないがしろにしているとは考えなかったし、なんとなく顔を合わせるのは気まずかったのだ。

 


 午前中の算数が終わり、ふと思いついて私はソバ村の子たちに声をかけた。

 エーコちゃんのことを知るべきだ。彼女がなぜ伝説の暗殺者アクリスを探しているのか。どこからそんな事を聞きつけたのか、興味がある。


「ねえねえ、エーコちゃんて誰かの親戚?」

「ちがうよ」「エーコは、たいひやさんときたの」「どっかにいきたいとかだって」


 子供たちの情報はなんとも曖昧な事が多い。自分の知りたいことと言いたいことしか話してくれないからだ。

 しかし、ソバ村の子供たちにとってもエーコちゃんは注目の的のようで、次々に情報が集まってくる。


「まおうからにげてきたの!」「かっこいい服きてた」「さむいとこにすんでたんだって」


 堆肥屋さんと来た? どこかに行きたい?

 寒い所から逃げてきた?


 北の『冬の魔王』から逃げてきた難民なのかもしれない。チオットみたいに。


「親御さんは?」

「ひとりなの」「いないよ」


 予想はしていたが、それでもは困惑するしか無い。あんな小さい子が、一人で?

 昨晩のチオットの話を思い出す。親とはぐれたのか? だとしたら、なぜ親ではなく伝説の暗殺者なんて探しているの?


「…………そっか、ありがとうね」

「はーい!」「「おやつー!」


 子供たちを見送って、私は慄然としながらエーコちゃんのことを考えた。

 びっくりするほどチオットに似ている。私が知らないだけで、外ではこういう事はありふれているのかもしれない。


 私が聖パトリルクス修道院に入ったのは十歳。それより前から居たチオット。

 彼女も、今のエーコちゃんぐらいの年齢の時に一人孤独に帝国をさまよったのだ。


 どれだけ寂しく、心細かっただろう。

 それは同様にエーコちゃんにも言えることだ。修道院暮らしの私では、親を探してあげることはできない。


 しかし、安全な宿を提供すること程度ならできるだろう。

 彼女のことを調べるべきだ。そして彼女自身も望むなら、修道院に入れるように院長先生に相談をしなければ。


 しかし……なぜアクリスなのだ? 少女暗殺者アクリス。成長の止まった小さな殺し屋。

 何十年も前の人物を、なぜ今更になって探すのか。


 私は、剣呑な想像しかできなかった。

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